紙の本
まだまだ期待の観音さま
2016/06/25 07:11
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「もし、あの夜、あのホテルに泊まらなければーどうなっていたでしょうね」という文章で始まる6つの短編の連作集。
「ホテル」というのは、京都寺町にあるラブホテルのこと。ラブホテル、つまり愛の宿である。
「ラブホテルは自分の部屋でセックスできない者たちが利用する場所」と「愛の宿」という表題作に登場するヒロインが述懐する場面があるが、日本の住宅事情からすれば一概にそうとも言えないし、そういう影の部分をおおげさにいうことはない。
むしろ愛の交歓を楽しむ場としてとらえることもできるだろうに。
ただ花房観音のこの連作では、不倫であったり援交であったり、歪んだ愛の場所として描かれている。
場所が場所だし、花房の作品ということもあって官能小説を期待する読者も多いだろうが、この作品は官能小説ではない。
恋愛小説と言い切るにはどの短編の登場人物たちも歪んでいるが、愛のありようを求めていることに変わりはない。
たまたまそのラブホテルで女性の変死体が見つかる。それでその夜宿泊していた何組かのカップルが警察の捜査で足止めをくってしまう。
彼らにとってセックスをして別れるはずであった時間が無理やりに伸ばされてしまう。そのことでつかなければならない嘘や見せることのなかった素顔ものぞかせてしまうことになる。それは愛の後ろ側で貌を覗かせる、別の顔。
花房観音は官能小説でデビューしたが、今はその範疇では収まらない作家になっている。
できれば、じっくりと書いて欲しい作家である。
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【ラブホテル――そこに愛はあるのだろうか】ラブホテルに足止めされたカップルたち。不意の出来事に各々の事情があぶりだされ……。官能小説の名手が男女の性と業を描く連作集。
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ラブホテルで死んでいた女。
警察の聴取が終わるまで、足止めを食らう利用客たち。
ある一夜の情事が思いがけない一日を迎える羽目に。
宿泊したカップルとホテル経営者、死んでいた女。
それぞれをめぐる6篇の物語。
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花房観音作品としてはエロは少なめ。
不倫とか売春とか、意味合いの軽く感じられるセックスばかりでした。
本編にもありますが、「ラブホテル―そこに愛はあるのか」ということなのでなんとも煮え切らない男女たちです。
「死は、愛よりも確かだ」という言葉が、最後の話の主人公と同じような心境に陥りやすい自分にはとても馴染む言葉でした。
あんなふうにまどろんで死んでいけたらいいなあとか、思わず夢想してしまう。
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初出は別冊文藝春秋電子増刊「つんどく!vo.3」、「つんどく!vo.4」(年次不詳)及び2015年の「別冊文藝春秋」の6話。
京都寺町の繁華街にあるラブホテルで起きた女性の死亡「事件」?に巻き込まれ翌日夜まで足止めされ、野次馬の目にさらされた人々の物語。
家庭持ちの元上司と12年も不倫関係を続ける独身女は、男が「おばさん」だと言っていた妻の年を自分が越えていることに気づいていたが、帰れないことを家族に取り繕う男に幻滅する。
19歳の処女が初めて触れられたいと思ったバイトの同僚とホテルに行くが、顛末を知っているバイト先の先輩女性が彼の初めての相手だったと知って嫉妬する。
セックスレスの主婦が、同窓会でかつての恋人と再会し勢いでホテルに行くが、セックスが下手でがっかりしてしまう。
素人童貞(プロとしか経験がない)の男が、ネットで援助交際を求める若い女性とホテルに行き倖せな気分になり、これからも会ってくれることになって喜んだが、メールは着信挙止されていた。
ホテルのオーナーは、かつて幼い娘と夫を捨てて外の男に走りその後も結婚せずに男を変えていた。テレビを見ていた30になった娘が会いに来たが、不倫しているが別れる気はないことを告げる。
最後の死んだ女の話はなくてもいいかな。
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2017年、26冊目&再読月明けは花房観音。
『もし、あの夜、あのホテルに泊まらなければ──ドウナッテいたでしょうね。』
ラブホテルで女性の死体が発見された。他の宿泊客は、警察の指示があるまで、ソコに缶詰めにされてしまう。
その前後を切り取った連作短篇、全六編。今回もタイトルのみ紹介。
嘘の宿
初の宿
悔の宿
買の宿
母の宿
愛の宿
一~四編目は、ラブホテルに缶詰めになった四組のカップルの話。それぞれ、見えなかった、見ずにいた、本心の部分が見えてくる、
五編目、そして、「いらない」と言う声も聞く六編目。コレは対になってるんじゃない(❔)。そして、全てはある種の憎悪によってもたらされた、ってコト(❔)。
本作も官能を期待すると、肩すかし。官能としての機能はほぼありません。また、読みやすい反面、この作家さん独特の、コッテリ濃厚さも抑えぎみ。
さぁ、あなたは、愛、セックスを、それぞれ、肯定しますか❔否定しますか❔
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ラブホテルで死亡事件があり、足止めされたカップルそれぞれの「もし、あの夜、あのホテルに泊まらなければ」
ひとつひとつが刺さる!
嘘★身体というやつは、下手をすれば心より厄介だ。身体を使うことにより恋心を深めて行く感覚は初めてで、セックスという娯楽にのめり込んだ。どこに触れれば悦ぶか誰よりも分かっている男には敵わない。
初★セックスして体の繋がりができたから、恋愛が面倒臭いものになっちゃったんだ。私には初めての男だけど、この世には彼としたことのある女が他にもいる。セックスは予想したよりも自分を変えてくれる。どんどん気持ち良くなるのが怖いくらい。
悔★つまらない、気持ちのよくないセックスだった。再開して褒めそやされ、女として久々に求められるのが嬉しくて寝てしまったけど、失敗した。
買★セックスはそんなに良いものと思わないが、自分が男だという自身のために必要な行為だ。
母★男と肌を合わせ、体で愛される喜び、身体を合わせ心も委ねる悦びを知ったこの娘は女に生まれた悲しみや痛みを知り幸せなのだ。
愛★彼氏がいないと不完全な人間みたいな気がする。私は私をいつまでたっても愛せない。だから代わりに人に愛して貰うことを望んでいる。愛してくれ愛してくれと求め続ける。人に認められたい、居場所が欲しいって。
女のオーガズムは無になること。相手を信頼して何もかも委ねて自我が死んだ時にそうなる。我は他人に期待し望むこと。愛は無償で見返りを求めない。だから我が死んで無になることで愛になる。
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ラブホテルいくカップルは訳ありの人が殆どで
休憩で入って明日は何事もなく過ごす。それが前提
ですよね。そのホテルで殺人が起こり当然警察が入り
出るのを禁止され事情聴取を受ける。
焦る何組のカップル。そんな人々の人間模様。
恐ろしいシチュエーションです。。。
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2020.07.02
ラブホテルを舞台にした小説を読みたかったので
この本は自分が読みたいそれでした。
あるラブホテルで起こった女性の死亡事案。
それが男女の本性を垣間見せる…。
Hなシーンより心情に重きを置いており、男女目線が見事
この本には「本当の愛」はない(1つはあるけどまだ「本当の」には遠いかな)ので、こうぐるぐると不安定な心情ばかりで
「愛の宿」の「愛」とは何か、考えさせられる。
【嘘の宿】
長年不倫関係でいる男女 女性は30代独身
相手の離婚を願い、ずるずると体を繋げている。
妻子持ちの相手との関係は、母親から否定され
事件の後すぐに去っていった相手を酷いとも思うが
やめられない、結局体に溺れていく。
相手の妻に投げたメッセージがなんらかの形で返ってくるまできっとだらだらと「嘘」は続くのだろう。
【初の宿】
恋をして、初めてのセックス。ドキドキというかワクワクというか。予想していたものよりあっけなかったが、一つ段階を経た。冷静で、だけどやっぱり「初めて」を特別なものとして大切にしたい、されたい。そんな気持ちは強くて。
めんどくさいけど本人としては切実で本気。だから逃げ出した彼のことも、「初めて」を捧げた相手としてつなぎとめるしかない。
余裕がない。きっといつか別れる2人だ。
【悔の宿】
同窓会であった元彼と一夜を過ごす。気持ちいいセックスではなくて、求められない体を持て余していたから。
相手は完全に体目当て。心と体の需要と供給がこうもバラバラだと冷静になった時にしんどいのでは
そそくさと去った彼。自分だけ快楽に浸る彼
昔の姿とはまるで違う。それは自分もだけれど
受け入れてしまった後悔がじっとりと残ってつらい
【買の宿】
自分に自信が持てず、ずっとアルバイトで食っていくしかない素人童貞。他とは違う。底辺ではないはず。そういう気持ちを持ち続け奮い立たせながら援交へと手を伸ばす。
相手は男を優しく包み込み、安堵感と僅かな自信を与えた。
そのほとんどが偽物だったとしても
本書の中で唯一ポジティブな物語。そして女性側が去っていった。
【母の宿】
ラブホテルの経営者目線の後日談。
愛欲に溺れ、何もかも手放し、たまに得ては体を燃やして手放し。そして残ったのがこのホテルだけだった。終の住処としてはたらくが幼い頃あいに捨てたかつての娘から連絡が入る。道外れの恋の理解者。許しを得て、また新しい人生が始まる。
【愛の宿】
殺人事件 というよりもある意味自死だろうか
その真相。恋に愛に疲れた女性と性愛を憎悪する男性と
優しい死を与えるこの男はきっとこれまでにも人を殺している。シリアルキラー。この話だけ別テイスト
しかしどの話よりも穏やかに思えるのはなぜだろう…