書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店鹿児島店」のレビュー
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社会人大学人見知り学部卒業見込 (ダ・ヴィンチブックス)若林 正恭 (著)
怒涛の2009年の果てに
一気にスターダムに乗った人間に、一体どんな変化が起こるのか?
主に年末に多くの若手芸人が挑む漫才の賞レースは、そんな私たちの下世話な興味を実際に見せてくれる良いサンプルだ。中でもオードリーの二人は冴えない若手芸人が乗った「突然スターダム」の最たる成功例だと私は思っている。
他社のレビューでも熱く語られているように、この本はイマイチ社会に適応しきれない人見知りの成人男性の内面を突き詰めたエッセイとしても実に秀逸だが、ある時を境に急に知名度が上がり、ちやほやされはじめた人間の困惑と、それをなだめて歩き出す過程(ヨロヨロと、でもちゃんと前を向いて)を描いたエッセイとしても、過分なく面白い。
2009年を通じて殺人的なスケジュールでメディアに露出しつづけながら(とにかく彼らは毎日何かの番組に出ていた。それも複数本ずつ)、消費しつくされず、今も安定して芸人として仕事をしている理由の一端がこのエッセイからもわかる。
徹底して自分を客観視して、自身の内面を執拗に解体しつづける若林の視線と、その視線の冷徹さが自分をも傷つける時に、攻撃性を和らげる春日の驚異的な鈍感さ。
今回、春日に関するエッセイは巻末に一つしかないけれど、二人の関係性を窺い知るには十分な一本だった。
そして、今はもう非公開になって読めない若林のブログ「どろだんご日記」を熱く愛読していた人間として、あのブログに散りばめられていたナイフの切っ先のような鋭い言葉のセンスは今も力強く生きていて(文章そのものはもちろん洗練されて読みやすくなった)、読み手の心を切り裂き、時に浮揚させてくれることが、本当に嬉しい。
若林さん、どうかご自身のペースでかまわないので、ずっとずっと文章を書き続けて、私たちに読ませて下さい。
社会担当 江田