雄ヤギさんのレビュー一覧
投稿者:雄ヤギ
紙の本ペスト 改版
2019/10/12 01:22
不条理に立ち向かう人々
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読者は『ペスト』という題から、この町の人々にペストの災いが襲い掛かることを事前知っているわけだが、それを踏まえたうえで、徐々に町に病が侵攻していく様子を描いた序盤の描写がすごかった。幼い子どもにも容赦なく襲い掛かる不条理に人々が立ち向かうさまもよく描かれている。
2020/05/10 15:47
感染症
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書はSARSやエイズなどの流行を念頭にかかれた本に、新型コロナについての章を追加したものである。
日本語には有気音がないため、飛沫が飛びにくい、清潔すぎると逆に感染症のリスクがある、強すぎるウイルスはむしろ流行しないなど興味深い内容が多かった。
新型コロナに関しては、行き過ぎた予防よりメリハリをつけて行動するなど教えられるところが多かった。
電子書籍世界史とつなげて学ぶ 中国全史
2021/05/13 12:40
世界史とつなげて学ぶ中国史
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
中国の歴史について触れる本はアレな本が多いので、注意して読んでいかなくてはいけないのだが、この本の著者は岩波新書などからも出版していて、ある程度は信頼が置けそう。(もちろん岩波新書だから無批判に受け入れていいわけではないが、ある程度信頼が置けるレーベルだと思うので)
この本では日本と西洋は比較的類似しているので考えもある程度似通っており、特に西洋発の考え方が主流となっている現代では中国や東アジアの考え方は中々理解しがたい面もある、と書いてあり、勉強になった。
といっても著者は中国の歴史について、中国文明は他の文明と隔絶していたので独自の進化を遂げたという説を採らず、タイトルにもあるとおり、他の地域や文明と交流しつつ発展・変化を遂げたという説を採っている。もちろんその説の立証だけをするのではなく、きちんと中国の歴史を通史的にまとめていて、とても読みやすい。特に五胡十六国時代や五代十国時代についてはとてもわかりやすかったので、高校の世界史で悩んでいる人にもいいかもしれない。
2019/10/22 02:43
『死の棘』の読み方を覆す一冊
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『死の棘』『「死の棘」日記』と読み、『死の棘』関連では3冊目。前の2冊を読んで感じたことを吹き飛ばすような記述もあり、また裏付けるような記述もあって、内容にはたいへん満足。今となっては亡くなってしまった関係者への取材や文字資料の読解、時代背景の読み解きなどを通じ、従来の『死の棘』の読み方を覆す力作。買ってよかったと心から思える一冊。
2020/05/09 22:08
人類と病
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書では、中世のペストから現代のコロナまで、様々な病と人間との戦いを記している。医学的なことよりも、政治的な面を主に取り上げており、読みやすかった。もちろん、必要最低限の医学の情報は載っている。
WHOへの信頼が揺らぐ昨今、その取り組みの歴史を国際連盟の頃から遡って調べることは重要なことだと思う。
2019/09/23 00:17
複雑な事情をわかりやすく
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『満鉄全史』というタイトルから、満鉄のみについて記されているのかと思っていたが、関係する日本の政治状況や国際政治なども記されていて中々良かった。
一企業として利益を無視できないが、同時に国家の利益も無視できない満鉄、軍を代表する関東軍、政府の意見や外国との関係を重んずる領事館(外務省)、そしてその時々の政局によって変わる内閣とその内閣に指名される満鉄経営陣、さらに近隣の中国軍閥や国民党、列強、ソ連などの思惑が複雑に絡まっている当時の情勢がすごくわかりやすく記されている。
紙の本ヒトラーとナチ・ドイツ
2021/08/10 23:25
ヒトラーとナチ・ドイツ
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ヒトラーの生い立ちからナチ・ドイツの崩壊まで、詳細にまとめた本。新書形式でとても読みやすい。戦争についてはあまり触れられておらず、その分他の分野の記述が充実している。
よくあるナチス擁護の常套句である経済復興についても、しっかりとページを割いて記述している。たとえばアウトバーンはヒトラーが考え出したものではなく、その前に議会で提案されたときにはナチスは無駄遣いとして反対していたことや、そもそもヒトラー政権直前に市場は経済回復の条件を満たしていた、ヒトラー以前の政権による経済政策が効果を表していたなど。
ヒトラーが何故ユダヤ人絶滅にあそこまでこだわったのかについても著者の考察がまとめられており、とても興味深かった。
2021/07/19 20:44
妻たちの二・二六事件
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者のデビュー作である本作は、二・二六事件に参加して処刑された男たちの妻に焦点を当てている。処刑された男たちは、家庭ではよき夫・父だったが、精神的支柱としていた昭和天皇に拒絶され、兵を私した反乱軍となってしまう。
愛する人を亡くした悲しみに加え、世間の目を気にせざるをえなくなる。批判的な人からは逆賊の家族と見られ、同情的な人からは喪に服して大人しくしろと言われる、それでも自分や子供を養っていくためには働かざるを得ない。この妻たちの数人が東京を離れて満州へ行ったというのは、興味深かった。
紙の本アイヌ神謡集
2020/05/20 07:23
アイヌ神謡集
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アイヌの中で伝えられた言葉を知里幸恵というアイヌの少女が遺した神謡集。見開きで左に発音を、右に日本語の意味を記してある。金田一京助の文章と、知里真志保による解説も附してある。
2020/05/16 14:17
死刑執行人サンソン
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フランスの世襲の死刑執行人サンソン家の伝記。日本の山田浅右衛門しかり、人の死に関わる職業に生まれついた人間には、独特の哲学があると思う。本書は、さんざまなエピソードを元に、とてもわかりやすく書かれている。
2020/01/24 20:10
スターリンの評価
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世界史の中でもトップクラスで評価の分かれる人物スターリンについて取り扱っている。否定的なものとしては、工業化政策や外貨獲得のために農民を犠牲にしたこと、多くの党員を粛清したことなど。肯定的なものとしてはこれも工業化政策やナチスに対する勝利など。本書はスターリンに対する大幅なイメージの転換より、評価が分かれていることを伝えようとしている。
電子書籍三銃士 上
2019/08/21 02:26
大人なシーンも含めた三銃士
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小学生の頃に読んだ児童向けの本にはカットされていた、ボナシュー夫人とダルタニャンの不倫めいた恋愛やポルトスの不倫などが読めてよかった。岩波の上中下のほかに続編があるようなので読んでみたい。
紙の本ユリイカ 詩と批評 第50巻第9号 特集*バーチャルYouTuber
2018/07/18 19:49
最近話題のVチューバー
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最近話題のVチューバーについて扱った特集。多くの論者が論考を寄せているが、中でも海猫沢めろんの論考と黒瀬陽平・さやわか・ばるぼらの鼎談が面白かった。
2018/05/28 12:05
南イタリアの現実
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本書は、反ファシズムの容疑で流刑囚となった作者が、流刑先で見た南イタリアの村の様子を描いた作品である。
何年か前に、この作品の舞台となった村に立ち入り禁止命令が出されたというニュースを見たが、70年近くたっても変わらなかったのかと思うと、悲しくなった。作中で、青年将校が、この村における対立は、何世代にもわたるものである、と語る場面があるが、この村の支配者が、山賊になろうが、ファシストになろうが関係なく対立し続けるのだろう。
2022/11/30 21:16
胃弱・癇癪・夏目漱石
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小説家である著者が、多病の人であった夏目漱石の人生と病気、そして当時の治療法や医療記録などを解説する。
文献などから歴史上の人物の病気を推定することがあるが、それよりは記録に当たっている分、信頼がおけそう。あとがきによると医者の協力も受けているそう。