書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店三宮駅前店」のレビュー
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- ジュンク堂書店|三宮駅前店
アルボスアニマ 1 Plant Hunter (RYU COMICS) 橋本 花鳥
人と植物の狭間に立つ
物語には「天・地・人」の面白さが必要だ。
天、いつの時代の物語か。
地、どこで起こった話なのか。
人、誰について語られるのか……である。
本書はその天・地・人の面白さが三拍子揃った物語だ。
この『アルボスアニマ』というマンガ、時は十九世紀。東南アジアで物語りは幕を開ける。
主人公は植物採集家の16歳の少年、ノア・レスコット。
はるばるヨーロッパから、植物を採集しに世界各地を飛び回る植物採集家(プラントハンター)である。
ノアは他人にない特殊な能力を持っている。
それは植物の根より、その植物の持つ記憶をたどることができる「起源追想」という、オブジェクトリーディング、サイコメトリの類の能力だ。
同じく植物採集家の父が持って帰ってくる植物に囲まれた温室で、15歳まで一歩も出されずに育った、文字通り「温室育ち」のノアにとって、遠い異国の記憶を届けてくれる植物は「友人」である。
そんなノアが、依頼を受けてまだ見ぬ「友人」を探す途上で、様々な事件に巻き込まれていく――。
元・海賊で、ノアの助手兼護衛のラジャード。
故郷の森を焼いた植物採集家への復讐を誓う少女、イヴ。
ノアと共に仕事をする、世界的大園芸商・ディーバ商会の面々も個性的である。
わくわくするような冒険の予感が、ページの端々に躍っている。
著者・橋本花鳥氏の、ヒトならざるものへのまなざしもまた、独特で興味深い。
著者のホームページでは、『虫籠のカガステル』という、著者の原点が垣間見えるマンガが無料公開されている。
本書に興味をもたれたら、こちらも併せて読んでみると、面白いかもしれない。
また、「プラントハンター」の存在に興味を持った方には、NHK取材班編『プラントハンター西畠清順 人の心に植物を植える』(小学館)もおすすめしたい。
「1年間に地球10周分移動する」という、プラントハンターの仕事ぶりが紹介されている。