紙の本
時の流れがゆったり、幸せを求める市井の人々の願いがある。
2015/01/12 21:21
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代は、江戸が黒船来航によって大きく変わる。
その時代に生きながら、家族とは、女の幸せとは、人々はそれぞれの願いをかなえるために懸命に生きる。
父の櫛挽きをただただ会得したい、それ以外は見えない姉の登瀬。母からも理解されず、村人からも疎外され、悩みながら父だけを追う姿は怖い程。しかし、亡くなった弟直助が残した草紙が小説全体に救いを感じる。
婿に入った実幸は、才に恵まれ、商才もあり、いつかだまされるのではないかと怖い感じが漂って、小説を魅力的にしている。
ただの良い話ではなく、時代の流れ、女の幸せ、家族の怖さ、職人の妬み、村の排他さなど上手くちりばめられ、一気読みでした。
紙の本
題材はいいけれど、登場人物や雰囲気が暗い。
2015/08/31 09:32
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投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
木曽の集落で「お六櫛」と呼ばれる櫛(飾り櫛じゃなくて地肌の垢を落としたりする用途に使う櫛)をつくる職人の話。
女は櫛を最終的に磨くところしかやらないものなのに、主人公は櫛づくりに魅せられていて、父親もそれを見抜いて技を仕込む…と、題材的には興味深い話なのだが、いかんせん登場人物の負の感情が強すぎてしんどい作品だった。主人公とその父親は、櫛に邁進する、いわば天才肌の職人だからそのことばかり考えていて、性格は素直というか、きれい。ところが周りの人間が、妹にしろ母親にしろ村人にしろ、もう、厭になるくらい自分以外の人間に向けるネガティブ感情が強くて…読んでいて辟易する。それが、大きなマイナス点だった。
主人公の婿として結婚した相手も櫛づくりに長けた男で、櫛づくりを競い合うパートナーのような形に収まるというのは、男と女の描き方としても職人の描き方としてもいいと思った。
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江戸時代後期、一徹に櫛挽の技を守る父子。
家族それぞれに個性がハッキリしていて、時に苦しくなるほどそれぞれに想いを抱いている。 その切なさ、やるせなさ、苦しさが迫ってくる。
一途に守ろうとするがあまり苦しみ、時に周囲も苦しめてしまう。それに気付かずに過ごし、あるきっかけで気づき愕然とする。 そんな人間臭さが良かった。
読み易く、胸にしっかり残る時代小説。
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櫛挽き職人の父、互助の仕事に強い憧れを持ち、父の跡を継ぐ夢を抱き続ける娘、登瀬。女の生きる道は、嫁ぎ子を産み夫に従い家を守ることと信じ、それにすべてを賭ける母、松枝。そんな生き方に反抗する妹、喜和。そして早世した弟、直助。
幕末という時代の流れをとらえながら、家族の苦難と幸せ、生きる道を描いた作品。
兄弟の死が家族の在り方に大きく影響し、そのことがまた家族を再生させるという点で、つい先日読んだ山田詠美の『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』に似ているかもしれない。
何か大事件が起こるでも激動の展開が待っているでもなく、十年以上の年月が淡々と流れていく。仕事、家族、女として、一人の人間としての幸せ、夢。迷いとまどいながらもひたむきに生きる登瀬の姿に無性にひきつけられ、一気に読んだ。
年月を重ねることで、身体的成長だけでなく、内面も確実に変わっていく。時を経て、失われるものもあるが、得られるものも確かにある。
凍り付いていたものが、様々な苦難を乗り越えた後にふっとゆるむ、そんな登瀬や家族の姿がとても素敵だった。
木内作品はいくつか読んだが、本作がダントツかも。ここ一年くらいの間に読んだ小説の中でも一番かもしれない。
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ひたすら櫛挽きの技を究めたい思いが心を占め、他のことには不器用な主人公が歯痒く、寡黙な主人公の父、世間体に囚われた母、心のすれ違った一つ違いの妹との、家族のやりとりに鬱々とし、得体の知れない弟子の言動に不安を感じ、心穏やかならぬ読書だった。閉じた人間関係のやるせなさに比べて、櫛挽き仕事のリズム感は美しい。
時代が動いてゆくのに合わせるように、人間関係が動いていく。意に沿わぬ縁の中に、思いがけない幸せの予兆がみえて、穏やかな読後感。
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久々に心満ち足りた感じが
とても心地よい小説を読みました。
主人公・登瀬の心の内、揺れ動き、
まさにその時代に生きる
人々の息遣いといったものまで
読み手に伝わる、素晴らしい筆致。
自分の居場所、女であること、仕事、
幸せの形、家族、出会い、縁、
生きること、伝えること、
そんな諸々がつまった、
大切にしたい物語です。
吾助の言葉が心にしみます。
「われやん夫婦の拍子はとてもええ。
銘々の拍子だで、揃ってはないだども、
ふたつ合わさるとなんともきれいだ。
こんねにきれいな拍子を
おらは聞いだことがないだでな。」
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眈々と板の間に鋸を挽く音が聞こえてくるようだ。
時代の中で、職人の仕事と家族、女、幸せ…主人公の登瀬と考えながら読み進む。
静かな中に光るものがある心に残る1冊だった。
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『お六櫛』という梳櫛を挽く家に長女として生まれ、
神業と呼ばれる技を持つ父の背中を追いかけ櫛師となる登瀬の物語。
何かを一徹に心定めたものは、
歩き始めた道が進むべき所を教えてくれるのではないでしょうか。
どんなに横槍がはいっても、多数の世間の目が行く手を塞いでも
女性であることが足をひっぱり引きずり降ろされそうになっても
登瀬は足を踏ん張って、自分の心に聞き、考え、また歩き始めます。
どうにもわからず立ち止まりそうになるとき、目に入るのは
神業と称えられる技を持ちながらも高みを見据える父、吾助。
遠くから幾度となく目を覚まさせてくれる弟、直助。
そして父の櫛を挽く音が響く神聖な仕事場『板ノ間』。
師である父と登瀬の会話が心に響きます。
訥々とした中に、登瀬の核を形作るものが
伝えていきたい大切なことが沢山詰められてます。
幕末の木曽の山間の物語ですが、
ふにゃふにゃに流されながら生きている現在の私が
心に刻まないといけないこと、沢山あります。
実直で世間知らずな登瀬が、色々な人の言葉で
1つ1つ今までとは違う解釈で
見通すことができるようになるところがたまらなく好きです。
数年後に再読したい本となりました。
まだ手作業で櫛を挽いている職人の方っておられるんですね。
櫛挽の音や拍子を近くで感じてみたくなる一冊です。
木内昇さん、『漂砂のうたう』も読みましたが
女性の話ということで、こちらの方が私には感情移入ができました。
凛とした心棒を持つ名もなき女性の描き方が素敵ですね。
他も読んでみたいと思います。
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幕末、櫛挽き職人として生きる女性、登勢の物語。登勢を中心に描いてはいるが、家族、夫、登勢の想い人、皆がそれぞれに強い信念を持って一本の道をまっすぐに歩いている気がした。女として生きる母と妹、職人として生きる父と登勢夫婦。自分はこんな風に強い気持ちで生きているかと問われているような、読後に背筋がピンとなる作品だった。
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幕末の宿場町・木曽藪原宿が舞台。
登瀬は櫛職人の父が作る(お六櫛)に魅せられ
自身も櫛職人を志す。
女性が手に職を持つことの難しい時代。
時代背景も織り交ぜ、家族模様、職人としての生き方などが描かれている。
木内さんは「心理を甘く書き過ぎないように気をつけた」と。
櫛を挽く様など、伝統工芸を引き継ぐ為の
強さ、しなやかさなども描かれている。
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木内昇が紡ぎ出す人情噺が、随分と現実味を帯びて聞こえるのは、背景に流れる歴史を意識してしまうからという面も確かにあるとも思うけれど、先ずは人物の描かれ方の巧みさによるものが大きいのだろう。感情移入している訳ではないのだけれど、何時の間にか登場人物の抱える押し殺したような思いに同じように歯がゆさを覚えながら読んでいる。確かにそのような人物がその時そこにいたのであろうな、と思いながら読んでしまっている。もちろん、登場人物に重ね合わせて見ているものが、現代人である自分達の価値観の投影を免れているのかと問うならば、答えは否であるのだろうけれども。
自分自身、木内昇が描くものを歴史小説として読んでいる意識はないのだけれど、この作家が描く対象を先の見えない現在(混沌としていない現在なんていつの時代にも存在したためしはないと思いつつも)の中に求めて、同じような人情噺を展開しても面白くは読めないだろうな、とは思う。つまり、木内昇の描いているものが、時代の要求する価値観と、それにすり潰されてしまいそうになる個人の対比のような構図があってこそのものであり、読むものがその枠に嵌って筋をなぞって行くところに醍醐味があるからなのだと思うのだ。落語の人情噺を聞く時に、何が許されていて何が許されていないのかを飲み込みながら、分かっていた筈のお涙頂戴にやっぱり涙するのと、実は似た構図が木内昇の描く噺にもあるように思うのである。
しかし木内昇の小説が人情噺に終わらないのは、決まり切った約束事なんてものは実はふわふわとしたものであることを見せてくれるからだとも思う。例えば、連作短篇であった「茗荷谷の猫」では一つのエピソードが狂言回しのように時代の移り変わりの中で登場し、その意味が時と共に変わってしまいそうになるのを読む。実際には、人情話の根本的な意味は変わりはしないのだけれど、時代の要請する価値観という文脈に人がどれだけ縛り付けられているものなのかを、ぐっと思い知らされるところが小気味好い。それが中山道のとある宿場町の櫛職人の技の話であろうと、江戸の植木職人の新種の桜の話であろうと、はたまた戦後の喜劇役者の苦労話であろうと、底流にある何かしら訴えかけてくるようなものの根源は同じであると思うのである。個人は常に歴史を背景にして存在しているのであって、逆ではない。しかし歴史を題材にするとき多くの個人はともすると背景として処理されてしまう。そんな逆転を質しているのが木内昇の小説であるように思う。
結局のところ、歴史を描くということは、現代の要請する価値観との違いを明らかにするということなのかも知れない。そしてそれが如何に移ろい易いものなのかということを歴史が証明しているということを。そんなことを考えていると、歴史の中の善悪を現代の価値観で判断してはならない、などということもつらつらと考えてしまう。もちろん、そんなことは木内昇の小説の面白さとは関係のないことかも知れないけれど。雲の上でハンナ・アーレントを描いた映画を見たからという訳ではないが、歴史の中で固有名詞が一般化されてしまうことに対して、この作家は何か特別な思いを抱いているような気がしてならない。
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ただひたすらに、ただひたむきに。
幕末、木曽山中。父の背を追い、少女は職人を目指す。
家族とはなにか。女の幸せはどこにあるのか。
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木内さんの、また違った一面が見れたような印象。でもやっぱり好きだー
馴染みのない方言だから最初は苦労したけど、だんだんそれが何とも言えない味でなくてはならぬものに感じた。
ネットでお六櫛の画像を見たらあまりに繊細なつくりで驚いた。この家の板ノ間の静謐さがそのまま形になったような、なんてよくわからんけどもとにかくきれい。ここまですべてを賭けて打ち込むものがあるっていいな。
家族の関係の難しさ、近すぎて憎いような気持ちが痛い程伝わってくる。登勢や吾助はもちろんだけど、喜和や松枝や、得体の知れない実幸も、いいなあ。
読んでてたまに、淡々としすぎて不安になるかと思えば、次のページでいきなりグワッと泣かされたりする。
装丁も相変わらず素敵。字体が好き。
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高評価だ。うーん……どうも他人様と違う感覚らしい自分、やばいんじゃこれ?(たいして気にしてないけど実は)
これまでの木内作品とは違う味わい。現状を打破し、挑戦し、切り拓いていく姿勢は大切だと思うので、それ自体は素晴らしい。
ただ、私的に、主人公の登勢には少々嫌悪というかをウザさを感じてしまった。読んでいて後味の悪いところが多々あった。
おそらくだが、感情やら何やらが、これまでの登場人物と比べてとても直接的で、職人気質と言えば聞こえはいいが、頑固で融通が利かず、ひたすら父親を崇める女性という点が共鳴できなかったのだろう。
私にとって、父親は反面教師だから(超個人的理由:笑)
どことなく陰影を含んだ人物像が描かれているのが好きだったので、作品にそういったキャラクターは合わないと理解しつつも、読了後、何となく満たされない感があった。
とは言え、陰影のある登場人物ばっかり書いているわけにもいかんのだろうけど。
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中山道薮原宿の櫛挽職人の物語。抗いようのない時代の波を淡々と受けとめる父娘の、櫛職人としての矜持。都から離れた山あいの小さな宿場町という閉じた世界に暮らす母娘の確執。そういうものが櫛挽きの拍子をとるようにしみじみと描き出されていました。時代は幕末、舞台が木曽路の山あいの宿場町ということで、島崎藤村の『夜明け前』を思わせる味わいがあって、すーんと心に沁みるあたたかい物語。方言が温かい味わいを醸し出していて、ずっとこの世界にひたって登瀬の櫛挽きの拍子を聴いていたいなぁと思った。
主人公が馬籠宿の本陣兼庄屋の主人だった「夜明け前」が、〝幕府の瓦解〟によって家族が壊れていく物語だったのに対し、「櫛挽道守」は、薮原宿の庄屋にこき使われる職人である主人公が〝維新〟によって職人の価値を認められ、家族が救われていく物語だったのが印象的だった。