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パリ・ロンドン放浪記
著者 ジョージ・オーウェル著 , 小野寺健訳
インド帝国の警察官としてビルマに勤務したあとオーウェル(1903―50)は1927年から3年にわたって自らに窮乏生活を課す.その体験をもとにパリ貧民街のさまざまな人間模様...
パリ・ロンドン放浪記
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パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)
商品説明
インド帝国の警察官としてビルマに勤務したあとオーウェル(1903―50)は1927年から3年にわたって自らに窮乏生活を課す.その体験をもとにパリ貧民街のさまざまな人間模様やロンドンの浮浪者の世界を描いたのがこのデビュー作である.人間らしさとは何かと生涯問いつづけた作家の出発にふさわしいルポルタージュ文学の傑作.
目次
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- パリ・ロンドン放浪記
- 解 説
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紙の本
世の中ちっとも進歩していないねぇ。今も同じ貧乏生活。
2008/07/24 15:14
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この英語版を高校の授業で受けた記憶がある。たった一ヵ所「サロンで眠るもの、男27人、女16人。この女たちの中で、今朝顔を洗ったものは一人もいない。男はたいていバスルームへ行ったが、女は化粧ケースを出して、汚れた顔に白粉を塗るだけ。問、これも二次的性差か」という部分のみ。著者の観察力に感心もし、へぇ、女ってそうなのかなぁとも。
パリ・ロンドンでの貧乏生活のルポルタージュ。「一日6フランというのが、いかに危なっかしいかがわかってくる。ちょっとした災難一つで、食費が飛んでしまうのだ。最後の80サンチームをはたいてミルクを半リットル買い、アルコール・ランプで沸かしていると、沸いてきたところで南京虫が二の腕を這ってくる。爪の先でそれをはじくと、南京虫がポチャン! ミルクの真ん中にまっすぐ落ちる。ミルクは捨てて、あとは空き腹を抱えている他はない。」
私だったら南京虫だけ取って飲んじゃうと思うけどなぁ。そこら辺がまだまだ「お坊ちゃん」かしら?
「貧乏のどん底に近づくと、・・・貧乏には同時に大きな救いがあること発見するのだ。将来というものが、消えてしまうのである。・・・3フランあれば翌日までは食える。そしてその先のことは考えられない。退屈ではあっても、怖いことはない。「あしたは餓死するだろうなあ――えらいことだな」とぼんやり考えはする。だがそれっきり・・・
このほかにも、貧乏な時大きな慰めになる感情がある。どん底に落ちたことがある人なら、誰でも経験していることだろう。それは、自分がついにほんとうにどん底に落ちたと悟った開放感というか、喜びと言ってもいいほどの感情である。零落するという話は始終していたわけだけれども――ついに、いよいよ零落してまさにどん底まで落ちたというのに、それに耐えられるのだ。そう思うと、不安はあらかた消えてしまう。」
とすると、自殺する日本人はまだどん底にまで行っていないのかもしれない。だから恐怖や不安を感じてしまうのかも。原因は貧乏そのものよりも、鬱病が多いそうだ。「07年の全国の自殺者は3万3093人で、10年連続で3万人を超えたことが分かった。60歳以上と30歳代の自殺者は過去最多。また東京や大阪など都市部で増加し、うつ病が原因・動機で最も多かった」(おんな組いのち100文字通信)。いじめ、パワハラの多発地帯日本。自己の尊厳を傷つけられることが多い。場を多く持っていると自殺までは行かないのだけれど・・・
パリとロンドンとの違いもまた面白い。出だしの「パリ、コックドール街、午前7時。街路からのあえぐような罵声の連続。」貧乏でも陽気で市民参加型社会、にぎやかな様子が描かれている。彼がいよいよという時に思い出した親友(?)ロシア人のポリスも、彼とともに働いたホテルの厨房もやけににぎやかだ。
「ラッシュ時には全従業員が悪魔のように猛りたち、罵倒するのである。その時間にホテルで使われる言葉といったら、ほとんど「クソッ」という一語だけである。パン焼き部門にいる16の女の子が口にする罵倒の言葉など、タクシーの運転手も顔負けだった(確かハムレットは「皿洗いのように罵倒する」と言っていたはずだが。シェイクスピアは明らかに皿洗いが働いている現場を見たことがある)。」
シェイクスピアも面白いけれど、それはオーウェル同様、世間や人間に対する観察力が優れているからかもね。なるほど。そして、「皿洗いは現代世界の奴隷の一つだ。・・・手には職もない。給料はやっと生きていけるだけのもの。唯一の休暇は、首になった時だけである。結婚とは縁がなく、結婚したとしても、妻も働かなければならないのだ。幸運に恵まれない限り、刑務所に入るのは別として、他にこの生活から逃れる道はない。」まさにワーキングプア。今もおんなじ。「それは彼らが怠け者だからだ、とはいえない。怠け者では、皿洗いは務まらないのだ。彼らは単に、思考を不可能にしてしまう単純なくりかえしの生活に捕まっただけなのである。」資本家や知識人は、「貧乏人に少しでも自由を与えたら、自分たちの自由が脅かされるのではないかと思うから・・・現状維持を選ぶ」と批判している。
パリにくらべ、ロンドンは陰気。同じ島国、日本も近いかな。「女の態度が男の衣装しだいでどんなに変わるものかにも、はじめて気がついた。お粗末な服装の男がそばを通ると、まるで猫の死骸でも見たように、露骨に嫌な顔でぶるっと身をかわす。」お上品だけれど、しっかりと人を傷つけるまなざしと態度。
大道絵師ボゾ。「彼の未来はあきらかに、物乞いになって救貧院で死ぬことだけだった。 こんな悲惨な人生でも、彼は恐れても後悔してもいず、恥ずかしいとも思わなければ、自分を哀れと思ってもいなかった。自分の境遇を直視して、自分なりの哲学をつくりあげていたのである。」「頭脳は無傷で活発だった彼は、どんなことがあっても貧乏に屈しなかった。来ているものはボロで寒かったとしても、いや餓死しかけてさえいても、本を読み、考え、流星を観察することができるのなら、彼自身が言ったとおり、その心は自由だったのである。」
宿と食事を提供する収容所〈スパイク>は、法律によって、とどまることができない。ので、みんな次ぎのスパイクへと歩いていかねばならない。文字通り浮浪者にならざるをえない。「化け物のような浮浪者像」、働くのが嫌、物乞いが楽、犯罪のチャンスを狙っている、放浪が好きなどと「途方もない理由を持ち出したりする」。「法律のせいで仕方なく放浪生活を送っている」のだから、法律を変えればいいのですよ。オーウェルは、<スパイク>で農園や菜園の仕事に従事させ、自給自足にすれば、税金も彼らのエネルギーも無駄にならないと提案している。日本だって、ホームレスを公園から追い立てることよりも、彼らを生かすことを考えればいいのにねぇ。
こんな悲惨な生活の中でも、歌があったということ。苦しい生活の中でも楽しむことは不可能ではない。それが人間。そして、残念なことに、浮浪者の中にも、蔑視があること。「俺たちはあいつらとは違う」。自尊心を守るために必要なのかもしれないけれど、人間っていつでも自分よりも一等下の人間を必要としているのかもしれない、そう思うと元気がなくなる。ひとりひとりの違いを認めることと、蔑視は別。貧乏生活が不幸なのではなくて、蔑視することによってのみ自分の自尊心が保てないという生活が不幸なのではないかなぁ。貧困とは、貧乏+人間関係が損なわれた状態。お金があっても心の貧困があれば、不幸なんだろうなぁ。
紙の本
ルポルタージュのあるべき姿
2010/12/03 09:17
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:taro1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
知人にプレゼントしようとしたら重版未定でびっくりした。何故こんな傑作が絶版扱いなんだろうか。
ルポルタージュ文学でも類を見ない傑作で、同時にオーウェルの処女作にして最高傑作だと思う。
辛い生活で最も必要なのはユーモアだということを分からせてくれる。
くだらない駄本ばかりが売れる今こそ、是非中高生にこうした本物を読んでもらいたい。
それと、南京虫とはトコジラミのこと。想像では何とでも言えるが、
実際にこれが落ちたミルクなんて貧乏暮らしをしていてもとても飲めない。
自分も3年間、世間から見れば最底辺の暮らしを経験したが、取り除いて飲むなんて無理だ。
経験していない事柄は何とでも言えるものだ。何事も経験しなければ分からない。
オーウェルの偉さはそこにある。
紙の本
美術鑑賞の副読本的に
2023/07/15 22:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:イヨリ - この投稿者のレビュー一覧を見る
近代以降の絵画を見るとき、その時代背景や社会慣習などを知っていた方が解るし面白い。この本もそういった副読本的なもののひとつとして手に取った。
ノンフィクションの躍動感、軽妙な語り口、面白かった。
紙の本
パリ・ロンドン放浪記
2023/03/18 21:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
オーウェルのデビュー作。やむを得ざる状況で貧しい人々に混じってパリのホテルで働き、ロンドンで放浪生活を送る。ホテルの壮絶な労働環境もすさまじいが、ロンドンの放浪もすごかった。物乞いやホームレスどころか、道端に座るだけでも警察に捕まるので、無料で泊まれる場所を渡り歩いていく。そうした貧しい人々の移動を「旅」と言っていたらしく、それもすごいと思った。