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目次

プライベートライフ 私人生活

  • 陳 染(著)/ 関根 謙(訳)
    <b>0 時間は流れてもわたしは変わることなくここにいる</b>
      大声を上げて叫び出さないように、わたしたちはハミングし、不平を漏らす。
       暗闇から逃れるために、わたしたちは目を閉じる。

    <b>1 黒い雨の中のトーダンス</b>
       その女(ひと)は一筋の深い傷口、
       世界に歩み出すときの、わたしたちの砦。
       彼女の瞳は光を放ち、
       その光がわたしたちの道となる。
       体中に傷口をあけたこの女こそわたしたちの母だ。
       わたしたちを産み出してくれた母だ。

    <b>2 片目の婆や</b>
       わたしたちは父に対し「はい」と答える。わたしたちは生活に対し「はい」と答える。しかし実は、これ以上に深刻な拒否などない。

    <b>3 わたしは保菌者だ</b>
       鍵穴をすり抜けて行くんだ。開かれた扉なんかくぐりたくない。

    <b>4 ハサミと引力</b>
       そのハサミは一羽の鳥で、木蓮の木の頂に潜むように、長い間はかりごとをめぐらして化粧台の上にうずくまっていた。ハサミは自分の動作と姿勢を設定してから、わたしの脳裏に飛来し、わたしの手を使って自分の決めていたイメージを完成させた。

    <b>5 未亡人ホアと更衣室の感覚</b>
       その女性はひとつの迷宮だ。それは岩の洞窟の姿をしていて、わたしはその中に迷い込む。わたしたちの周りの狭い空間には闇が満ちており、シーツをすっぽり かぶされたようで、お互いが見えず、顔もぼんやりとしかわからない。洞窟の壁 面からは虚ろなこだまが響きわたり、大声で言葉を交わすこともできない。足下 には底知れぬ深淵が口を開けている。足がすくんで、もう進むことも退くこともできない。やがて虚無がわたしたちを包んでいく。先にある危険のために、わた したちはここに留まらざるを得ない。わたしたちは着ているものを脱ぎ捨て、まとわりつく重い負担を振り捨てる。暗闇の中に一緒に押し込められて、わたしたちはお互いの肉体の触れ合う感覚に圧倒される。こうしてわたしたちは存在の境界へと押し出されるのだ。
       彼女はわたしのずっと先の年齢にあったが、しかし、時間の地平において、彼女はわたしの背後につく影だった。
       わたしは彼女の出口であり行き先なのだ、と彼女は言う。

    <b>6 わたしの中の見知らぬわたし</b>
       時間は一人の画家。わたしは丘陵と洞窟の形をしたリトグラフ。わたしの生まれる前に、このリトグラフは完成していた。わたしはこの街を流れる時間の川に沿って歩いていくうちに、自分とこのリトグラフとの関係がわかってきた。このリトグラフ自体が歴史で、すべての女の生活がその中に刻み込まれているのだ。

    <b>7 イーチュウ</b>
       彼女の父は「動物園」の中に彼女を生ませた。彼女は狩猟と捕獲される歓びとを経験しながら、その驚くべき適応力を駆使して、「檻」の中で自らを発育させていった。彼女は檻の前で、片手で尻を押さえ、もう一方の手で口を押さえている。 自分の肉体の中に声を沈み込ませているのだ。
       彼女には過去がない。


    <b>8 奥の部屋</b>    
       奥の部屋、そこはわたしたち女にとっては、別な呼び方、別な名前のあるところだ。そこはまるで生まれながらにしてできていた傷口のようで、人が触ることを許さない。そこは濃密な陰影のうちに埋めこまれており、光が子宮の奥の色のようにほの暗く、男の心を激しく揺する。わたしたちの成長する過程とは、そこが しだいに「進入」を受け入れ、さらに「進入」を求めるようになる過程にほかならない。このような希求の道筋で、少女は一人の女に変容する。

    <b>9 一つの棺が人を探している</b>
       わたしたちは死者の見開いた眼の中に、彼女の肉体の終焉しか見出すことができないが、彼女の魂は消滅していない。冥府から吹き付けられる「気」に、突然彼 女の肉体が覆われたとき、その「引き裂かれた」人はようやく意識する。自分は これまでこんなに真実に、強烈に「生きた」ことはなかった、こんなにはっきり とこの世界を理解したことはなかったと。

    <b>10 ベッド、男と女の舞台</b>

    <b>11 シシュフォスの新しい神話</b>

    <b>12 ベッドの鋭い叫び</b>     
       人が聴き取っている声は実は錯覚で、声を発するものとそれを聴取するものとの間に絶対的な関係などない。もしも魂がなく、幻想の欲望もないとしたら、世界中のすべての耳は単なる空白となるだろう。
       本当は、わたしたち自身の皮膚が鋭く叫んでいるのだ。その声はわたしたち自身 の体内にこだまし、わたしたちの内部で消えていく。

    <b>13 陰陽の洞窟</b>
       彼はこれまで起こったことすべてを彼女の身体の上で速やかな死滅へと導いた。彼 の姿勢は一筋の稲光だった。彼女は驚き激しい痛みを感じた。そして自分の身体 にいままで知らなかったもう一つの唇があるのに気づいた。それは呼吸し、呻き 声を上げていた。緩慢なかかわりは彼の敵であり、急激な摩擦こそが友だった。 彼は時間を征服した。彼は彼女の体内の虚無の中に突き進み、彼女の朦朧たる深 い眠りを断ち切ると、それを彼女の生命の淵に投げ棄てた……
       摩擦は彼に太陽の光を見せ、彼女に死の臭いをかがせた。

    <b>14 ある人の死がもたらす懲罰</b>
       恨みを抱いた魂は、最後には仇の傍にたどり着く。ときには、それが雲となって あちらの世界から漂ってきて、雨になってこの世に降りかかることもある。死者 はその特殊な形式で、生きている敵と闘い続ける。

    <b>15 永遠の日々</b>
       彼はその眉と指でわたしを襲った。彼はわたしが幻想で築き上げた部屋だ。

    <b>16 飛び跳ねるリンゴ</b>

    <b>17 赤い死神のダンス</b>
       わたしはやがて天国であなたとベッドを共にするだろう。死者のことを最もよく知っているのは、やはり死者なのだ。

    <b>18 偶然の弾丸</b>
       いまもなおわたしたちは、ひたすら沈黙することによって、わたしたちの過去を避け続けているのだ。

    <b>19 ゼロの女の誕生(ゼロ女史の誕生)</b>
       ある人が良心に従って行動する能力は、彼女が自分の社会の限界をどれほど超越 してコスモポリタンとなったかによって決まる……最も大切な素質は勇気をもっ て「いやだ」と言えることだ、勇気をもって強権への服従を拒み、公共世論の命 ずることを拒むことだ……

    <b>20 時が流れても、わたしはやはりここにいる</b>
       わたしは二度目の死を迎えるまで、安静が必要だ。

    <b>21 孤独な人間は恥を知らない</b>
       生命は草のように湿潤さを求め、細胞を水分で満たそうとする。だから汚泥の中でしか生きられないのだ。
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