書店員レビュー一覧

最古の聖徳太子伝「上宮聖徳法…

最古の聖徳太子伝「上宮聖徳法王帝説」が文庫本になった。「古事記」「日本書紀」と合わせて読んで聖徳太子の考察を進めることがより容易になった。
　一万円冊・五千円冊ではなくなったので今やお馴染みとも言えない聖徳太子だが、一時評判になった。中部大の大山誠一が聖徳太子虚構説を唱えたからである。氏いわく、実在の人物厩戸王に対し＜聖徳太子＞として伝えられている人物の実在性は疑わしい。「日本書紀」も「帝説」も奈良時代の史料であり、ほかも合わせてそのほとんどの史料は荒唐無稽の話ばかりで史実と無関係な聖徳太子信仰の産物にすぎない、と。そういや親鸞も虚構とか誰か言ってるな。
　大山説についてはその乱暴な論旨の立て方や、批判に対しきちんと反論せずにただ没学問的と決め付けるなどの姿勢が多方面から指摘され逆にその「荒唐無稽」さが際立っている。遠山美都男あたりの反論を参照されたい。ただし本書については、聖徳太子系譜や天寿国繍帳銘文とその注釈などの多層的な成立過程や「古事記」以前の古い用字などより深い味わい方もある。「隋書」も合わせ検討したら作為的な「古事記」ブームよりは中身もあろうし。
　　　黒書店員　Ｄ