GORIさんのレビュー一覧
投稿者:GORI

蜜蜂と遠雷
2016/12/18 15:04
今年一番の小説!
20人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
恩田陸さんの小説しばらく出ていないなあと思っていた時の新刊。
5年の歳月をかけて書き綴ったと何かで読んで、少し心配していた。
しかし、本作は5年間恩田さんが一曲一曲、
一人一人の演奏を表現するために書き綴ってきた集大成。
ピアノコンクールで優勝を目指すコンテスタント達。
無名の謎の蜜蜂王子、突然舞台から去った元天才少女、楽器店店員28歳の高島明石、そして元天才少女の幼なじみのマーくん。
みんな素敵で、みんなを応援したくなる。
最初、表紙を捲ると推薦状と書かれている。
ユウジ・フォン=ホフマンって誰?
読んでも意味が分からないので、さらに分かりづらい目次が続き、いよいよエントリーを読む。
ここで初めて推薦状とユウジ・フォン=ホフマンが重要な意味を持つ事を知る。
一次予選、二次予選、三次予選そして本戦。
それぞれの予選の演奏、結果にハラハラドキドキしながら読むのが楽しい。
そして一曲一曲を描く恩田さんの表現に体が宙に浮かんだり天に昇ったり幸福な気持ちにさせられる。
4人のコンテスタント達がそれぞれの演奏に進化され、
そして同時に共演している。
この本から世界中に音楽が溢れ出して来るようです。
長編だが読むのを止められず、いつまでも読んでいたい一冊。
私の今年のベスト。

お探し物は図書室まで
2021/02/23 09:09
世の中は繋がりで出来ている
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本に出会ったのは何がきっかけだったかなぁ?
図書館に予約をして届いた本を机に山積みしていて、次に何を読もうかなあと考えていた時に毎日新聞に一面広告が載って読み始めた。
本に出会うのにも、いろいろな人たちが繋がっている。
本を作るまでにもたくさんの人が繋がっている。
本の表紙の猫、蟹、飛行機、地球の羊毛フェルトの作家さん(フェルトたちは本の中にも登場します)。写真家さん、きっとこの本が読んで欲しくてPOPを書いてる書店員さん。
生きていれば、辛い事もあるし、何のために仕事をしてるのか嫌になってしまう時もある、自分はダメだなあと落ち込む時もある、退職して何をやったらいいのか分からない人もいる。
自分を中心に考えると、ついつい周りや人のせいにしてしまい何も始まらない。
でも視点を変えて、出来ないと考えている事を目標にしたり、自分でできそうな事からひとつひとつ積み重ねる事で、今とは全く違うものが見えたりする。
たくさんの人に読んで欲しいと思いながらレビューを書いています。

女のいない男たち
2016/11/18 12:11
村上ワールド短編集
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
女を失った男達の短編集。
村上春樹が書くと短いページにも村上ワールドがしっかりありました。
村上春樹さんの好きな長編小説を読んでいるように感じられる短編小説で、ちょっと儲かった気分です。
「ドライブ・マイ・カー」良いです。
唯一の友人と呼べる高槻との関係が不穏なものを感じさせる。
妻に先立たれ、妻の謎を解きたいと考えるが、男と女の違いに、フッと男の寂しさと愚かさが感じられる。
北海道の町の議員さんがクレームをつけた小説だったんですね。
クレーム自体が、消えてしまう程の村上さんの対応にあっぱれでした。
「イエスタディ」
村上春樹さんの作品には珍しく、希望を持てるラスト。
「木野」は海辺のカフカを思い出しました。
主人公が怪しい不吉なものに追いつめられるシーンが良かった。
「シェエラザード」
主人公は地方都市にある「ハウス」に送られ、「連絡係」の女が定期的に必要な食料などを運んでくれ、彼とベットを共にし、興味深い不思議な話をする。
女達と親密な時間を過ごすにつれ、いつかその時間を失うことに恐れを感じる男の弱さがなんとも怪しく描かれている。
シェエラザードの最後の話の続きが聞きたい。
村上さんぜひとも長編で書いてください。お願いします。

羊と鋼の森
2016/02/23 22:24
森の中で光が水玉のように輝く小説
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
僕は森の中を彷徨うように歩む。
森の中は瑞々し光のツブと気持ちよい空気にあふれている。
僕には見えない道だけど、自分を信じて前に進む事しか出来ない。
主人公の青年は、高校時代にピアノの調律師に出会い、これが自分の世界だと衝撃を受ける。
2年間調律師の学校で学んだが、自分に自信も持てず、才能も感じられず、どこを目指して良いのかも分からず森の中を彷徨う。
その一途な歩み方が、読む者に気持ちよさを感じさせ、周りの人たちにも若かりし頃の自分を重ね合わせ、大切な言葉を投げかける。
こんなにも気持ちよく感じられる時間を与えてくれた本書に感謝。
直木賞候補と知って図書館に予約して読ませて頂きました。
良かった。
2016/07/21 21:42
直木賞受賞おめでとうございます。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
表題作の「海の見える理髪店」が抜群に良かった。
祖父の代から続いている理髪店。
鏡に映った青空と海の二つのブルー・・・素敵だろうなあ。
有名な俳優も髪を切りに来るほどの予約制のお店に・・若い男性客。
髪型の注文から始まり髪にスプレーをかけられ蒸しタオルで毛穴がウズウズ広がる。
櫛をぐいっと入れられ、いよいよカット〜はさみを替えてカット〜洗髪〜ひげ剃り〜マッサージと気持よい時間が過ぎる。
その間理髪店の店主の人生が自然に語られる。
店主の子供時代から父親の突然の死、結婚、上手くいっていた時代の話など 自分が海の見える理髪店の椅子に座って聞かされている気持ちになった。
ラスト、若い男性客が来た理由が明かされ、なるほどと唸った。お見事!
どれも良い作品だけど「成人式」が読んでいておかしくて笑わされ、とっても明るい気持ちになった。
悲しくて悲しくて・・ずっと二人で笑い合った事などなかったはずなのに、二人で挑んだ「成人式」が二人の新たな旅立ちを祝福してくれた。
直木賞にふさわしい作品です。
これからの作品も楽しみにしています。

コンビニ人間
2016/09/02 05:32
最強コンビニ店員
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
コンビニが作られて私達の生活は一変した。
最初はこんなに影響があるとは思っていなかったが、今はコンビニが無ければ生活が成り立たない。
本作は周りの人と違ってどう生きていいのか分からなかった主人公が、コンビニの「店員」という役を与えられ生き生きと18年間過ごしていた。
しかし、コンビニのアルバイトで独身という社会の肩書きでは、いろいろ言い訳が面倒で生きづらい。
そこで安易に結婚の型を選んで丸く収まる事を期待したが・・・。
この辺りから物語は奇妙で面白く展開し、生きる力を失った主人公がコンビニで生き返る姿が最高潮に盛り上がる。
現代の生きづらい社会の中で、それぞれの「役」を学校や会社、家庭などから与えられ、その「役」を演じる事で社会の中で普通だと安心している人たちが多いのでしょう。
そんな社会をテンポ良く、おかしく描ききり、白羽さんという誰もが目を背けたくなるような毒をスパイスに効かせた作品は芥川賞にふさわしい出来です。
芥川賞受賞の作品でこんなに面白く読めた作品は初めて。

おいしいごはんが食べられますように
2022/08/18 16:23
おもしろい
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
芥川賞受賞作で読んで面白かったと思った作品は初めてかもしれない。
会社のアラサーくらいの同僚3人が中心。
からだが弱く早退しがちで仕事のミスもパスしてしまう芦川さん。
4月に転勤で赴任した二谷くん。
なんでも出来るので無理をしてでも頑張ってしまう押尾さん。
パートの原田さん、役職者の藤さんもいい存在。
仕事は辛いけど、おいしいものを食べて元気になって、また明日も頑張れる的な小説かと、思っていたらとんでもない。
とにかく不穏なのだ。
ずっと不穏のまま。
怖いけど、気分悪くなるけど、でも面白いから読み進めたくなる。
仕事で疲れることが多くて、なんかいいことないかなあと思っているあなた。
この本がぴったり。
怖いもの見たさで、ちょっとスリルを楽しんで、気がついたら少し元気になっている。

同志少女よ、敵を撃て
2022/03/13 11:00
今こそ読むべき一冊
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
表紙の絵と題名に騙されてはいけない。
壮大な歴史と人のドラマを骨太に描いた長編小説。
第二次世界大戦のソ連とドイツの戦いを舞台に、女性だけの狙撃手達を主人公にした戦争小説。
読者は主人公達と一緒に、常に何のために戦うのか?何のために殺すのか?を考えさせられる。
戦争でも仕事でも、ある意味国が会社が、適当に納得できるような意味を用意して、人びとに考えなくても前に進めるように啓蒙する。
狙撃手セラフィマが命の意味に気づいたラストが、戦争という取り返しのつかない愚行が、止められなかった人びとにも一生背負わなければならない傷を与えた。

塞王の楯
2022/01/23 12:08
最後の戦乱
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
石垣作りの飛田屋と鉄砲作りの国友衆の戦いで戦乱の人びとを描いた時代小説。
直木賞受賞作。
飛田屋は難攻不落の石垣で戦のない世を目指す。
また国友衆も誰も戦いを挑まないほどの鉄砲を作って戦のない世を目指している。
戦乱の時代は武士が中心だと思っていたが、本作では武器や城を作る人たちに光をあてて、さらに民の存在にも意味を見出している。
大津城を守る飛田屋匡介と恐ろしい破壊力を持った大筒を作った国友彦九郎の戦いは読み応え十分。
550ページの長編だが一気読みの面白さ。

黒牢城 Arioka Citadel case
2021/09/11 11:50
米澤穂信が描く戦国ミステリー
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大変面白く読ませていただきました。
戦国ミステリーという新しいジャンルだけど、読み応え十分な物語に謎解きが混ざって、複雑な展開が楽しめる。
勝っては人を殺し尽くす信長に反旗を翻した村重。
村重は殺さないが、殺さないことで牢獄の官兵衛に恨まれる。何が悪で、何が、人々を幸せにするのか分からないと問われているようだ。また「弱いものが悪いのだと物事を簡単に片付けて心を楽にしようとする」は自己責任を問われる今の政治批判にも聞こえる。
村重対官兵衛の心理戦が楽しめる。

風よあらしよ
2021/01/20 10:27
熱く胸に迫る圧倒的な生き様
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
こんなに熱い思いで読み続けられるとは思わなかった。
本の厚さにも、怯みながら最初のページを開いたが、その瞬間からずっと、この本の事だけを考えていた。
それほど伊藤ノエと大杉栄の物語に目が離せない。
人と意見を戦わせる(対立の意味ではない)ためには、自ら学んで考えて言葉を生み出さなければならない。
ノエが甘粕へ放った言葉が今の時代への警鐘にも聞こえる。今 私たちのまわりには「どうしたら自分たちの地位が脅かされずに済むか、どうしたら今より出世して弱い者から搾取できるか」という考え方で行動している人達がなんと多いことか。
熱く幸せな恋愛小説として楽しみながら、また自ら考えて、自分の生き方を考えさせられた一冊だった。

64
2012/12/24 11:12
待ちに待った横山秀夫の新刊
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
長編だが最後まで一気に読める。
警察組織の中で広報官、新聞記者そして刑事達が過去の誘拐事件の亡霊に踊らされるように活躍する。
それは一人一人の価値観であり、仕事に生きる人間であり、そして警察官の姿。
ラストにかけてロクヨンが動き出す展開が素晴らしく。
広報官三上の疑心暗鬼になりながらも懸命に生きる姿に感動できる。

帰れない山
2022/05/05 20:11
ずっと読み続けるだろう一冊
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
なんと心地よい読書。
自分の人生を振り返るように読んでいた。
きっとこの後も読み返す一冊になるだろう。
父に連れられ山を歩く街の少年と山で暮らす少年が出会う。
その日々が二人を作っていた。
その時には気づかなかったが、父を亡くし自分が生まれた時の父の年齢を超えて、二人が再び出会い山を歩き、山で暮らし、父の思いに気づいていく二人。
こんな風に父を思って、父親から教えられた山登りを重ね、二人は自分たちの人生を歩んでいく。
子供へ教えられることなんて無いかも、でも子供が感じて身につけるものが間違いなくある。
なんて心地よく、温かい物語だろう。

52ヘルツのクジラたち
2021/08/22 16:04
だれかに届くんだ 52ヘルスの声
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
凪良ゆうの小説を抑えて本屋大賞を受賞した本作を読むのを楽しみにしていた。
何度泣きそうになっただろうか。
なんど二人を抱きしめて大丈夫だと 背中をさすっただろうか。
どのクジラにも届かない52ヘルツのクジラの声。
だれにも気づかれず、ひとりで大海を泳ぐクジラ。
そんな伝説のようなクジラをテーマに人と人が生きる喜びと勇気が与えられる物語。
スピンオフも楽しませてもらいました。

i
2017/01/14 17:52
生命の躍動
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
西加奈子さんの小説は言葉が大切に選ばれていて、
音楽のようにリズムがあって、
言葉に表情がある。
冒頭から不安な気持ちを感じながら読み始め、
主人公アイの不安定な心と同じように読み続ける。
両親と血がつながっていない自分という存在の意味、
両親から注がれる愛情の不安、
世界中の死、
選ばれなかった人たちの運命。
その全てをアイは自分の内側に潜り込むように考え続ける。
その思いは届かないのかもしれないが、思ってくれる人がいるという確かな世界があることが、大切なんだとあらためて気づかされた。