資本主義にどの国も向かう・・・よくなっているという意味ではないが
2022/05/06 12:08
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投稿者:momochan - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国も社会主義革命を経て結局資本主義化(経済成長に成功)、他方で米国はじめ西側資本主義国も問題だらけ、特に生まれながら背負う「格差」は深刻だ、という著者の論述は説得力に富む。
・・・だが、一体、北朝鮮はどうなるのか?それから、他国を破壊しまくり、自らの思うとおりにならない隣国を破壊し尽くそうとするロシアはどうか?露中の論理では、米国も似たようなことをやって来た上、「冷戦の論理」でロシアが西隣を攻撃「せざるを得ない」ように仕向けているとなるのだが、これも突きつめると資本の論理ということ?
ともあれ、さらに展開していく価値のある秀逸で説得力のある立論には、非常に感銘を受けた。
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカ型と中国型の資本主義。しかし、アメリカ型のリベラル能力主義もエリート層が政治権力の支配を進めれば、中国型の政治的資本主義と同じ終着点を到達してしまうだろう。中国型の資本主義即ち政治的資本主義のように人々の頭の中から政治を消去することに目的をもっているのだが、リベラル能力資本主義の政治に人々が幻滅し無関心が広がるとき中国化に拍車がかかるという。なるほど、どこぞの国でもありそうだ。
グローバル化の中で移民問題と政治の腐敗問題も大きく取り上げられている。本書で度々引用されるアダム・スミスやマルクスは偉大な慧眼の持ち主だったのか。ともあれ、考えさせられる1冊だった。
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タイトルからすると資本主義礼賛本に見えるが、目次で惹きつけら得て手に取ってみた。読みにくい箇所はあるが、得るものは多かった。いまの資本主義を批判的に考察しつつ、代替がないなかで現実的な展望を示してくれる後半は読み応えあり。
前半のアメリカ型のリベラル能力資本主義と、中国型の政治的資本主義の分類はわかりやすい。さらに西側の価値観でいずれ中国型は崩壊するorアメリカ型に集約するというスタンスはとっていない。いずれも課題を抱えつつ生き延びている。後者はソフトバワーが乏しく、「輸出」できるかが課題。なお、昨今はやりの共産主義の見直しについては、著者はばっさり切って捨てており小気味よい。
後半に出てくる、家庭や個人にまで資本主義が入り込んでいるとの指摘は視座として大事にしたい。と同時に、人間の幸福につながるかというアダム・スミスの問題意識を引用しながら何度も問いかける姿勢にも同感する。
資本主義は無限の膨張を続ける。資本主義が自分の体内に入ってきたとき、「抗体」的なものを体内にあわせ持たないと、心の均衡を保つのが難しいのではないかと感じた。
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人種、生い立ち、信念や動機が異なっても、
お金や利益の話となれば、すんなりと理解する。
リベラルな能力主義的資本主義:欧米
政治的(権威主義的)資本主義:中国
リベラル資本主義
人的資本の高い労働金持ち=資本金持ち
同類婚が不平等を強化
アメリカの裕福な10%が金融資産の90%を保有
長期収益の資産を多く所有、税金比率が少、参入手数料と管理コストが低い
資本とスキルの平等を授ける資本主義は可能か?
労働組合、大衆教育、税金、政府による所得の移転(年金や福祉)が行き詰り
→中間層を優遇、労働者の資本保有(持ち株会)、相続税、公立教育
現実は、
福祉国家にスキルの低い移民が集まる →政府サービスからの金持ちの撤退
超富裕層からの政治献金 →優位性の保証
高額な私立教育が優位に 高い授業料で最良の教授を集める →公教育離れ
→技術進歩が続く限り、富や教育に基づく部外者に開かれた世界
共産主義
封建制から資本主義への移行システムが共産主義
地主の締め付け、外国による支配を覆す
貧しい国は市場のインセンティブが欠如し 中央計画の利点から恩恵を受ける
中国=資本主義
国政企業20%(1998年は50%)
資本主義=民間の生産手段+賃金労働者+生産や価格設定の決断が分散化
鄧小平 鳥を広々としたかごに入れておく
資本家の利害が支配的な力を持つことを許さず、政策に従い民間を統制
法ではなく、恣意的な意思決定 無法地帯が組み込まれたシステムという矛盾
不平等の全国拡大 たたき上げの資本家階級の台頭
政治的資本主義の特徴
1.優秀な官僚 2.法の支配の欠如 3.国家の自立性
2つの矛盾
1.官僚の管理能力と自由裁量 2.法支配の欠如による腐敗とシステム正当化
政治を経済と切り離し、腐敗の少ない政権を維持できそうな国はほとんどない?
グローバリゼーション=資産の移動+労働の移動
市民権の市場取引 ギリシャ 25万ユーロ、イギリス 200万ポンド
第二のグローバリゼーション 生産の移動 ・・制度の重要性 技術の移転
第三の・・・ ・・労働の移動からの解放?
原子化と商品化 モノやサービス何でも買える 自分の時間も含め何でも売れる
自身が経済媒体=商品に
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ブランコ・ミラノヴィッチ(1953年~)は、ベオグラード生まれ、ベオグラード大学博士課程修了、世界銀行調査部主席エコノミスト、カーネギー国際平和基金シニア・アソシエイト等を経て、ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。
本書は、2019年発表の『Capitalism, Alone:The Future of the System that Rules the World』の全訳で2021年に出版された。邦訳書では、『不平等について』(2012年)、『大不平等』(2017年)に次ぐもの。本書は、「エコノミスト」、「フィナンシャルタイムズ」、「フォーリン・アフェアーズ」等の雑誌・新聞でベストブックに選ばれている。
私は以前より、世界に広がる格差の元凶である資本主義に問題意識を持っており、これまでも、ジョセフ・スティグリッツ、水野和夫、トマ・ピケティ、斎藤幸平、広井良典等の多数の著書を読んできたが、本書を手に取ったのもその流れによる。
本書の概要は概ね以下である。
◆資本主義は、我々の世界に、営利を目的とするという、共通の価値観・ルールを生み出すことに成功した、最も安定した社会経済システムである。現在の世界の資本主義の体制は、欧米諸国の「リベラル能力資本主義」と中国に代表される「政治的資本主義」に分けられる。「リベラル能力資本主義」は、民主主義と法の支配に結びつき、技術革新を奨励し社会的移動性をもたらすことで経済の発展を促し、かつ万人に概ね平等の機会を与えると考えられている。一方、「政治的資本主義」は、政治的エリート層を惹きつけるとともに、高い成長率を約束するかに見える。
◆「リベラル能力資本主義」は、第二次世界大戦後の「社会民主主義的な資本主義」を支える「4つの柱」となっていた、交渉力の強い労働組合、教育の大衆化、累進性の高い税負担、政府による大規模な所得移転が、次第に機能しなくなった結果生じ、不平等を不断に拡大させることとなった。
◆中国などの後進の被植民地国の多くが社会主義革命を起こしたのは、教条的なマルクス主義が主張するような資本主義の矛盾が原因ではなく、地主に代表される旧社会勢力を一掃し、かつ、外国資本による支配を覆すことができる、唯一の組織化された力が共産主義勢力であったためで、“資本主義的な経済発展を実現するために”社会主義革命が必要だった。こうして成立した「政治的資本主義」の特徴は、テクノクラート的な官僚システムの存在、そのシステムが邪魔されないよう法の支配が欠如していること、民間部門を統制できる国家の存在の3つであり、それ故に深刻な腐敗が生じやすいという矛盾を持つ。
◆「リベラル能力資本主義」と「政治的資本主義」で進行する不平等は、グローバル・チェーンの進化、即ち、モノと資本の移動が自由になり、先進国の工場が簡単に途上国に移転するようになったこと、情報通信技術の発展によって、事細かに国際分業することが可能になったことの2点を通じて有機的に結びついている。
◆様々な問題を孕む超商業化資本主義社会だが、これに代わる社会経済システムはない。資本主義に組み込まれた競争的かつ物質欲的精神を捨てれば、結局は所得が減り、貧困が拡大し、技���進歩が減速・逆転する。物質欲的精神を捨ててもなおかつそれらが維持できるなどと思うのは無理である。
◆「リベラル能力資本主義」がいかに進化していくかについては、資本所得の集中がより少なく、所得の不平等がより縮小し、世代間の所得の移動性がより高くなることにより、「民衆資本主義」に移行できるか否かにかかっている。仮に、「リベラル能力資本主義」が政治的な力と結びつき、金権主義的なものになれば、「政治的資本主義」に似通ったものとなるだろう。
本書の特徴は、何より、中国の社会経済システムを、日米欧諸国の「まともな資本主義」に対する「異形の資本主義」とは位置付けずに、その歴史に基づいた一つのシステムとして分析し、更に、日米欧諸国の「リベラル能力資本主義」でさえ、格差・不平等が拡大し、富裕層が政治的な力と結びつけば、そうしたシステムと似たものになると警鐘をならしていることだろう。
また、私が問題意識を持っている格差の是正については、「リベラル能力資本主義」から「民衆資本主義」への移行がポイントとしており、この点は同意する。(ただ、斎藤幸平氏が論じている地球環境の持続可能性を危うくする(資本主義と不可分の)物質欲的精神については否定していない)
資本主義の未来(ポスト資本主義)を考える上では一読の価値ある一冊といえる。
(2022年2月了)
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中国が共産主義国家なのか社会主義国家なのか資本主義国家なのか。よく考えてみたら、中国がどう、と言う前に、それぞれの定義も曖昧なままこれまで過ごしてきていた。
それぞれの定義をある程度分かったとして、中国はどうなのか、と思ったとき、多分10年前ならまだ、それを西欧と比較して、どう、と分析したものは、そう多くなかったのではないか。
中国の存在感の増大を多くの人が感じているのだろうか。
現在の社会をどう捉えるか、示唆に富んだ良著。
もう一度読んでみたいと思う。
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21世紀の現在,名目上は共産主義国家も残っているとはいえ,実質的には資本主義しか残っていない。本書では,どんな資本主義体制があるか,そしてそれぞれがどんな特長と問題点を内在しているのか,今現在どうなっているのか,を明らかにしている。学術書の翻訳本ということで読むのは非常に疲れますが,読む価値はあると感じた。
本書で著者は,「共産主義(革命)」は先進国から遅れた封建主義体制国家を民衆主体の資本主義国家に変更させる役目を担っていた,と主張している。現状の結果を見るとその通り。まさに白眉。大変納得した。
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中国を政治的資本主義と説明してこの部分がメインとして長く書かれている。植民地から共産主義から資本主義となっていった第三国が説明されているが、日本についての記述は驚くほど少ない。
また、対処法としては、1 中間層の金融資産と住宅資産を優遇税措置をして、富裕層の相続税の増税、2公教育の予算の増額、3軽い市民税を導入して移民への反対を抑える、4政治献金を制限すること
と、とても分かりやすい対策である。
教養として読むには面白いが、卒論として使えるかどうかは不明である。
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俯瞰的なものの見方や、共通性とはどんなものかを実例を持ってていねいに解説してくれる。大学生のときにこのような本があったらぜひ読みたかった。もっと経済に興味を持ったことだろう。
本書では移民についての考え方と「政治的資本主義」が興味深い。
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中国などの権威主義と言われる国々は、社会主義を経て資本主義化したこともあり、亜流の資本主義国家と見なされることが多い。そのため、民主主義化しない中国経済は(純粋な資本主義ではないため)早晩行き詰まるという主張があったが、鈍化しない中国経済を受けて、この主張も信憑性が疑われ始めてきた。そのような背景もあってか、本書では中国に代表される政治的資本主義と、米国に代表されるリベラル能力資本主義をフラットに比較した上、今後の資本主義のあり方を考察している。
政治的資本主義では、国民の審判を受けることなく、一部のエリートが国の舵取りを担うため、人権侵害など大多数の国民が反対するであろう施策もやってのけるし、方向転換も困難。その代わり、高い成長率を維持し続けることで、国民に現体制の利点を示し続ける必要がある(利点を示すのが難しくなると、情報統制で隠そうとするのかもしれない)。一方、リベラル能力資本主義でも、一部の富裕層が献金で政治介入するため、彼らに不都合な施策は実施されないし、富裕層は資本と労働の双方で高い所得を得るため、富の偏在は進む一方となる。
このようにどちらも完璧ではないが、本書では、それでも資本主義よりマシな制度は見当たらないということで、所得の不平等と永続的なエリート層の形成を打破した次なる資本主義として、民衆資本主義を示している。
政治的資本主義に対する客観的な分析も、問題はありながらも資本主義の枠組みの中で調整していくしかないという結論も、地に足がついてて納得感があった。
また、共産主義の歴史的な位置付け等、目新しい視点もあった。共産主義を最終ゴールと考えるマルクス主義者でも、ただの回り道と考えるリベラル派でもなく、本書では、封建主義から資本主義に移行する過渡期として共産主義を捉えている。確かに、社会の発展経路は一律ではない(西洋諸国と同じ経路で、他国も発展するとは限らない)という前提で歴史を振り返れば、その通りかもしれない。
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資本主義と社会主義が想定と違いどういう形で進んだかなど、この50年の結果が素晴らしく冷静に分析、整理されている。手元に置いておきたい本。
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この本によると、現在の資本主義社会は、リベラル能力資本主義(いわゆる民主主義国家)と政治資本主義(いわゆる権威主義国家)に分けられるそうです。リベラル能力資本主義の長所として、誤った経済政策でも修正しやすい点などが挙げられます。しかし、この体制では富が過度に集中した一部のエリートが、持てる富をさらに増やそうとしたり、税金を減らそうとしたりして、政治に介入することが予測されます。その結果、富を持つエリートに権力が集中し、結局政治資本主義に似た社会になる可能性があるそうです。まさにトランプ大統領の就任式に出席していたIT企業のトップたちを思い出し、この本で語られているような未来が現実になったのではないかと感じ、何となく暗い気持ちになりました。その他、エリート層における富、地位の継承(遺伝?)、グローバリゼーションと福祉国家の関係など、日本を含めたリベラル能力資本主義の今そこにある問題を教えてくれる、価値ある著作だと思います。