コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2022年5月号
今月の特集は
『施行75年目の現在地 日本国憲法の普遍性と特異点』
『NO WAR ―戦争は何も解決しない―』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『施行75年目の現在地 日本国憲法の普遍性と特異点』
みなさんは「不磨の大典」という言葉をご存じでしょうか。これは1890(明治23)年に施行された東アジア初の近代憲法、大日本帝国憲法(明治憲法)のことを、磨かずとも自然に光り輝く玉になぞらえた美称で、戦後においても、ある時期までは誰もが知る一般的な表現でした。しかし、1947(昭和22)年の失効まで56年以上続いた明治憲法を遙かに超え、日本国憲法は今年の5月3日で施行75周年を迎えます。
じつは75年もの長きにわたり、一文字も改正されたことがない憲法典は、世界的に例がありません。それは日本国憲法もまた磨かずとも光る玉(完全無欠)であることを意味するのでしょうか。今まで改正の必要がなかったからといって、これからも変える必要はないと言えるのでしょうか。ロシアによるウクライナ侵略は、戦後どころか近代以降の世界のパラダイムを変えました。今回の「愛書家の楽園」は、厳しい国際環境と対峙する日本国憲法の現在地を見つめ直すことで、私たちと憲法の関係を今一度考える契機としてはどうか、というご提案です。
日本国憲法の精神に触れてみようと思い立ったとき、九州大学教授・南野森さんが監修した『10歳から読める・わかる いちばんやさしい日本国憲法』(東京書店・1,408円)はまずお勧めしたい入門書です。絵本のような体裁にだまされてはいけません。小学校六年生が独りで読めることを目指した平易な語り口は、だからこそ誤解や曲解の余地がなく、ストレートに胸に落ちます。
条文や論点が絞り込まれた子ども向けの内容ではなく、憲法そのものに触れたいというかたには『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫・594円)がよいでしょう。実際の憲法の条文は、今となっては少しお堅い文章かもしれません。やや込み入った表現の日本語を、シンプルかつ直截な構造の英語と対比させるのは悪くないアイデアです。もともと第二次世界大戦の敗戦後、占領軍によって起草された出自を持つ日本国憲法を英語で読んでみようとする試みはいくつも行われてきました。
日本国憲法の施行と同時期に発行され、当時の中学一年社会科の副読本として配布された「あたらしい憲法のはなし」や、同時期に全国の世帯に配られた冊子「新しい憲法 明るい生活」などをまとめた古典的名著、高見勝利さんの『あたらしい憲法のはなし』(岩波現代文庫・990円)にも英文の対訳が収められています。本書に収録された三本のテキストは憲法発布当時の社会の空気を鮮やかに反映しており、戦争から解放され新しい時代を迎えたことへの無条件の喜びが匂い立ちます。初めてこの憲法を見た人たちには、条文中の「戦争放棄」の文字が光り輝いて感じられた、というのは偽らざる心境だったに違いありません。
日本国憲法が出来るまでの道のりをめぐっては、その制定に当事者として深く関わり、長らく慶應義塾大学法学部で憲法学を教えた大友一郎さんの講義ノートがあります。大友先生の授業を受けた庄司克宏さんが編んだ『日本国憲法の制定過程』(千倉書房・2,750円)をひもとき、憲法について議論を始める前に、なぜ日本国憲法が現在の姿になったのかを踏まえておきたいところです。
…続く
2022/05/02 掲載