Georges Delerue
フランス映画のナンバー・ワン・コンポーザーは、ミシェル・ルグランでもなく、フランシス・レイでもなくこの方、ジョルジュ・ドルリュー。かつてのフランスでは、「観客はドルリューを聴くために劇場へ足を運ぶ」とまで評されるほど、ドルリューの創り出す美しく洗練されたサウンドはフランス国民から愛されていたそうです。
あのミシェル・ルグランさえも『あの人は最高の作曲家』と言わしめる作曲家は恐らくこのドルリュー以外には存在しないでしょう。 フランス映画のナンバー・ワン・コンポーザーは、ミシェル・ルグランでもなく、フランシス・レイでもなくこの方、ジョルジュ・ドルリュー。かつてのフランスでは、「観客はドルリューを聴くために劇場へ足を運ぶ」とまで評されるほど、ドルリューの創り出す美しく洗練されたサウンドはフランス国民から愛されていたそうです。
あのミシェル・ルグランさえも『あの人は最高の作曲家』と言わしめる作曲家は恐らくこのドルリュー以外には存在しないでしょう。
”ピアニストを撃て”、”突然炎のごとく”などのトリュフォー監督作品から、”軽蔑”、”まぼろしの市街戦”などなど、フランス映画史における重要作ばかり、膨大な作品を手掛けていながらも、これ程音源がCD化されていない作曲家もまたおらず、流石に今のCD世代のリスナーにはあまり存在を知られていないというさみしい現状もあります。フランスには、ルグラン、レイ、そしてこのドルリューという素晴らしいコンポーザーがいることを、少しでも多くの方に知って頂ければと思います。それでは生い立ちから触れてみたいと思います。
Delerue, George (ジョルジュ・ドルリュー) 1925年3月12日生-1992年3月20没
ルグランやレイのように、音楽環境に恵まれた環境ではなく、幼いころから音楽に親しんではいなかったドルリューは、地元の学校を卒業後、名門と名高いパリの音楽院に入学してから音楽に関わる...という、コンポーザーとしては稀な遅いスタートをきっている。そのパリ音楽院で、フランス現代音楽の第一人者であり、また映画音楽を何作か手掛けていた作曲家ダリウス・ミヨーに師事。ミヨーから指揮、作曲法を学んだドルリューは音楽院を卒業後、フランス国立放送局管弦楽団の指揮者として7年近く常任し、TVドラマ音楽の分野で目覚ましい活躍をみせた。
音楽院在学中の時から、ミヨーにフィルム・コンポーザーの道を勧められていたドルリューは、TV番組で活躍後、映画音楽への道を進んでいった。第一作を制作したのは、1953年、以降、ドルリューは100本以上にも及ぶ短編映画の音楽を制作し、この時にアニエス・ヴァルダ監督(ジャック・ドゥミ監督の妻)や、アラン・レネ監督(ヌーヴェル・ヴァーグの旗手)、ピエール・カスト監督らと知り合い、1958年、遂に長編第一作目”青年期”(ピエール・カスト監督作品)、二作目”二十四時間の情事”(アラン・レネ監督)を制作している。
その後の1960年~1970年代にかけてのドルリュー作品は、どれも輝きに満ちたものばかりで、今聴いても色褪せていないサウンドがそこはありました。ドルリューと言えば、トリュフォー監督作品において秀作ばかりを残していますが、トリュフォー監督作品の前に、フィリップ・ド・ブロカ監督作品におけるドルリューのスコアについて触れたいと思います。
”二十四時間の情事”の次に担当したのが、フィリップ・ド・ブロカ監督のデビュー作にあたる”恋くらべ”。この作品をきっかけにブロカ監督とも1980年代後半までコラボレイトを続けています。ブロカ監督作品では、”まぼろしの市街戦”(1967年)、”大盗賊”(1961年)、”リオの男”(1963年)、”カトマンズの男”などが代表作。『メロディの魔術師』とでも言いたくなるような、美しいメロディーを描いており、美しいメロディを描く作曲家は多くいれど、ドルリューのメロディには度肝を抜かれるほどの、言葉では表現しがたい美しさと、どことなく陽気な感があるのです。
余談はこのくらいで次へ進みます。1960年代に入って、フランソワ・トリュフォー監督の”ピアニストを撃て”を手掛けたとクレジットされていますが、実際のところジャン・コンスタンタン(”大人は判ってくれない”)が描いたとも言われている1作。この作品をきっかけにトリュフォー&ドルリューで数々の佳作を生み出す。その翌年の1961年、ブロカ監督の”大盗賊”と同年に”突然炎のごとく”、そして1962年に”二十歳の恋”と、トリュフォー監督作品が3作続く。”突然炎のごとく”では、何とも言えないロマンチックな雰囲気に仕立て、感情をまさにサウンドでそのまま表現したリアルさを感じられるドルリューの最高傑作のうちの一つとして特筆しておきたい。
トリュフォー監督とは、それ以外にも”柔らかい肌”(1964年)、”恋のエチュード”(1971年)、”私のように美しい娘”(1972年)、”逃げ去る恋”(1978年)などがあるが、1982年の"日曜日が待ち遠しい"を最後に1984年トリュフォー監督の死によってこの素晴らしいコラボレイトの幕は閉じられてしまった。
トリュフォー、ブロカ監督以外でも素晴らしい作品を残している。フランスでは、ルイ・マル監督の代表作”ビバ!マリア”や、音楽に拘りを持つジャン・リュック・ゴダール監督の”軽蔑”など。そしてイタリアのベルトリッチ監督、イギリスのケン・ラッセル監督など世界中の監督からオファーを受けるほどだった。
1980年代以降は、世界で注目されはじめた時期だったせいか、特に目立ったコラボレイト作品はなく、オファーが来た作品をこなしていった、といった感じだろうか。1979年の”リトル・ロマンス”で、初のアカデミー賞を受賞し、その後も”フォーエヴァー・フレンズ”、”マグノリアの花たち”などハリウッド映画を手掛けるが1992年3月20日、ハリウッドにて死去。
現在、ドルリューのスコアは、”リトル・ロマンス”と”フォーエヴァー・フレンズ”、”イルカの日”、”プラトーン””愛と戦火の大地”の僅か5作のみ、という何とも悲しい状態ですが、ヨーロッパ映画サントラはこういった運命にあるものです。代表作はコンピレーションで聴くことが出来るので是非、ドルリューのサウンドを感じてみて頂ければと思います。
作品群一覧
1959年
Hiroshima, Mon Amour ”二十四時間の情事”
Marche ou Creve ”やるかくたばるか” Georges Lautner
Classe tous Risques ”墓場なき野郎ども” Claude Sautet
1960年
La Francaise et l'Amour ”フランス女性と恋愛” Jean-Paul Le Chanois
Tirez Sur Le Pianiste ”ピアニストを撃て” Francois Truffaut
Le Farceur ”道化者” Philippe De Broca
Une Aussie Longue Absence ”かくも長き不在” Henri Colpi
La Morte Saison des Amours Pierre Kast
Par-dessus le Mur Jean-Paul Le Chanois
L'Affaire Nina B Robert Siodmak
L'Amant de Cing Jours Philippe De Broca
Arrettez les Tambours Georges Lautner
La Recreation Francois Moreuil
La Mort de Belle Edouard Molinaro
Les Grandes Personnes ”さよならパリ” Jean Valere
1961年
En Plein Cirage Georges Lautner
Jules Et Jim ”突然炎のごとく” Francois Truffaut
Le Petit Garcon De l'Ascensur Pierre Granier-Deferre
Cartouche ”大盗賊” Philippe De Broca
Un Coeur gros comme ca Francois Reichenbach
La Crime ne Paie pas ”悪い女” Gerard Oury
1962年
L'Amour a Vingt Ans ”二十歳の恋” Francois Truffaut, Marcel Ophuls
Palissades Guy Potignat
Le Bosphore Maurice Pialat
Le Bonheur Est pour Demain Henri Fabiani
Rififi a Tokyo Jacques Deray
L'Abominable Homme des Douanes Marc Allegret
Jusqu'au Bout du Monde ”明日に太陽を” Francois Villiers
L'Immortelle Alain Robbe-Grillet
Le Monte-Charge ”夜のエレベーター” Marcel Bluwal
L'Aine des Ferchaux ”フェルショー家の長男” Jean-Pierre Melville
1963年
Chair de Poule ”めんどりの肉” Julien Duvivier
Le Mepris ”軽蔑” Jean-Luc Godard
L'Homme de Rio ”リオの男” Philippe De Broca
Le Journal d'un Fou Roger Coggio
Nunca Pasa Nada Juan-Antonio Bardem
Des Pissenlits Par la Racine Georges Lautner
Cent Mille Dollars au Soleil ”太陽の下の10万ドル” Henri Verneuil
Vacances Partugaises Pierre Kast
Muriel ou le Temps d'un Retour ”ミュリエル” Alain Resnais
La Peau Douce ”柔らかい肌” Francois Truffaut
1964年
French Dressing ”フレンチ・ドレッシング” Ken Russel
Le Corniaud ”大追跡” Gerard Oury
L'Insourmis ”さすらいの狼” Alain Cavalier
Mata-Hari,Agent H21 ”マタハリ” Jean-Louis Richard *
Un Monsieur de Compagnie ”ピストン野郎” Philippe De Broca
1965年
Pleins Feux sur Stanislas Jean-Charles Dudrumet
Rapture ”カモメの城” John Guillermin
Les Tribulations d'un Chinois en Chine ”カトマンズの男”
Viva Maria! ”ビバ!マリア” Louis Malle
1966年
Le Roi de Coeur ”まぼろしの市街戦” Philippe De Broca
A Man For All Seasons ”わが命つきるとも” Fred Zinnemann
1968年
Interlude ”しのび逢い” Kevin Billigton
1969年
Les Caprices de Marie ”君に愛の月影を” Philippe De Broca
Anne of a Thousand Days ”1000日のアン” Charles Jarrot
A Walk With Love and Death ”愛と死の果てるまで” John Huston
La Promesse de I'Aube ”夜明けの約束” Jules Dassin
Il Conformista ”暗殺の森” Bernardo Bertolucci
1970年
The Horsemen ”ホースメン” John Frankenheimer
1971年
Les Deux Anglaises st le Continent ”恋のエチュード” Francois Truffaut
Une Belle Fille comme Moi ”私のように美しい娘” Francois Truffaut
1972年
La Nuit Americaine ”アメリカの夜” Francois Truffaut
1973年
The Day of the Dolphin ”イルカの日” Mike Nichols
1975年
L'Incorrigible ”ベルモントの怪盗二十面相” Philippe De Broca
1976年
Comme un Boomerang ”ブーメランのように” Jose Giovani
Julia ”ジュリア” Fred Zinnemann
1977年
Preparez vos Mouchoirs ”ハンカチのご用意を” Bertrand Blier
1978年
L'Amour en Fuite ”逃げ去る恋” Francois Truffaut
Le Cavaleur Philippe De Broca
1979年
A Little Romance ”リトルロマンス” George Roy Hill
1980年
Le Dernier Metro ”終電車” Francois Truffaut
1981年
True Confessions ”告白” Ulu Grosbard
1982年
Partners ”パートナーズ”
Something Wicked this Way Comes Jack Clayton
Liberty Belle Pascal Kane
1983年
L'Ete Meurtrier ”殺意の夏” Jean Becker
Silkwood ”シルクウッド” Mike Nichols
Vivement Dimanche ”日曜日が待ち遠しい!” Francois Truffaut
Exposed ”愛と死の天使” James Toback
1985年
Agnes of God ”アグネス” Norman Jewison
Salvador ”サルバドル” Oliver Stone
1986年
Crimes of the Heart ”ロンリー・ハート” Bruce Beresford
La Descente aux Enfers ”デサント・オン・ザンファー/地獄におちて” Francis Girod
Platoon ”プラトーン” Oliver Stone
Un Homme Amoureux ”ア・マン・イン・ラヴ” Diane Kurys
1987年
The Pick Up Artist ”ピックアップ・アーチスト” J.Tobouk
Maid to Order ”星に願いを” Amy Jones
Biloxi Blues ”ブルースが聞こえる” Mike Nichols
The House on Carroll street ”事件を追え!” Peter Yates
1988年
A Summer Story ”サマーストーリー” Pierce Haggard
Twins ”ツインズ” Ivan Reitman
Beaches ”フォーエバー・フレンズ” Garry Marshall
Heartbreak Hotel ”ハートブレイク・ホテル”
1989年
Her Alibi ”彼女のアリバイ” Bruce Beresford
Der Atem ”ヒットラーを狙え!” Niklaus Schilling
Georg Elser-Einer aus Deutschland ”七分間” Klaus Maria Brandauer
Steel Magnolias ”マグノリアの花たち” Herbert Ross
1990年
Mister Johnson Bruce Beresford
A Sow of Force ”テロリストを撃て”
La Reine blanche ”恋路” Jean-Loup Hubert
Joe Versus the Volcano ”ジョー満月の島へ行く”
Cadence ”ミリタリー・ブルース”
1991年
Black Robe ”ブラックローブ” Bruce Beresford
American Friends ”オックスフォードの恋”
Curly Sue ”カーリー・スー” Jone Hughes
1992年
Man Trouble ”お気にめすまま” Bob Rafelsen
Dien Bien Phu ”愛と戦火の大地” Pierre Schoendoerffer
Rich in Love ”愛にあふれて” Bruce Beresford