紙の本
「反原発」の風潮に一石を投じた勇気ある一冊
2015/03/31 22:56
3人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
脱原発の大合唱となっている世論やマスコミに真っ向から勝負を挑み、真実を訴えた貴重な一冊である。あとがきには、もともと別の出版社から出される予定であった本書が「国民的原発感情が高まる中、出版が中止」になり、最終的に新潮新書として出版されたことが記されている。マスコミの長いものに巻かれろ的な体質に染まって,真実を見ようとしなくなったわれわれも、これからはこういう勇気ある書を読み、何が正しいかを自分で考えなければならない。
本書ではまず、原子力が他のエネルギーと比べ、いかに安全であるかが示される。火力発電は、大気汚染の主原因として、日本では毎年数千人単位の死者を生んでいる。(これがマスコミでは取り上げられないのは、いつも多くの人間が死んでいる現象は人々の興味をひかないからだと著者の藤沢は論じる。これも本書におけるユニークな視点だ。)水力その他の再生可能エネルギーについても、プラント建設、操業中の死亡事故など人的被害は皆無ではない。一方、原子力は火力発電のように有害物質を排出することもなく、人為ミスによる死亡者があっても、それが生み出す膨大なエネルギー量を考慮すると、単位エネルギーあたりの人的被害は再生可能エネルギーよりもはるかに小さい。
原発事故の危険性も、非常に低いといわねばならない。まず事故による死者も、火力発電所の事故と比べ、頻度と数の面ではるかに少ない。現に福島第一原発では、原発事故の被害者としては一人の死者もなかった。最も懸念される放射能も、数々の科学的データから、マスコミで騒がれるほど重大なものでなく発癌のリスクも無視できるほど小さいと結論できる。(このへんのことは、参考文献にもあるウェード・アリソンの『放射能と理性』に詳しい。)核廃棄物処理の問題も、自然においても高濃度の放射性廃棄物が存在する例があり、特別心配をする必要もない。これらにもとづいて藤沢は、福島の事故を理由に日本が脱原発を選択するのは、最も安全なエネルギーを捨てより危険なエネルギーを選択することであり、とりわけ火力発電による大気汚染と地球温暖化は深刻になると訴える。
本書ではまた、福島後注目されるようになった自然エネルギーが、日本で過去にさんざん研究が重ねられ、効率の悪さが証明されたエネルギーとして切り捨てられる。それはどんなにがんばっても、総エネルギーの1%にすぎないだけでなく、膨大な面積の土地を必要とする不経済なエネルギーである。さらに、この開発に出される政府の補助金制度にたかる企業が出てくることも予想される。
日本人はとかく原子力というとアレルギー反応を起こしやすい。だが、藤沢も指摘するように、「潜水艦や艦船など、世界では過酷な環境で原子力技術が使われているのに、日本では地震があるから原子力発電所を建設できない、と現時点で決めつけてしまうのは、技術立国日本として」賢明な態度ではない。また、原子力は世界的な動きであるという。「その際に、高度な原子力技術を有し、事故の教訓も得た日本は、世界の原子力政策に貢献すべき」である。
本書ではまた、露骨に国民の恐怖心をあおり、自分たちの主張が理性的で正しいもののように喧伝をする反原発派のさまざまな悪行が暴露されているが、中でもおどろいたのは、ダライ=ラマが、2011年11月の来日の際、原発推進に賛成し、自然エネルギーに懐疑的な発言をしたという事実であった。私もふくめ、多くの国民はこのことを知らないだろう。なるほど彼の発言は、反原発に入れこむマスコミによって「不都合な真実」とみなされ、伏せられたわけである。
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反原発主張者が挑戦するべき本
2012/04/11 21:57
8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の計算によると,原発のかわりに化石燃料をつかうと大気汚染などで年に 3000 人くらいよけいに死亡するが,原発を運転してもそれほど死者はでないという. その真偽はともかくとして,原発か反原発かをきめるときにこういう冷静な思考をすることは必要だろう. 反原発を主張するなら,この本の挑戦をうけるべきだろう.
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放射線のリスクや原子力発電の他のエネルギーとの比較、エネルギーに関連した未来について書かれた本。
ブログはこちら。
http://blog.livedoor.jp/oda1979/archives/4198167.html
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(2012/2/17読了)@kazu_fujisawa氏 https://twitter.com/#!/kazu_fujisawaによる、反「反原発」本。原発の是非は臓器移植並に難しい問題だと思うが、現状で最大の代替電力源である火力なら「良い」のか、という点について反原発派の専門家の論理的な反論を聞いてみたい(感情論は×)。反原発派は「将来的には自然エネルギーで代替可能なんだ!」という根拠の無い自信を持っていそうなのだが、再生可能エネルギーが現代文明の膨大な電力需要に対して如何に非力かという本書の指摘は「不都合な真実」だろう。火力の問題点(大気汚染、輸入コストの高さなど)も了解した上で、でもやっぱり原発は全廃すべしというのが世論ならそれはそれで国民の選択。でも原発だけが「絶対悪」で他のものなら良い、というのは乱暴な原理主義だなあと思うのだった。
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著者であり、人気ブログ「金融日記」の管理人の藤沢数希氏は理論物理学の博士号を取得しているというのは、著者のプロフィール欄で初めて知った。
本書では、原発以外のエネルギーでの発電の方が、実は死者が多く出る、低線量被ばくの危険性というのは、科学的にはほとんど根拠のないものであるなどの反原発派にとっては不都合な真実を膨大なデータをもとに証明して行く。一つ一つの主張を数々のデータや研究論文にもとづき、丁寧かつ非常にわかりやすく解説する。
また、後半の原子力発電の仕組みに関する解説も非常にわかりやすかった。
特に印象に残ったのは、原発が原爆にならないということの例えとして、ろうそくをどんなに集めてもダイナマイトにならないといったのは非常にわかりやすく、しっくりきた。
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定量的な議論がされていて勉強になる。また、データの出典も明記されてるので、疑問に思った人は自分で調べることが出来るだろう。是非いろんな人に読んで欲しい。
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投資銀行サラリーマンの著者が,利害関係のない立場から,反原発の不合理を説く。理論物理をやってたそうで,数字も分かりやすく扱ってて好感がもてる。ちょっと推進に寄り過ぎのきらいもあるが破綻はない。
著者はブログ「金融日記」で震災直後から原発についての記事を精力的に書いていて,それの集大成といった感じ。論点は一通り押えてある。原発は火力と比べても単位電力量を発電するのにかかる人命の犠牲も少なく,許容できる程度で,報道がセンセーショナルに取り上げるのは疑問。
著者の観察によると,年間死者数が数十人以下の死因はセンセーショナルに報道され,数百人程度は社会問題に,数千人数万人になると珍しくなくなって誰も話題にしないという(p.46)。報道にはそういうバイアスがあることを意識して,客観的にリスク評価しないとね。
主張がとても明快で読みやすい。うまい比喩も使ってる。「日本中の原発が再稼働できないという状況は、ローンで買った自宅を空き家にして、賃貸マンションに家賃を丸々払って住んでいるようなもの」(p.119)だって。減らすにしても段階的でないと。
廃棄物処理については結構おおざっぱだった。海洋投棄をオススメしている。「ガラス固化体にして、頑丈な容器に入れ、海溝に沈めれば、やがてプレートといっしょに地球内部に巻き込まれていきます。」(p.167)というが,ちょっとあっさり言い過ぎでは。
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このご時世に原発を廃棄する事による弊害をデータで示し、冷静にその必要性を論じている勇気のある本です。賛成反対の議論ではなく、物事に優先順位をつける過程で、我々は何を正義とするのかだと思います。しかし、それを代表して議論すべき政治の体たらく。結局最終的にはここが諸悪の根源なのかと思いました。
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藤沢数希( @kazu_fujisawa )著。
いやー執筆、大変だっただろうなーと思える本。
それだけ、原発、環境問題、エネルギー問題、原子力についてうまくまとめられてる。この本だけで、上記の問題は知識としては充分なのでは。
ありがとうございます。
国や地方自治体がこの本配布すればいいのに。出来ないんだろうな。色んな意味で。
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原発の問題に対する至極まっとうな本。
ただし、以下の点は考慮すべき。
1.自分に有利な情報のみを挙げている(理由もなくICRPを絶対とし、CERRは外している・死亡数のみあげて、病気になった数をあげない)
2.語句の使い方に間違いがある(0.05%上がるとなると、1.0005をスカラー倍することになる。正しくはパーセントポイント)。
間違えてほしくないのは、私は藤沢氏の意見に賛成であること。
前述の意見はおそらく原発即停止派が言ってきそうな反論として挙げているつもり。
あと、内容は申し分ないが文章の書き方が中途半端に緩いので、軽くいらっとする。これから読む方はその点を頭に入れて置いていただけるとよいと思う。
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タイトルが怪しげだが良書。
反原発とか言う人々は全く論理的でない、と感じる人にはぜひすすめる。
火力、原子力、自然エネルギーのリスクを丁寧に比較し、原子力エネルギーが圧倒的に低リスクであることを示す。
現実的に原子力発電を維持することが人類にとって最善の選択肢であることが導かれる。
リスク分析の手法。論理構成。何を比較すればよいか。
非常に見事である。
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1年前の2011年3月11日より以前からエネルギー問題に多少なりとも興味があれば,筆者が述べていることは自明のことであり,目新しさはない。しかし,なにが最も人を死に追いやるのかが明確に再確認ができる。
反原発という甘い匂いに酔っている人たちにこそ読んで欲しいのだが,残念ながらこの本の内容が必要な人間には届かず,すでに理解している人にデーターを提供するのみとなってしまうだろう。それは安直なタイトル付けにある。
新潮社がこの新書を発刊したことは評価するが,この1年は明らかに反原発商法に乗っかってきた版元であり,タイトルも社内政治の結果かとも思わせる。
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脳研究者・池谷裕二推薦!
「本書を私がとりあげるにあたり読書委員会議2回にわたって慎重に議論されました。原発について自由に発言しにくい雰囲気になってしまった、これまでの日本の経緯を残念に思っています。それぞれに言い分はあるでしょう。感情的になることもあるでしょう。ただ、どんなに確信があっても、結局は「不完全な脳」を使って得た思考や感情です。100%正しい保証はありません。発言や結論を常に保留付きにするのがマナーだと思っています」(Twitter3/12より)
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3.11から一年が経ち、やっと当時の混沌から色々な示唆が得られ
その中で、震災起因で本腰の入った感のあるエネルギー論。
様々な著書が有象無象で出版されたが、
そのほとんどは乏しい考察に終わってしまうか、
エネルギー論の専門家過ぎて一般に理解出来ない内容であるか。
そのどちらかに寄っていたように思う。
この本は、そこから少し踏み出した本。
だから、シンパもアンチも過剰な反応をしている。
この本を「原発推進」として読むのはナンセンス。
あくまで、原発に対する数値的見解を展開するのが目的。
かつ、この人がシニカルであるため必要以上に事実にバイアスをかける
(きっと意図的)ことも分かった上で読んで欲しい。
値段的にも一回は読んでみていいかもしれません。
***
結局、サンプル如何でデータの見え方なんてガラっと変わるわけで
そこがエネルギー問題を両極端な議論にしてるんだなと
この本、あるいは立場が逆な本を読んでも思います。
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福島第一の事故=原発は悪
ではなく、立地や予備電源の設備、運用が、お粗末だったということらしい。
また、自然エネルギーは経済大国が余裕でやることは可能だが、今後のエネルギーの需要を満たすものではないという。
核融合は、水爆として軍事用には実用化されているが、あれは原爆を起爆剤にして核融合を発生させるもので、発電への応用の実用化は、まだまだだが必要な技術だとのこと。