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商品説明
世界的な免疫学者・多田富雄は、二〇〇一年、脳梗塞に倒れ、言葉を失い右半身不随になった。しかし、重度の障害を背負いながら、現在も著作活動を続けている。障害者の先頭に立って介護制度の改悪に抗議し続ける著者は、自分の中に生れつつある新しい人を「巨人」と呼ぶようになった。杖で歩こうとするときの不器用な動作、しりもちをついたら、どんなにあがいても起き上がれないという無様な姿。言葉数の少ない「“寡黙”なる巨人」である。【「BOOK」データベースの商品解説】
【小林秀雄賞(第7回)】あの日を境にしてすべてが変わってしまった。人生も、生きる目的も、喜びも、悲しみも…。脳梗塞に倒れ、重度の障害を負った世界的な免疫学者・多田富雄の9カ月にわたる壮絶な闘病記とその後のエッセイをまとめる。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
多田 富雄
- 略歴
- 〈多田富雄〉1934年茨城県生まれ。千葉大学医学部卒業。東京大学名誉教授。免疫学者。抑制T細胞を発見。野口英世記念医学賞など受賞多数。84年文化功労者。「免疫の意味論」で大佛次郎賞を受賞。
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紙の本
脳梗塞で半身不随のからだの中に生まれた、鈍重な巨人と始めるあらたな生活。
2010/04/06 16:11
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は2001年、旅行先で脳梗塞の発作で倒れ、半身不随になった。「寡黙なる巨人」は倒れてから退院できるまでになる一年余りの、著者の闘病記である。後半には「新しい人の目覚め」と題して、その後の著者のエッセーが収められている。
右半身が動かせず、飲み込む事もしゃべることもままならない状態から、あるとき少し指の先が動く。そのようにして身体がもう一度意志を持って動き出すことを、著者は「自分のなかに生まれた巨人」と表現する。
「自分の中に新しく生まれた、思い通りには動かない、鈍重な、寡黙な巨人。君と一緒に生きていこう。冒険しよう」。「寡黙なる巨人」はそのような感慨を語る著者が、傍らに立つ「妻」というもう一人の同行者にも言葉をつなぐことで終わっている。自らを励まし見直し、ここまでの文章を慣れぬキーボードを慣れぬ左手で操作するのは想像以上の苦労であっただろう。大きなハンディにも負けず遂行し、体験を分かち合ってくださった著者に感謝したい。
著者の闘病については、前に「邂逅」や「露の身ながら」で読んでいたが、闘病記そのものである本書はまだだった。最近「奇跡の脳」を読み、同じ左脳での梗塞なのに随分違う体験のように感じたので本書も読んでみたのだが、発作のときの記憶が全く違う。多田さんの場合は「白いタールに絡みつかれる」「恐怖はないが孤独」と、あまり良い記憶ではない。(「奇跡の脳」では、「充足感」「安らぎ」などの良い記憶が強調されていた。)
いろいろな方があると思うが、回復して語ることができるようになった方には是非それぞれのケースを伝えて欲しいとお願いしたい。それは今後同様な発作を経験する人、看護する人に大切な情報になるだろう。
後半のエッセーは、様々である。病院での対応や介護の法律に怒りを著したもの。新しい生活の中で見いだしたもの。先達たちの思い出。隣りの火事(このニュースは御存知の方もあるだろう)では、いざと言う時にこのような病人がどんな状況に出会うのかを、「半身不随の老人一名、避難を介助」と報告された、と醒めた書き方で読み手をかえってほっとさせてくれる強さである。テレビで回復のドキュメントが放送されると、励ましや問い合わせばかりでなく「免疫を高める薬・食品」を紹介してくる話「善意の謀略」は、免疫の大家である著者の困った顔が目に見えるようである。
決してあきらめず、悲観もしない著者の強さはどこから来るのだろう。時には「恵まれた患者の贅沢」であるような著述もあるが、それでも「病を経て書き続けることができる」利を活かし、書き続けて欲しいと思う。