書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店三宮駅前店」のレビュー
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- ジュンク堂書店|三宮駅前店
エゴ・サーチ 鴻上 尚史 (著)
忘れたくない人がいる人のために
インターネットを使う人なら、一度はやってみたことがあるのではないだろうか。
「エゴ・サーチ」――自分の名前をインターネット上で検索することである。
物語は、駆け出し作家の青年・一色健治を中心に回っていく。
一色はある日、インターネット上に自分と同姓同名、出身地も生年月日も出身大学も同じ「一色健治」のブログを発見する。
一色は、そのブログの管理人にメールを送る。
「あなたは本当に一色健治ですか? もしよろしければ、あなたのことを教えてくれませんか?」
――「もうひとりの自分」の目的は何なのか?
その謎が解けたとき、観客はきっとハッとするに違いない。
当作品を、私は、虚構の劇団第9回公演(2013年)の再演版で観劇した。
そのとき、カメラマンの青年役に一番強く惹きつけられた。
彼の役名を明かさないのは、これが話のひとつの核心にも触れるからだ。
一度目をマチネで観劇し、カメラマンの青年の動きに注目するために、終演後すぐさまソワレの当日券を買いに走った。
彼が何を思って行動していたのか解った上でもう一度見ると、上手く言葉に出来ないのだが、敢えて言葉にするならば、彼の行動を「切ない」と感じた。
そして同時に、大好きな人を「忘れたくない」という、強い強い執着を感じた。
死んでしまった人や、遠く離れていってしまった、大切な人を忘れたくないという思いは、誰もがどこかに持っているだろう。
普段の生活の中では忘れている――忘れたつもりになっているそんな微妙で繊細な感情を、「エゴ・サーチ」の物語は揺さぶるのだ。
この他にも、自分が死んでしまったことに気づいていない女の幽霊、沖縄から来たガジュマルの木の精キジムナー、売れないバンドの二人組、過去に何か秘密を持つIT関連企業の社長とアシスタント、などなどの個性的な登場人物が集結していき、謎が謎を呼び、そして最後は驚くような種明かしが待っている。
今回は戯曲本を紹介しているが、過去公演はDVDにもなっているので、ぜひ観劇であっと驚いてから、戯曲を読み直して物語を噛み締める鑑賞スタイルをおすすめしたい。