紙の本
高校生の夏休みの読書にお勧めしたい一冊
2017/07/25 07:15
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投稿者:あられ - この投稿者のレビュー一覧を見る
活動分野も方向性もバラバラな5人のインタビュー集ですが、人間は「社会的動物」であり「物語」を好むものだ、という認識が共通し、5つの視点が交錯するようなスリリングな本でした。インタビューの聞き手で著者の吉成真由美さんの力量に感服しました。
取材の時期は2015年9月から2017年2月で、ちょうど米大統領選の候補者決定から、2016年秋の本選の時期、また、2016年6月のイギリスでのEU離脱の国民投票の時期を含んでいます。その文脈は大事です。
言語学者で、社会的には自国(アメリカ合衆国)政府の政策に批判的な発言を積極的に行なっていることでも知られるノーム・チョムスキーが語る「自衛」概念の欺瞞(62~65ページ、的確な訳注つき)、「正義」の危うさ(東京裁判、ニュルンベルク裁判。68ページ)などはチョムスキーの読者であれば読み慣れたことだと思いますが、科学者(言語学者)としてテクノロジーの発展について語っているところ(69~76ページ)はインタビュー取材ならではだと思います。
そのチョムスキーが「素敵なレストランでコーヒーを飲みながら会話として楽しむにはいいでしょう」と評価している「シンギュラリティ」論を語っているのが、レイ・カーツワイル。個人的には、最近のカーツワイルについては、ご都合主義で現実を切り貼りし、口八丁手八丁で夢を売る資金集め担当者と認識していますが、それがますます強化される内容でした。こういうのを「理系的思考」などと思ってしまう人も多そうですが。
ちなみに著者の吉成さんはチョムスキーにもカーツワイルにも共通して「イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ」について質問しています。
本書で最も長い第3章「グローバリゼーションと世界経済のゆくえ」は、最も刺激的でした。語り手のマーティン・ウルフは世界銀行のシニア・エコノミストを経てフィナンシャル・タイムズ経済論説主幹を務めている重鎮で、国家主権と、EUやグローバリズムのような「国家」の枠を超えた活動について、現場で見てきた人です。そのウルフがイギリスのEU離脱(およびEUというプロジェクト)について、経済成長とは、世界的な貧富の格差(南北格差)とはといったことを考察しています。新たな視点を多く与えられました。
4人目のビャルケ・インゲルスはデンマーク出身の建築家。1974年生まれで、本書の5人の中で一番若いです。現代の最先端の建築は「持続可能性」という物語の上に立つ実用品でありモニュメントでもあるのだと感じました。
最後、フリーマン・ダイソンはインゲルスの祖父くらいの年齢の理論物理学者。サイエンスよりファンタジーが好まれると語る彼自身、ファンタジーの方向に行っているように私には感じられましたが、簡潔な言葉で、気候変動モデルに頼りすぎたIPCCなどのあり方への疑問を語り、「モデル」の限界について読者の目を開いてくれます。
ここまで読んで、読者は、気候変動であれAIであれ経済であれ、この本は「モデル」(別な言い方をすれば「法則」、「原理原則」のようなもの)への懐疑についての本ではないかと気づき、再読したくなります。「モデル」(パターン認識、パターン思考)ばかりではなく、(ある意味、コンピューター以前の時代のように)実際に起きていることの観察を重視すべきなのではないかと。
その際、全文を検索できたほうが便利なので、紙の本より電子書籍が向いているかもしれません。
自分が今高校生だったら、この本には大変刺激を受け、触発されただろうと思います。夏休みの読書にお勧めです。来年になったらもう古くなってしまっているかもしれません。
電子書籍
むずかしい話もあるが
2017/05/28 13:55
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
カーツワイル氏の話など少し現実的ではないように感じられる部分もあるが、興味深く読んだ。名前も聞いたことのないような方のインタビュー集だが、知的好奇心を刺激されるように思った。
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知の逆転、知の英断からの3作目。
民主主義について-ノーム・チョムスキー
AIについて-レイ・カーチワイル
世界経済の行方-マーティン・ウルフ
都市建築-ビャルケ・インゲルス
気候変動-フリーマン・ダイソン
それぞれ読みやすく、興味をひく話でした。
前作までも含めて、インタビューの吉成氏が
とてもかっこよいと思います。
どんな話題にも、内容に対しても質問や応答ができるのが
信じられないくらいすごいと思います。
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どのインタビューも深く掘り下げられていて、読み応えがあった。道を極めた人の考えを、インタビューだと偏りすぎずに聞けるのがいいなと思った。
内容に関してもどれも興味深かったが、サイエンスは大事だが人間にとっては物語も重要、というのが面白かった。むかし哲学と自然科学は密接だったというのも。なるほど。
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ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソン。
「5人に共通しているのは、複雑な系に対して、それが気候であれ経済であれ政治であれ、各人とても謙虚な姿勢であるということだ。シンプルなわかりやすいストーリーはすぐに熱狂的に広まるけれども、おそらく一つとして真実ではない。アリが象を斜め切りするなどそう簡単にできるものではないことを、とてもよくわかっているからだ。」吉成真由美氏
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国際関係、グローバル経済、テクノロジーから建築や気候変動モデルまで、ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイルなど5人の識者へのインタビューで構成された現状分析からの未来展望、温暖化やシンギュラリティなどその見解に識者の間でも見解が違うのが興味深いところです。と言いつつもこれで未来の方向性をはっきりと打ち出しているわけでもなく、分かったのは先の見えない不確実性の時代であるということ、努々分かりやすい物語で感情に訴えて来るやつを信用してはいけない、丹念に事実を拾い集めて自分で考えるしかないのだな。
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インタビューの端々に初めて知ることが満載。ネットで調べながら、ようやく付いていく感じだが、大いに知的な刺激を受けた。たまにはこういったことも考えねばという気になる。。
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世界で繁栄した国々は括目すべきことに、すべて民主主義国家であると指摘されていましたが、繁栄した国の筆頭がアメリカであるのなら民主主義の限界が現れてきたような気がします。100年後、200年後は私たちが想像もできないような、新しい主義に基づく国家運営がなされているのでしょうか。
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ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンの世界を牽引する5人の偉人たちへのインタビュー記事だった。
近い将来シンギュラリティーに到達してポストヒューマンの時代がやってくると言っているカーツワイルが、AIが囲碁のプロ棋士を破る時期を的確に当てたと、羽生さんの著書「人工知能の核心」で読んだ記憶がある程度で、ほとんど知らない人ばかりだった。
しかし、世界的に有名な人たちであるだけに、しっかりとした芯を持っており、学ぶことが多かった。
慣れない分野の知識であるだけに自分で言語化できるレベルにはなっていないが、普段はあまり触れることのない政治や経済、教育などさまざまな分野のことを知ることができた。
5人の中で、建築家の「ビャルケ・インゲルス」のことばが心に残っており、でき限り全ての要求にイエスと答えるように努力すると発言している。
両方の要求を聞き入れると破綻するプランもどうにかして両方のニーズに答えようとする姿勢が素晴らしく、そこからイノベーションが起こると信じていた。
複雑なニーズに答え、新しい発想を生み出したときの快感は計り知れず、みんなが幸せになる方向への努力は楽しいものだと思う。
最後にインタビュアーの吉成真由美さんが書かれていた言葉も印象的で一部紹介する。
「人間の記憶はカメラやビデオのようにはっきりしたものではまったくなくて、実にいい加減だ。たとえよく知っている人の顔でも、その詳細まで思い出すことができないことはよく知られている。しかしまさに記憶がいい加減であるそのことによって、まったく関係のないアイディアを自在に結びつけることが可能になり、創造性(クリエイティビティ)というものが生まれてきて、それが進化に有利に働いてきたのかもしれない。そうだとすると、もしAIの発達によって、さらにはAIと人間が一体化することによって、われわれの記憶が明確・鮮明・大容量になっていった場合、クリエイティビティのほうが犠牲になるということはないのだろうか。」
AIが人間の仕事を奪う時期がくると言われているが、こういったAIにはできない人間の良さを伸ばしていきたい。
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キンドル月替りセールで安くなっていたので購入。
象を調べるアリの1番先頭にいる何人かの著名な人物に象について聞く本。細かな理論ではなく、何をどう考えているかをわかりやすい言葉で説明されており、内容以上に分かりやすいし、気付きも与えてくれる。科学者である方々が、文学やビジネスについても敬意を持って語っている点はありがたい。
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P309 フリーマン・ダイソン
何かをする前に全てを学んでおく必要があると思わないこと。一番いい学習のやり方は、実際にやってみることです。(模擬ではなく)実際の問題を解決するために努力することです。その過程で一体何を学んだらいいかが分かります。非常にたくさんの人たちが、何年も大学や大学院で時間を使っています。サイエンスのビギナーになるために、まずすべてを学ばなければならないと思うからですが、それは間違いです。実際の問題に挑戦すべきです。そうすれば、学ばなければならないことはそれほど多くないと気づくはずです。
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やっと読み終えた。
2ヶ月かかったんじゃないかな?
今年最後の読書になりそう(笑)
すごく良いこと書いてあるし、何かを成し遂げた人の言葉はやっぱり深いなぁ、と思いつつ。。。
インタビュアの人も、インタビュー受ける人達も頭良すぎ。
天上人の会話や思考方法を知るにはいい本かも。
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(途中memo・雑考、整理前)
シンギュラリティ、ニューエイジ、サイバーパンクの夢:
シンギュラリティの論をすすめると、やたらとバカ扱いのニューエイジの夢がちらつく。
・
物理的に足りなくなった大脳新皮質が外側へ拡大していくときに、スマートフォンやインターネットを通じ、点データをつないだネットワーキングやクラスタリングは爆発的に線形を飛び出し、指数関数的に拡張してゆく。
そして、バラバラの個というよりは、さざ波のようにおしてはかえす、人間、動物、生物の行動パターンや自然を観るとき、これら現象は、先人たちが追い求めた真理(神)の方程式のようなもの、本書にも断片的に述べられたωポイントへ向かう過程における、エネルギーの移り変わりやエントロピー変化の連続が繰り広げられているだけのことなのだろーか。 もしくは、すでに空間に含まれる全てが記された巻物の最後に記されているはずのオチを知るための解析、解読作業なのだろーか、とか。
・
ポパーの「開かれた社会と…」は、傲慢なエリート主義で、結果のコストを負わなくていい立場での言説…というのは、そーなのかも、と思った。
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・「宗教というものは、われわれの知性がまだ黎明期にあったころの残滓であって、われわれが理性とサイエンスをガイドラインとして採用するようになれば、消滅する」(ラッセル)
・「私の所属する教会では、神を信じる人もいるし、そうでない人もいます。それはどうでもいい。教会に所属する際、何を信じているかを聞かれることはありません。」(ダイソン)
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その道を究め、そして広く世界的な問題についても発言をしている著名人に「人類の未来」についてインタビューをしたもの。インタビュワー・編者はNHKの吉成さん。
インタビューを行ったのは次の五人。
・ノーム・チョムスキー「トランプ政権と民主主義のゆくえ」
・レイ・カーツワイル「シンギュラリティは本当に近いのか?」
・マーティン・ウルフ「グローバリゼーションと世界経済のゆくえ」
・ビャルケ・インゲルス「都市とライフスタイルのゆくえ」
・フリーマン・ダイソン「気候変動モデル懐疑論」
面白いのは、各人が結論が出ていない大きな論点に対して明確な意見を持っていることだ。
特にシンギュラリティや気候変動については、それぞれ違う意見を持っている。チョムスキーはシンギュラリティに対して懐疑的だし、当然レイ・カーツワイルはその到来を信じている。
チョムスキーは日本の平和憲法を高く評価する。カーツワイルは情報技術だけでなく、長寿を実現するナノテクを含む医療技術やエネルギー技術、食糧生産のバイオ技術などの指数関数的な進歩が世界を変えることを信じている。マーティン・ウルフはユーロの通貨統合を失敗と断じる。フリーマン・ダイソンは温暖化を宗教と断じる。原子力には賛成だ。
面白いのは最初のチョムスキー以外の人に、それぞれ推薦図書を聞いている。特徴が出てよい。『心の社会』...読まないとな。
カーツワイルは、マービン・ミンスキー『心の社会』とガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』
ウルフは、バートランド・ラッセル『西洋哲学史』、ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』、マキャヴェリ『君主論』、エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』
インゲルスは、キム・スタンリー・ロビンスンの火星三部作『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』『ブルー・マーズ』
ダイソンは、E.T.ベル『数学を作った人びと』