紙の本
この小説の舞台で、2004年のいま、オリンピックが開かれている、それって本当のことなんだろうか。ギリシアとトルコの対立、それってサッカーの話じゃあないのと思ってしまう
2004/08/23 21:58
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《女性誌サン・クレールの取材で、キプロスに出かけた平林響子。カメラマンの誘いを断りきれずに出かけた先は、ギリシアとトルコが対峙する村だった》
北上次郎が「冒険小説の時代」と謳いあげたのが1990年、その時点で誰がその重要な担い手が女性作家になることを予想しただろう。船戸与一だけを残して男性陣は殆ど撤退。ミステリに逃げ込み、世界の情勢に目を向けようともしない。そのなかで、桐野夏生や高村薫、恩田陸、高樹のぶこ、そして篠田節子たちが、静かに厳しく現実を見つめる。
タイトルからは予想も出来ないけれど、これは女性を主人公に据えた冒険小説だ。いや民族紛争を扱った政治小説と考えたほうがいい。その点は同じ篠田の数年前の作品『弥勒』における民族紛争の扱いに似ている。私たちを取り巻く世界が、いかに脆弱な基盤の上にあるのかは、つい最近のWTCへのテロや新型肺炎SARS騒ぎで改めて認識させられたけれど、篠田は女性を主人公に据えることで、それを見事に描き出している。
舞台は、民族が対立するギリシアのキプロス、といっても私を含めた日本人にとってはエーゲ海の美しい青が映えるリゾートでしかない。平林響子は十六年続く女性誌の編集に携わっているけれど、年齢もあって海外取材など思ってみたことがない。そんな響子に転がり込んだのは、政治などには全く感心のない同僚の提案するリゾート地キプロスと、それにふさわしい修道院の取材旅行だった。
慌しい旅立ち。少ない予算。三十九歳の女性の生理。不満・不安はあるが、唯一の救いは向うで落ち合うことになっているカメラマンが彼女と以前組んで仕事をしたことがあるということだけだった。しかし、ラルナカ空港で彼女を待っていたのは知り合いのピンチヒッターで、初めて組む檜山正章だった。
首都ニコシアで見かけたツアーバスのロシア人。国境近くの修道院での、修道士達の不審な動き。トルコ側で殺害された少年の事件に抗議する人々。右翼のモストラス。血の涙を流す聖母の画。仕事に理解の無い姑。光の当たる部分にしか目を向けようとしない日本人に突きつけられる厳しい現実。民族紛争に巻き込まれた無力な個人の姿。
響子の苛立ち、男の身勝手さに寄せる怒り、私たちが知ろうとすらしてこなかった民族間の憎悪。世界の真の姿を前に、人はいつまでも無神経に饒舌ではいられなくなる。一人の女性が見たそれは、深く無限に続く漆黒の闇。如何にも篠田らしい、硬質で奥深い世界だ。アフガン紛争、イラク戦争を通じて、日本人は今こそ、この小説が示すものを理解しなければならない。
ローマの歴史を中心に、イタリアという場所から私たちに、ヨーロッパを、世界を見せてくれる塩野七生といい、『上と外』で南米における民族独立の姿を見せてくれた恩田陸といい、日本の女性の視線は冷静だ。突き放すというのではない。甘えるのでもない。あるがままに見る。その眼差しこそが「21世紀が女性の手になる冒険小説の時代」であることを教えてくれる。北上さん、そう思いません?
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どんどん怖い方へ−太陽と陰謀のキプロス
2005/03/01 22:59
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
「更年期障害なの」と人に言っても冗談と受け取ってもらえない微妙なお年頃の女性誌編集者であり、同時に妻、母、嫁の役割を果たさなくてゃならないというのっぴきならない日常の主人公。「究極のハイクラスリゾート(意味不明)」の特集記事のため、成田からロンドン経由、途中で英国在の臨時雇いカメラマンと合流してキプロスへ向かう。
とはいえギリシャ系とトルコ系で南北政府に分割されているこの島で、入国した日に少年が首都の非武装地帯に入り込んで銃殺されるという事件が起き、不穏な空気。しかし彼女は日程通り取材をこなして日本に帰れることを信じて、あるいは念じて取材を続ける。たしかに政治紛争をどうこうできるわけでもなく、それ以外にどうしようもない。それでも怪し気なロシア人、秘密警察やらが登場してくれば危機感を持つわけだが、それでもどんどんと怖い方にはまっていく。これもしょうがないのか油断なのかわからないが、取材とは言えあちこちで写真撮りまくってたら、あなた自身がリスクそのものですから〜。彼女も仕事の上では冷静で切れ者なのだと思われるが、現実世界で有能であるプライド故に、異常な環境に適応することを拒むのだろうか、ってこれはちょっといい加減。
ちなみに外務省の海外安全ホームページ(http://www.anzen.mofa.go.jp/)を見ると、「現在、危険情報は出ておりませんが、」という説明とともに、少し前までは
>北キプロスへの入域に際しての注意(2003/08/11)
というお知らせが掲載されてたんだけど、今時点では消えていてます。(本書ではギリシャ系南側への入国)
きれいな写真はこちらにたくさん! キプロス政府観光局:
http://www.cyprustourism.org/
実はギリシャというよりシリアに近いんですね。いや、観光どころではないのだが。
はたして彼女の運命は、そして「クラス感のあるリゾート(意味不明)」の特集記事の運命は?
「ゴサインタン」「弥勒」に続く日本人vs第三世界もの(キプロスは2.5世界ぐらいか)で、例によってきわめてシビアな展開ながら、日本人の珍しさからか、インコを飼う少年始め地元の人達の触れ合いが印象に残る。
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タイトルからは想像ができなかった内容。すっごく面白かった〜。キプロスなんて国まったく知らなかった。いまでもきっとこういう内紛のある世界がまだまだたくさんあるんだよね。。。
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出版社に勤める女性の響子。
最初に彼女のプロフィールが細かく紹介されるが,
それが後に続く非日常的状況と激しくギャップがあるような気がして
余計強く後半を際立たせる。
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ジャーナリズム精神とか、プロの編集者、カメラマンっていうのを思い知らされた気がした。
美しい島の内戦というテーマも考えさせられた。
きれいな観光地ってのは、きっとそれだけじゃないんだよね。
このタイトルの意味が最後にわかった。
感動しました。
(2005.11)
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民族や宗教対立という現代の問題をキプロスを舞台に提示。
女性誌の旅行ガイド取材が目的である主人公に、戦争カメラマンが絡む。
対立の最前線で展開されるジャーナリズムやNGOなどの活動と国などの思惑、それぞれがリアリティをもっているのは確固とした取材のもとに書かれているからだろう。
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背表紙には、「39歳の女に訪れた、束の間の恋」なーんて書いてあるから、てっきり色恋沙汰中心だと思って読んだわ。騙された。
確かにロマンスも若干あったけど、決してメインじゃない気がした。
なんかね、あんな感じ。よく洋画のアクションや冒険もので、あれよあれよと事件に巻き込まれた男女がちょっと一線超えちゃったけど、事件解決、また二人個人の日常に戻っていくって感じ。
映画見てるときは、「ロマンスまじ関係ないだろーー!!男と女が出たら、それしか考えられんのかよ!原始人!」って思ってたけど、実際ロマンスメインで見ると、「・・・足りなくね?」ってなった。
檜山は朴訥で素直で口下手すぎて可愛いんだけどなー。ロマンス小説としてはなんか満たされない。いや、多分裏のあらすじに「束の間の恋」なんて書いてあるから、恋を期待し過ぎたんだろう。
で、「こ~いっこ~いっ!」って読んでたから、キプロスとかギリシャトルコとか地名とか完全飛ばして読んで、後でアワワ状態。失敗。
いやいや、そもそも主人公、人生と仕事に疲れた四十路だもの。ちょっと私には早いわ。あと15年後に読んだら、超同感!ってなるのかしら。
全く別話だけど、ギリシャとトルコさん、仲悪いのね、フフフ。なんて思ってたけど、現実はそんなに甘くないよね。ゴメンナサイ。
5/28/2011
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あらすじを読むに恋愛要素が強く、タイトルも平和でぼんやりした印象があり読み始めたが、全然違った…
読み終わってみると、紛争に巻き込まれていく展開と、二人の距離感が不自然なく感じられた。普段の私なら、もっとドラマティックなラストを望みそうなのに、妙にしっくりきているのはなんでだろう。
結局、私はこの作者の描く女性臭さにいつも妙に共感できるので、個人的には好きな作品。思った以上に余韻の残る満足さだ。
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いろんな分野の本が集結して、刺激的でした!人に勧められると読みたくなりますね。読書分野が広がりそうで、楽しみです。
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会社でも家庭でも本音を出すことの出来ない、雑誌出版社に勤めるキャリアOLが主人公。
そんな彼女が取材で、ギリシャ、トルコ、キプロスそしてロシア連邦と複雑な国際・民族関係がひしめく、小さな島キプロスへ。
そこで紛争に巻き込まれて…ってお話。
イマイチ話の主題がなんなのか分かんなかった。
篠田さんは2冊目。社会派のお話を書く人なんですかね。
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「6日間の極上の恋」「それぞれの人生をかけた男と女の哀切なせめぎ合い」とはよくいったものだ。まったく「冒険小説」とはいえず、集英社の本帯を書いた人の文才のなさには本当にあきれた。でも半分くだらない恋愛話を想像してたら、逆の意味で裏切られた本だった。キプロスの歴史や、風景の描写は素敵だし、なによりも作者の紛争とか平和における考えとか、すごく共感できる部分があってとてもよかった。ただ、なにがおきているか、という会話についてはすごく会話が不自然なように感じた。もう少しうまく伏線はれればいいと思う。
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地中海に浮かぶ島、キプロスは愛と美の女神、アフロディーテの生まれた島といわれ、美しい自然や文化遺産、優雅な5つ星ホテルもある「究極のハイクラス・リゾート」。夫も子どももいる女性誌の編集者とカメラマンが取材でキプロスを訪れることになります。物語の導入部では、ワーキングマザーが読むとリアルに実感できる毎日の忙しさや不条理さが綴られていて、つい身につまされたりするのですが、キプロスに着いてから物語の色がどんどん変わっていきます。
リゾートのイメージとはうらはらに、実はキプロスはギリシャ系の南キプロス、トルコ系の北キプロスと政治的に分断された複雑な状況にあり、編集者とカメラマンは、思わぬ間違いがもとで、民族間の暴動に巻き込まれてしまいます。緊迫した状況の中、ふたりの間につかの間の恋が生まれます。素晴らしい風景の背後に潜む、現代の悲劇。ラブストーリーであり、冒険小説でもあり、ワーキングマザー小説でもある、欲張りな1冊です。
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題名をながめ、一見幸せそうに見える家族が、実は問題大有りでばらばらになって行き、その象徴として飼っていたインコが逃げてしまい、その家族がどのように立ち直っていくのかという物語なのかなと、なんとなく思っていた。
が、内容は全く違い旅行誌の女性ライターが観光地になる場所の紹介の為、取材でキプロス島を訪れる。
当初は相棒のカメラマンと順調に取材を行うが、実は風光明媚の裏にある政治紛争に次第に巻き込まれていく。
紛争といっても、日本にいたらニュースにもならない子規模な小競り合いの中で、人のよさそうなと思っていた民間人が銃を取り、敵兵に銃殺されてしまい、主人公たちも軟禁されてしまうなど緊迫した場面が後半多い。
あとがきにあるが、著者は本作のために取材に行ったらしい。
いつも小生の読む「娯楽小説」っぽくない。
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民族紛争、自分には知識が足りなくて難しかった。
私も平和な日本人の一人だと実感。
誰も格好良くなく、それぞれの人生を生きていて、読んでいて切なかった。
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亜細亜の西の端のトルコと
欧州の東の端のギリシャが登場する。
イスラム教とキリスト教(ギリシア正教)。
文化が衝突している場所。
おおくくり出言えば、
アラブもトルコのギリシャもヨーロッパも、
チグリスユーフラテスとエジプトの文明の影響下だと思えば、
文明内の争いかもしれない。
ギリシア正教は、キリスト教とギリシアの土着の宗教が結びついたものかもしれない。
キプロスへの取材旅行での死亡事故。
事実は小説より奇なり。
「間の抜けていない死に方などあるものか」
という言葉を残して死んでいった写真家。
著者の後書きには、「小説の舞台となった99年のキプロスでは、この小説に出てくるような軍事衝突は起きていない」
参考文献はないのは寂しい。「民族紛争の心理学 誇りと憎悪」ヴァミクヴォルカンの一節を引用しているのみ。「長期的にはキプロスのインコは耐えがたい条件のもとに存在するキプロストルコ人の新しい民族性にとって「われわれ性」の容器となった」
だからインコが登場しているのか。ところで、作品中にイコン(icon,偶像)という言葉がでてくる。コイン(coin,銭)も出てくる。コンイがでてくればcomleteなのだが。