くみみさんのレビュー一覧
投稿者:くみみ
紙の本護られなかった者たちへ
2021/02/18 03:39
映画化決定!
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
高齢化の日本の福祉が抱える闇に迫った社会派ミステリー。真っ新な状態で読み始めたならきっと何度も気持ちが移り変わり、著者の「あなたにこの物語の犯人はわからない」の言葉通り、何処に怒りの矛先を向けていいのか分からず憤ること間違いなし。経歴、前科、生活、全てに置いて表面を軽く掬い取っただけの他人への杜撰な評価を苛立たしいまでに代弁した問題作。救いのない話の中で利根や刑事コンビ、その他登場人物に任侠があり、それがまた切なく感じ、感情を煽る展開が絶妙で堪らなかった
紙の本52ヘルツのクジラたち
2021/02/18 04:01
2021年本屋大賞ノミネートの傑作
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
過酷な環境で育ち人生を諦観した主人公が移り住んだ先は偏見だらけのド田舎。何にも侵されない“孤独”を愛し同時に憎む、虐待を受ける少年との出会いで翳った視界を拭っていく愛の物語。少しずつ交える回想のタイミングが絶妙で、伏線の上をすり抜ける様に撫で大事に回収し現れる過去に堪らなく共鳴した。届かない周波数で鳴く【52ヘルツのクジラたち】がまだ気付いていない孤独の先の希望を描いた感動作
電子書籍橘くん 抱いてください! ハジメテの相手は同僚王子!? (1) 【特別描きおろし漫画&電子限定ペーパー付】
2021/08/31 18:34
オフィスラブ
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
女子校育ちで男性に不慣れの27歳ヒロインが、唯一気兼ねなく話せる人気者の同僚王子に、予てからコンプレックスであった未経験を告白。初に見えて好奇心旺盛のヒロインと逆にたじたじの王子の攻防が見所。両片想いなのかな?描き下ろしもたくさん
紙の本スモールワールズ
2021/04/22 22:20
ミステリアス
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
6つの異なる毒素が注入された短編集。少し見えたと感じた先が思わぬ方向に転がり落ちていく恐怖と焦燥感を煽るミステリアスな作品。全編通して他人では触れ難いテーマで、読後タイトルが意味が重くのし掛かってくる不思議な後味
2021/04/20 15:36
華やぐ香り
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
老舗ホテルで念願のアフタヌーンティーチームに抜擢された三十路手前の主人公。幼い頃から“スイーツ”に特別な想いを抱いていた事で見過ごしていたキラキラの裏側、現場での理想と現実の差に悩みながらも温かい人に恵まれ道を切り開いていく菓子テロ物語。生唾もののスイーツの数々とその歴史、目を瞑れば香りとイメージが広がってきそうな幻想的なシーンもとても魅力的でした
電子書籍茜唄(上)
2023/03/17 17:43
今村版『平家物語』
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
平清盛最愛の子・知盛視点で紡がれる、戦がもたらす景色が導く未来を示した、強くて脆い『平家物語』今村版、上巻。
平家滅亡後の『平家物語』誕生秘話という体の、ミステリアスな語りにすぐに心を持っていかれた。
優しい調べで溢れる慈愛に包まれた日常は、傍若無人な平家の悪役イメージを一変させ、「人は皆同じ」という当たり前な事を再認識させてくれた。ご時世も相俟って、戦の中での不条理や葛藤がより痛切に響いて、ページを繰る手が震えた。穏やかで策士な知盛と武骨な教経、一見対照的な二人に通じる実直さが結ぶ深い絆に、平家を応援せずにはいられなくなりました。平家側から描かれた物語だけど、格好良いだけじゃない「生」への泥臭さなど、飾り気のなさに好感をもてた。
穏やかなシーンも多い上巻は平家優勢で、更なる激動の下巻へ。
紙の本分岐駅まほろし
2022/11/16 16:03
後悔と前進
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
過去の後悔に囚われ前を向けなくなった人達が、いくつかの条件を満たすとたどり着く不思議な駅。
「過去に戻れる」という王道設定の中でも、過去作『さよならの向う側』と共通して「条件」を付ける事でオリジナリティを見出だすのがとても巧い。仮に成功していても、紙一重の向上心と欲深さで、別のルートをたどった人生を見たくなる人間の好奇心を擽る作品。
選択ミスと思われるルートの中でも、変えられるものが沢山あるという事を教えてくれる、前向きなヒューマンファンタジー
紙の本透明な夜の香り
2020/11/02 08:22
淡く切なく心に落ちる
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
のっけから圧倒的に漂うミステリアスな香りに眩暈がするほど静穏な世界観。傷を閉じ込めた主人公と傷ごと纏う調香師が緩やかに進める歩を、優しく包む周りの人柄にもとても惹かれた。ハーブを扱った料理が沢山出てくるのも大きな魅力。とても好きな空気感で淡く切ない作品が好きな方にはとくにもってこい
2020/10/25 16:21
正義とは?
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
正しい事が必ずしも幸せとは限らない、の見本のようなお話。ただもっと早くいろんな事に気付いて、周りに恵まれていれば、もっともっと初期の段階で何か変えられたんだと思う。とにかく考えさせられるお話。この結末になったのなら、今後二人を含め良くしてくれた刑事さんにも幸せが未来がある事を祈るばかり
電子書籍うたかたモザイク
2023/03/29 04:17
傑作集
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
恋のような芽、愛なのか心許ない塊、異なる種への不思議な愛慕、性への意識など、書き下ろし含む16の物語を詰め合わせた彩り豊かな短編集。
読後一番に感じたのは、タイトルが素晴らしい。どんなに芯があっても、寿命がある限り「うたかた」でしかない想いの、甘さと苦さのコンビネーション。集めた欠片で思い思いの形に魅せる「モザイク」。凄くフィットしていて、タイトルを見ながらもう一度作品を一つずつ浚ってみたくなった。
猫への輪廻や、妖怪のようなもの、技術が発展した近未来など、ミステリアスでファンタジックな設定が多い。しかしどんな状況でも人の感情の在り方はそれほど大きく変化はしないから、その部分が極めて丁寧に描かれている事で現実味も残り、共鳴する物語も多かった。
特に『BL』『ごしょうばん』『永遠のアイ』のあと引く美しさに胸が痛くなった。多種多様な感情を緻密に紡ぎ、積み上げられた傑作集。
電子書籍茜唄(下)
2023/03/17 17:50
今村版『平家物語』
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
平清盛最愛の子・知盛視点で紡がれる、戦がもたらす景色が導く未来を示した、強くて脆い『平家物語』今村版、下巻。
穏やかなシーンも多かった上巻から激動の下巻。
人気武将・源義経との「源平合戦」がメインで、入り乱れてわかり難くなる斬り合いもリズミカルで、気象を使った緻密な作戦と、心情描写が加わり一層惹き付けられた。現代から見ると原始的に見えるけど、この時代では抜きん出ていて、ある種のハイブリッド戦争だったんだろうなと偶感した。
歴史は勝者が作る――『平家物語』が遺してくれた想いを受け取れていない今の世界へ、改めて突き付けられた生命の唄。
知章と敦盛のエピソードもあって、平家オタの方は必見です!
地図と系図があると尚わかり易くて良かったので、文庫化の際は宜しくお願いします。
今村先生が描くと、ここまで離れた歴史物語も、手が届きそうな親近感を錯覚する。
電子書籍ゴリラ裁判の日
2023/03/15 00:27
ゴリラと喜怒哀楽
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
保護区のジャングルで生まれ、研究者から学んだ「手話」で人とコミュニケーションをとる、ゴリラのローズ。アメリカの動物園で起きた実際の事件から着想を得た、「人間の定義」と「命の選択」を、豊かな感受性を持つゴリラの視点から描いた至高のエンターテインメント。
手話を駆使して夫の仇を討つべく裁判に挑むゴリラを描いた、コミカルなSF作品。ナックルウォーカーという名前など、細やかなユーモアに図らずも何度も笑わされた。そんな序盤の印象から、ジャングルでの開放的なゴリラの群れでの暮らしへ移ると、文字通り景色が一変した。無邪気なローズのゴリラ本来の気質と、人間から多くを吸収した事で生じた違和感とのジレンマを、目映いばかりの美しさで表していて、青春物語のような魅力も詰まっていた。
手話をするゴリラをも凌ぐ個性的なキャラ達は、作品の舞台でもあるアメリカ的な独特なセンスが反映されていて、とてもしっくりハマって心地好かった。
物語が進むにつれて、人かゴリラかの単純な問題ではなく、各々が持つメンタリティへと踏み込んでいく奥の深さには驚きの連続。人種や銃などの問題を違和感なく組み込んでいるのも巧いと思った。
ローズが人間らしい感情を見せる度に作中でも驚かれていたけれど、果たして思い遣りなどの感情は「人間らしい」のか。動物は伝える手段が少なく、私達人間が理解出来ていないだけで、感情だけで言ったら彼らの方が豊かなのではないか、と人間の傲りを痛感させられた。
アメリカの柔軟な考えが導く先の「線引き」を考えると、もし三回目の裁判があったら、また覆るのかもしれないと漠然と考えた。沢山笑えて温かい気持ちになる作品だったけど、後味は苦いものも残りました。
人を選ばずオススメ出来る作品です!
紙の本汝、星のごとく
2023/01/26 09:54
多様性
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2023年本屋大賞ノミネート&第168回直木賞候補作。
「退屈ごと愛していた」
無垢な高校生の夏から30代までの男女の深い精神の結び付きを描いた、心揺さぶる壮大な愛の物語。
二人の秘めた強さと未成熟さが不安定な海波を連想し、すぐに島の情景が浮かび心地好いテンポで一気読み。スマホもあり設定は昨今だけど、独特な島の風潮が生み出す閉鎖感と不便さが簡単には繋がれない昭和臭を醸していて、一瞬一瞬がとても貴い時間のように感じられた。特に時間を無駄にするな等の直接的な描写はなかったものの、この作品の伝えたいものの一つであろう「貴重な時間」を、無意識に刷り込まれた。「四万円」にしたら早く終わってしまうのに、それでも繋がりたかった櫂の切実さ――凪良氏はきっと櫂と同じように身を削り書いたんだろうな、と勝手に想像し余計に苦しくなった。
SNS等で簡単に何でも共有出来ちゃう時代だけど、誰も共感してくれなくても自分達だけわかっていれば良い事もある。
ヤングケアラーや凪良氏十八番の性的マイノリティ等、表に出難い問題にも斬新な切り口でフォーカスし、更なる多様性を示していた。
星を見る度に二人の愛の形を思い出す、つまりは一生忘れないだろう作品。
スピンオフが待ち遠しい。
紙の本さよならの向う側
2021/06/22 00:46
悲しく温かい
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
死後一日だけ現世に戻れるが、会えるのは自身の死を知らない人のみ。たった一つの条件が大きな縛りとなる型破りな設定が独創的でとても良かった。似たような設定はあるけどこの条件がある事で強く個性が出て今までにない作品に感じられた。
優しさに溢れた誰にでもオススメできる感動作。