たこいさんのレビュー一覧
投稿者:たこい
2023/09/27 05:13
この装丁で読める幸せ!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
元は『魔女の宅急便』でちょうど脚光を浴びはじめた時期の近藤勝也のイラストによる絵物語的な体裁でアニメージュに連載された作品。単行本化の際にだいぶ内容を推敲してあるバージョン。
これまで、初期のハードカバー版と徳間文庫版があって、氷室冴子作品ではよくあるのだが、文庫化に合わせて出版時期のリアルタイムに合わせるべく若干の改稿が施されている。
今回はトクマの特選! として復刊。表紙は過去ハードカバー、文庫では未収録の印象的なシーンのイラストで、これまでの表紙でベストと言っていいくらいだ。
とはいえ、これをセレクトして帯に「昭和の恋愛」と書く編集さんには猛省を促したい。
当初は連載当時の1990-1991年想定、文庫版は(上記の通り)1999年ごろの物語として読める改稿が施されている。
(同様の意見があったようで、後に修正された)
ともあれ、今読むと、出てくる地名が足を踏み入れたことのあるものになっていてリアリティがまた違った。
歳による読みの違いは個人的なところだが、いろいろ感慨深い。
路線としては、コバルト時代の『なぎさボーイ』『多恵子ガール』の姉妹編兼続編として書かれた『北里マドンナ』に近い、主人公少年のやや冷めた視点と語り口の作品。単独では成立しない『北里マドンナ』からの発展形として、氷室冴子の最高傑作と個人的には思っている。
2023/04/20 05:03
ジェンダーテーマにシフトした頃の傑作
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
出版当時にも同性愛テーマを描くニュートラルなスタンスと毎回同じ語りだし「こんにちは。わたしはいちこ」で始まるリズミカルな話運びに感銘を受けたものだったが、このテーマは描かれて20年経過した今がむしろ旬かもしれない。スタイリッシュな画風、作風はまるで描かれた時代を意識させない。
あとがきによるとマンガ家をやめていた4年間で一度喪失した創作の感覚を取り戻したご本人にとっても記念すべき一作とのこと。
個人的にはやまじえびね最高傑作かも,という気もしてきた。時折不穏なこともあるけど物語の基本トーンは多幸感なのがいい。
電子書籍版がちゃんとあるのはいい。最近やまじえびねを知った方におすすめできる。
女の子がいる場所は (BEAM COMIX)
2023/04/20 04:34
ファーストやまじえびねとしてオススメ
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
サウジアラビア、モロッコ、インド、日本、そしてアフガニスタンに暮らす少女が体験するその国特有の社会背景と女性をめぐる状況。ジェンダーや性暴力をめぐるテーマを描き続けてきた作者だからこそ、この題材をこういう風に描くことができたのだと思う。
それぞれに、その国の中では恵まれた環境にいて、ニュートラルな考え方の中で生きているだけに、子どもの力ではどうにもならない状況や、その国で生きてきた女性の変えがたい過去。それでも未来を見ようとする女の子たちの姿が読者の胸をうつ。
一方で、デビュー当初から共通のテイストでありつつ、洗練の進んできた画風は、かつてはややとんがって見えたけど、今、目にしても古さは感じない。本作で知った人には過去作も読んでほしい。
いずれすべては海の中に
2023/01/18 04:22
個人的オールタイムSFリストが書きかわった!?
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
いかにも現代らしいモチーフ、アイデアの処理の仕方が巧みで、ご本人もミュージシャンとのことで、音楽の要素もあちこちに散りばめられているところに好感。一読、音楽とSFの関係性から、かつてのサイバーパンクをちょっと連想した。
自分はサイバーパンクの運動そのものには興味が持てなかったが、ギブスンの短編集『クローム襲撃』は「明るくない未来」の片隅で生きる人間を手を変え品を変え描いた点でエポックメイキングな作品集だったと思っていた。この短編集にはそれ以来の衝撃を受けた。
あと、前半の収録作からはウィンダムが描いた終末感への変奏も感じられる気がする。個々の作品のアイデアと語り口のうまさ。なかなかないことだけど、自分の中のオールタイムベストを更新する候補になるくらいの短編集。繰り返しになるかもしれないが、ロックや音楽がモチーフの作品が多いのもポイント高し。
2023/07/19 05:47
安定の門倉品質!?
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
あらゆる関係者の集うビール工場で一冊丸ごと、混戦の攻防戦! ここまでの自然描写や網走監獄の緻密さをさらに上回る精緻な描写で描かれる木樽時代のビール工場設備が熱い(違)(笑)!? みんな、どれが何の設備かわかったかな(笑)!? しかし、みんなよく酸欠にならなかったものだ。(資料になってる写真はの元ネタは『ビールの100年』という本を探してみよう!)
さておき、囚人二人、それぞれの業に憑かれた最期。乱戦状態で各人の思惑がぐちゃぐちゃに交錯するアシリパ争奪戦。
とはいえ、コミックスラストがお布団で札幌麦酒って、ああた…(笑)。
2023/07/19 05:36
タネは読んでのお楽しみ!?
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
流氷逃避行。クリオネは美味しくない(笑)。ホッキョクグマは食べる前に…(笑)。
それにしても、あの変態たちの記憶が狩の新しい手法につながるとは…(笑)。
とはいえ、不死身の主人公、ある意味パーフェクト・ソルジャーでもあり、悪鬼の如く戦う有様はベルセルクっぽくもある。
鯉登と月島の心の絆? さらに物語はタイトル通りのゴールデンラッシュへ。しかも、その物語が羆嵐サイコミステリ!? 登場人物のサイコっぷりはジョジョっぽくもあり。いや、しかしこれはやられた…。上手い!
ナイト・ワーカー (BEAM COMIX)
2023/04/20 04:46
ささやかな罪と罰?
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ビームコミックス初のやまじえびね。
いずれもフィールヤング掲載作で、このコミックスからエンターブレインに活躍の場を移したことに。
この表題作は短いページ数の中で、幼い頃の義父から受けた性暴力の傷を抱える主人公の密やかな行ないとささやかな罪を描く。
ページ数ではコミックスのメインとなる「微熱のように」は、主人公の女子大学生が文学の趣味で知り合った友人に導かれるように闇に堕ちていく姿を描く問題作。
このくらいの近作も紙の本ではもう入手できない。電子書籍はあるので、読みたい方はそちらを。
ちひろのお城 千明初美作品集
2023/02/21 07:52
ベスト・オブ・ザ・ベストだけど、続刊がほしい!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
高野文子セレクト(!)による千明初美の作品集。あとがきで明かされる千明初美と高野文子の意外な関係に驚く。
小学生の頃読んでいたりぼんで、一条ゆかり『こいきな奴ら』を別格とするなら、一番好きだったのは千明初美だったかもしれない。
少女マンガらしい華やかさ、柔らかさ、おしゃれさ、かわいらしさもありつつも、少年マンガ的でもあるシャープな絵柄、躍動感のある描線。初期には水野英子の影響が強いが、丸っこいキャラクターは石森章太郎の雰囲気もあり、それらがオリジナルに昇華されていて、今見てもスタイリッシュで古さを感じない。
テーマには恋愛色は薄く、家族や学校でのありふれた悩み事が多かったが、時代背景こそ古いものの、思春期のあれこれのテーマは普遍的で今読んでも変わらぬ味わいがある。代表作と言える「いちじくの恋」はマストとして、思春期の生きづらさにフォーカスした表題作と「バイエルの調べ」は共通するテーマ性を象徴。珍しく昭和30年の風俗を描きこんだ「お二階は診察室」を入れつつ、りぼん時代の未収録作を一編採るまさにベスト・オブ・ザ・ベストのセレクト。
これが出た後、また動きがないけど、続刊、もしくは別企画の復刻をもっとよんでみたい。
文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室
2023/02/18 16:04
小説を書く人も書かない人にも
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ル=グウィンが小説を書くための講座の運営する中から編み出された合評式の小説教室のやり方を、例文、例題を示しながら解説する好著。
結果的に分析的文学論にもなっているので小節を書かない人でも面白く読めるとおもう。
合評会をしないにしてもこの例題は物書きを目指す人の役に大いに立つだろうし、訳者の方も書かれているが、基本「英語の小説」の構造を解き明かす内容でもあるので、翻訳をしようと思っている人にも役に立つだろう。
実際、個人的に、構成のやたら入り組んだ二人称小説を訳しながら気がついたことのほとんどは既にここに書かれていた(汗)。
文学論としても面白いので物書きや翻訳を志さない人も面白く読めると思う。
奇跡なす者たち
2023/02/18 15:19
傑作選でもあり、入門書としてもばっちり
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
国書刊行会のSF叢書『未来の文学』の中で、浅倉久志先生が生前収録作品と表題作の選定、「音」と「ミトル」の初訳までされていたという企画を酒井昭伸先生が引き継いで無事刊行。
どの作品もエキゾチックな異星の生態系から人間とは異なる知的生命の文化までを視覚イメージの奔流で描く。皮肉やユーモアの効いたストーリーもすばらしい。
個人的ベストは仮面をモチーフにしたヴェネツィア風味のヴィジュアルにミステリ要素もあり、結末まで二転三転する「月の蛾」。表題作と「最後の城」はアイデア、展開的に対になる印象だが肌触りの違う作品になっているのが見事。
今読んでも古びていないのは、異文化をまさに異文化として描く作風故か。傑作選でもあるが、初心者がジャック・ヴァンスをまず読む時にもおすすめできる一冊。
2022/12/28 10:41
記憶して、語り継ごう
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ラストバトルは比較的あっさり目で収束し、その後をじっくり描く構成はシリーズ中でも珍しいが、すべてはふたりをめぐる関係が関わった人々の記憶へ、語り継がれる物語になっていくことを提示するため。寿命の異なる相手との関係性というテーマへの回答は、この歳で読むといろいろと沁みる。
今読むと、伝え聞く、長く病床にあって、この読了の後、訃報が伝えられた著者ご本人の姿がロックにもミラにも重なって見えるのも、ちょっと複雑かもしれない。
いや、逆にこのエピソードがあれば、ファンの心には超人ロックと聖悠紀先生の記憶は消えることはない。先生の長いマンガ家生活に感謝を捧げたい。
ロボットには尻尾がない 〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集
2023/01/27 09:03
尻尾がない…
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
泥酔した時だけ驚異的な発明品を作ってしまうギャロウェイ・ギャラガー。知る人ぞ知る、的だったシリーズがまとめて読める好企画。吾妻ひでおのキャラクターを連想させるタイトルが原題通りだというのはびっくりだ(笑)。
マッド・サイエンティストものかと思いきや、特許や裁判が重要な役割を果たす法廷SFでもあり、哲学や神学も含め、ロジックの飛躍を楽しむシリーズ。
と、 そんなことはさておき、酔った時のことを覚えていないギャラガーや、他のキャラクターとの噛み合わない会話がまずおかしい。ネタが科学っぽいガジェットにない分、今読んでも十分楽しめる。
ザ・ウルトラマン 上 単行本初収録&傑作選
2023/01/18 04:35
心のこりのひとつが、やっと…
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
子どもの頃、単行本にまとまらず、連載でも断片的にしか読めておらず、通しで読めないまま気になっていたマンガがいくつかあった。
そのうち『バイオレンス・ジャック』黄金都市編と桜多吾作『グレンダイザー』は大学時代に、『バビル2世』の最終エピソードは1990年代に読めたのだが、小学5年生版『ウルトラマンタロウ』だけは読めなかった。
(過去、復刊ドットコムが出した内山まもるウルトラマンガのシリーズのタロウは小学3年性版だった)
本書はその完全収録が売りのひとつ(編者にとっても編纂目的のひとつだったとのこと)。今回やっと通しで読めたのだが、なるほどこれは内山まもるのウルトラ作品の中でも復刻されてこなかったのが納得できるシビアな内容。『シン・ウルトラマン』を観た日にこれを買って読むことができて、幼い頃からの心のこりがひとつなくなった。
2024/10/06 05:24
見ないキャラだと思ったら…
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
表紙の書影が出てから、誰? と思っていたんだけど、わかってびっくり。
本書が描いてきたようなあれこれは、世代を超えた普遍的なものだと示すエピソード。
その方向から来るとは思わなかったので、ちょっとほろっとした。
しかしそうか、今20代の若者の親世代ということなら、事務仕事はブラウン管モニタのパソコンでやっていてもおかしくはないんだな…。