紙の本
個人的オールタイムSFリストが書きかわった!?
2023/01/18 04:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たこい - この投稿者のレビュー一覧を見る
いかにも現代らしいモチーフ、アイデアの処理の仕方が巧みで、ご本人もミュージシャンとのことで、音楽の要素もあちこちに散りばめられているところに好感。一読、音楽とSFの関係性から、かつてのサイバーパンクをちょっと連想した。
自分はサイバーパンクの運動そのものには興味が持てなかったが、ギブスンの短編集『クローム襲撃』は「明るくない未来」の片隅で生きる人間を手を変え品を変え描いた点でエポックメイキングな作品集だったと思っていた。この短編集にはそれ以来の衝撃を受けた。
あと、前半の収録作からはウィンダムが描いた終末感への変奏も感じられる気がする。個々の作品のアイデアと語り口のうまさ。なかなかないことだけど、自分の中のオールタイムベストを更新する候補になるくらいの短編集。繰り返しになるかもしれないが、ロックや音楽がモチーフの作品が多いのもポイント高し。
紙の本
期待してなかったんだけど
2023/07/04 16:31
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投稿者:yukiちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやあ、期待外れの面白さ!
読みだしたら止まらない。次の作品のページをめくる指がもどかしい。
その中でも、特に気に入った作品を2本。
「風はさまよう」
他の星を目指す世代型宇宙船の中で、地球の文化や芸術をアーカイブしたメモリがすべて失われてしまう。残されたものは、地球を知る世代の記憶のみ。そして、その記憶を受け継いで新たに記録していくことが乗員の仕事となった現在。
もしも、そんな状態に置かれたら、地球を知る術を失った若い世代はどんな風に育つのだろうか。世代間の分裂は。温故知新は不可能なのか。
いろんなことを考えさせられた一編である。
「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」
クリスティの名作のタイトルをもじった抱腹絶倒のミステリー。
考えてもみてください。その辺の平行宇宙から集まった二百人もの自分が集うパーティーの中、そのうちの一人が殺される。
犯人は間違いなく自分(たちの中の1人)。探偵役を引き受けた私は、少しずつ違っている犯人の内面に迫り、発見することができるのだろうか。
もうシュールすぎて読みながらニヤニヤが止まりませんでした。
紙の本
SF短編集
2022/07/13 19:54
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
道路と繋がるハイテク義手や集団幻覚など奇天烈な設定から、殺人事件や戦争、死者との対話、音楽と多岐にわたるSF短篇集。
背景を鮮明に描写するスタイルではないからわかり難い部分も多々あったけど、13編の中にいくつ気の合う話があるかを探すのもありかも
電子書籍
SFだが
2023/07/11 22:00
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
一風変わったSFです。SF短編の集まりなので、ちょっとコレは無いだろ的なお話も含まれていました。(ただし、私的に、ですけど)一読をオススメします、個人的に二重丸のお話は、そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」です。
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13の短編が収められている。戦争・殺人事件・セイレーン・宇宙船・音楽・ジェンダーなど題材は多岐に渡りながら、そのどれもが人の心の深い部分に語りかけてくる。琴線に触れ、誰かにこの素敵な本のことを話したくてたまらなくなる。
様々な人生を読んでみて、人の数だけある未来が希望そのものに見えた。どう生きてきたか、これからどう生きるのか、悩み受け入れて進んでいく、人々のありのままの姿がそこにあったのが印象的だった。
特に好きなのは『いずれすべては海の中に』『彼女の低いハム音』『死者との対話』『深淵をあとに歓喜して』『風はさまよう』『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』の6話。約半数だ。
いつも最後に余地を残してあるのが想像を掻き立て、可能性を感じさせてくれるのが良かった。
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謎の新技術、理由のわからないディストピア、シンギュラリティのように見えるけどそこまでいかない何か……そんなもろもろと対峙しながら、カタストロフに至るでもなく、でも何かがあらわになる物語たち。すき。
一筋に伸びる二車線のハイウェイ
コンバインの事故で腕を失い、義手とマイクロチップを装着した青年。マイクロチップのせいなのか、義手が自分をコロラドの道路だと思っていることに気づく。移植したものがなにかの記憶を宿している話はけっこうある。でも義手で、コロラドの道路ってなんでやねん(笑) 奇想ここにきわまれりだけど追いつめられないのがいい。
そして我らは暗闇の中
夢で見たベビーが実体化し、南カリフォルニア沖合いの岩の上に現れる。
記憶が戻る日
むごい戦争のあと兵士たちの記憶が消され、年に一度だけ思い出すことができる。パパは戦争で亡くなり、ママは顔に火傷を負って車椅子に乗るようになった。でもふだんはその理由を思い出すこともできない。
いずれすべては海の中に
表題作。タイトルが詩ですわ。瀕死の状態で浜に流れ着いた女と助けた女。流れ着いた女は歌手で、助けた女は漂着物を漁って生活しているらしい。助けたと言っても積極的に介抱するでもなくむしろ邪魔にしているような……。そして世界はどうやら何かが起きたようで、つまりディストピアなんだけど、この場所はあまりにも切り離されていて状況もよくわからない。そんななか、ゆるーく何かが芽生えていく感じがよい。
彼女の低いハム音
これも状況のわからないディストピア。おばあちゃんが亡くなり、父親が代わりにロボットを作る。娘は受け入れない。そんなおり、突然親子は家を捨てて逃げなくてはならなくなり、ロボットのおばあちゃんを連れて逃避行へ。
難民になるとき、人はこうしてわけもわからぬまま逃げる羽目になるんじゃないのか。そしてここでもまたゆるく何かが芽生えていく。
死者との対話
惨劇の館に惹かれつづける友人と組んで、その家の精巧なモデルを作り、なかにあらゆる情報を集めたAIを組みこんで売りだすという商売をはじめた「わたし」。友人のイライザは成功者になるけれど……。
時間流民のためのシュウェル・ホーム
temporary displaced を「時間流民」と訳してるんだ。temporary には「一時的に」という意味もあるし、「時間の上で、時間がらみで」という意味もあってなかなかやっかいだけど「流民」に「一時的」の意味も含ませていて高等技術。誰もがその場でタイムスリップしてるふしぎな人たちのホーム。やたらと"we"を使いたがるケースワーカーみたいな人よく小説に出てくるよね。多くの人をイラッとさせるしゃべり方なんだろうな。
深淵をあとに歓喜して
これはすごく涙腺に来る物語。ひとつの過酷な仕事がもとで夢を捨ててしまい心も閉ざした夫。生涯寄り添ってはきたけれどずっともどかしさをかかえてきた妻。人生の最終盤に来て夫が抱えてきた苦悩の謎を少しでも解きたいとねがう……。何と重ね合わせるかは人それぞれだと思うけれど、なんかすごく刺さった。
孤独な船乗りはだ���一人
「坊主」と呼ばれ旅籠ではたらきながら生活する両性具有のアレックス。自分がどの範疇からもはずれていることを知っているが、おかみさんはそんなアレックスをつかずはなれず見まもっている。この村は港町だが少し前からセイレーンが岬に住みつき、だれも船を出せなくなっていた。そんなとき老船乗りがやってきて……。
なんの範疇にもはまらないこと。その孤独とその利点。それをつかずはなれず見まもる愛みたいなものが描かれていて胸を打つ。
風はさまよう
地球をはなれ何世代ものあいだ宇宙を旅している巨大宇宙船。その住民たちにとって、地球はもはや遠い記憶ですらなく、風も森も海もだれも見たことがない。そんな彼ら、彼女らにとって「歴史」とはなんの意味を持つのか? それを受けついでいくことに意味なんかあるのか。音楽はいったい何をもとにして作られ、うけつがれ、人の心を打つのか。根源的な問いかけがなされる短編。
オープン・ロードの聖母様
著者はミュージシャンでもあるのですね。ホログラムのライブが広まった世界のなかで、貧乏暮らしをしながら生身のライブにこだわるバンドを描く。熱い思いが伝わってくる作品。
イッカク
表紙にもなっている1編。クジラの形をした謎の車を運転してクライエントの目的地まで行くロードノベル。とある町で意外な事実が判明し……いや〜、これ最後の最後に謎の世界が広がってくる1編で楽しかった。
そして(Nマイナス1)人しかいなくなった
マルチバースのサラ・ピンスカーが大集合するイベントで殺人事件が起こる話。ドクター・ストレンジも真っ青なくらいすごいカオス(笑) アイディアがすごかった。
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作風としては、メインストリームより。というか、頭の硬いコアSFマニアになら「これはSF的ガジェットを使った普通小説で、SFじゃない」ぐらいは言われるかも知れない。読者によっては、どこがSFなのか、理解できないかも知れない「深淵をあとに歓喜して」あたりではなく、むしろSF的奇想が炸裂する作(たとえば「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」)でも、話のコアが奇想にはなく、普遍的な人間への興味がよりも重要なテーマとしてあることを言ってるんだけどね。そんな中にあって例外的な、奇想が物語を最後のところで吹き飛ばしてしまうような「イッカク」が個人的ベスト。
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ジャケ買いした一冊。表紙からは想像もつかない奇想天外な内容の短編集です。1番目で度肝を抜かれ(笑)2番目でうーむと唸り、3番目から(何か面白いかも…?)となって後は引き込まれるように夢中で読みました。「彼女の低いハム音」「孤独な船乗りは誰一人」「風はさまよう」が好きです(選べなくて3つになりました)
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宇宙に旅立ち、持っていった人類の文明のデータが消えた後の世界、船内で音楽を演奏するグループに参加している女性の話が特に良かった。
過去の名曲を再現しようとしても過去の作品全ては拾えない。
今同じ時間に存在しているものにも思いを馳せたり、これから新たに作り出すことに勇気をもらえる話だった。
「風はさまよう」の他
クジラを運転して旅する「イッカク」
多元宇宙のサラ・ピンスカーが集うサラコンで起きた殺人事件「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」
夫婦間の謎を妻が理解し進む「新縁をあとに歓喜して」などが良かった。
寝る前に少しずつ細切れに読むと、数日後に話の内容が追えなくなり、何度も止まった…理解力の無さです…いくつか、また読みかえします。
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装丁が可愛いのと、よく読んでいる冬木糸一さんのブログで高評価だったので手に取りました!なんとも不思議な短編集で、SFといえばSFなんだけど、あまりSFぽくなかった。
サラ・ピンスカーの作品はもちろん初めてで(『新しい時代への歌』はこの後読もうかなと思っている)、起承転結がはっきりしているというより、ある一部分を切り取る作家さんなのだなあと淡々と思いました。たしかに人生は基本は何かの一部分で、その後話が繋がっていっているのだから、明確なオチとかないよねえというのと、特に前半はなんともいえない寂寥感があって読んでて悲しくなったりしておりました。
あと好感が持てたのは「よくわからないアイディア」「よくわかからない時代」で、すべてが説明されるわけではないので、よくわからないまま話が進んでいく感じは、実際の未来ってそうなのだろうと感じられて私は結構楽しめました。
また同性カップルが多発というほど多かったのもアメリカっぽいなあと思いました。
特に好きだったのは、
「記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)」
「彼女の低いハム音」
「深淵をあとに歓喜して」
「孤独な船乗りはだれ一人」
「風はさまよう」
「イッカク」
あたりかな…
「記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)」はちょうど11/11のリメンバランス・デーのすぐ後に読んだこともあって、ヴェールと呼ばれる技術がリフトされ、選挙によってまたかけられてしまう一日がかなしくて、ありそうで、SFという感じで好きだった。
「深淵をあとに歓喜して」彼が何を見たかは分からない、だけれど老夫婦のロマンチックな話
「孤独な船乗りはだれ一人」は両性具有とセイレーンの話
「風はさまよう」実際にこうやって文化は変化してきたのだろう
「イッカク」もう乗り物が可愛いっていう時点で100点ですよね。そして実はボスのお母さんが…!?というのは面白かった笑
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「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」★★
「そしてわれらは暗闇の中」★★★
「記憶が戻る日」★★★★
「いずれすべては海の中に」★★★
「彼女の低いハム音」★★★
「死者との対話」★★★★★
「時間流民のためのシュウェル・ホーム」★★★
「深淵をあとに歓喜して」★★★
「孤独な船乗りはだれ一人」★★★
「風はさまよう」★★★
「オープン・ロードの聖母様」★★
「イッカク」★★★
「そして〈Nマイナス1〉人しかいなくなった」★★★
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「いずれすべては海の中に」
13話からなる人間臭い不思議で静かなSF短編集。短編だけど、どの話もその世界観にするりと馴染めたので、読みやすかったなぁ。
「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」「死者との対話」「そしてわれらは暗闇の中」が特に好きかな。
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地に足のついた日々に存在する幻想
多彩。2010年代~に書かれたSFなのになぜか懐かしさも感じさせる。SF関係なく分からなさがフランス映画っぽくもある。「奇妙な味」のカテゴリに入るかな?
個人的お気に入り
「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」
自分の体の右手と左手が考える所在が違うために混乱する男。引き裂かれそうなヒリヒリ感がいい。
「いずれすべては海の中に」
表題作。不安の中ではぐくまれる一対一の人間関係。ノアの箱舟に乗っているときってこういう気持ちかな。
「風はさまよう」
これは、実際に起こりそうな。記録が記憶になる怖さ。震えた。
「イッカク」
映像にしたら可愛いだろうなぁ。クジラカー。
「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」
並行世界。ロビーにいっぱい集まったサラ・ピンスカー。面白すぎる。
幻想的な作品たちの印象を写し取ったような表紙のイラストレーターさんはカチナツミさん
https://twitter.com/natsumi_kachi
乗代雄介さんの『本物の読書家』の文庫本表紙も描かれています。
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どのお話も最後は読者の想像にお任せします、的な感じで余白があるところがとても好み。それぞれかなり特殊で面白い世界観のお話にも関わらず、説明的な文章がなく、唐突に始まってちょっとずつ輪郭がはっきりしていくところも良かった。
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本を閉じたとき、この本に出合えて良かった、そう思える幸せ。
SFの濃淡はありつつ、短編たちを繋ぐ”喪失”や”音楽”といったテーマの描かれ方が見入るほど聞き入るほどに美しく胸の内に響いてくる。
掌編くらいの短さもあれば、比較的長い物語もあるのでその点も読みやすく、自分だけの一遍と出会えるのでは。私のお気に入りは「記憶が戻る日」「風はさまよう」「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」。
SFだからこそ浮き彫りになる人間としての普遍的な願いやシチュエーションとしての幻想性など、私の大好きなものがきらりとつめこまれた宝石箱みたいな一冊でした。