紙の本
一人の漁師から始まった感動の物語
2015/07/19 10:21
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キック - この投稿者のレビュー一覧を見る
本当の豊かさとは何かということを考えさせられる本でした。
内容は、瀬戸内海の再生の物語です。高度経済成長で、瀕死の海となった瀬戸内海。その瀬戸内海再生の主人公は、昔から豊かな生態系を支えてきた生物たちとその活躍を根気強く支えた瀬戸内の漁師たちです。中でも「アマモ」と「カキ」を中心に、粘り強く環境浄化に取り組んだ結果、瀬戸内海の再生が実現しました。自然の力は偉大です。
それにしても、本田さんという一人の漁師の気づきから、再生が始まったというのには驚きました。その本田さんが志半ばで亡くなるくだりには、思わず涙してしまいました(65ページ)。結局、国家は何もしてくれないのですね。
私は北九州で生まれ育ちました。子供の頃は、八幡製鉄所(現新日鉄)の煙突から出る煙を「七色の煙」なんて繁栄の象徴のように言われていた時代でした。一方で、工場排水で海はヘドロ化し、近くの川は異臭を放ち、快晴でも空は灰色、空気は臭く、光化学スモッグ警報が毎日のように聞こえてきました。そして友人は小児ぜんそくとなりました。それでも将来を夢見て我慢していた時代です。明らかに社会全体が病んでいました。皮肉なもので、繁栄の象徴だった八幡製鉄所の大半が北九州から撤退したお蔭で、洞海湾は魚が戻ってくるくらいまで浄化しました。皮肉の象徴が世界遺産になるなんて、私からすれば噴飯ものです。
「SATOUMI」は、既に世界で使われる言葉になっているとのこと(110ページ)。新自由主義の果てに、人は自然と共生しないと生きていけないということに、気づき始めたということでしょうか。
本書は、経済成長が人間の繁栄を保証するものではないと気づかせてくれる本でした。ただ、未だに成長神話に取り憑かれているトップが君臨する限り、「里海」は国家の指針にはなりえないでしょう。
紙の本
生きる場所がキープできるか
2015/10/31 13:08
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にこ。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルからして以前買った「里山資本主義」の続編かなと思って書店で手にとってみた。パラパラめくり、目次を読むと、どうももう一歩踏み込んだ内容のようで気になった。後日あらためて見てみると、これは読まねばならないと感じたので買ってみた。
ページ順ではなく、気になる章から読み進めている。内容は読んでみての楽しみだが、地球の存続について、自分や自分たちの子供や孫の世代以降がこの先地球で生きていけるのか、とか、気になる方はぜひ手にとってみていただきたいと思う。
生き物が生存不可能な場所にしてしまうか、なんとか生きていける場所にするかは、今生きている我々のやること次第ということで、具体的に何をするか。何かするなら自分の生きているうちである。
電子書籍
人の手が加わってこそ里海
2015/08/31 06:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sio1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終わった後、行動したくなる本。
瀕死の海と言われた1970年代と比較して、現在は排水規制などで水質は良くなったが、「こわれた自然は、自然に任せるだけでなく、人が関わることが重要」と説く。カキ筏(いかだ)やアマモの事例は取材の緻密さが読んでいて面白かった。
1.カキ筏(いかだ)
カキの水質浄化能力も重要だが、カキ筏自体が沿岸の岩場の役割をしており、様々な生き物の生息の場になっている。
カキの赤ちゃんを求めて筏をひいて移動させたり、過酷な環境におき、強い遺伝子を残す等、漁師さんの苦労が伝わる。
2.アマモ
邪魔藻と揶揄されたアマモは生物のゆりかごの役割を果たす。
瀬戸内海はもともと「タイの海」だった。それがアマモが消えたころ「イワシの海」になった。
アダムスミスの「神の見えざる手」とマルクスの「資本論」に例えたのはわかりやすいが、社会主義国家が衰退している現状を考えると、うーん・・・と感じるものの、里海の定義でもある「人の手が加わることによって生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」とするために、人の手が加わる重要性は十分伝わる。海に近づく回数が減っているような気がするので、まずは海に近づくことからスタートかな?
紙の本
センチな「里海」論
2016/03/19 19:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木漏れ日 - この投稿者のレビュー一覧を見る
里海とは?。 大自然の海ではなく、人の手が入った内海を「里海」と呼んでいる。
「里海」というのは、面白いテーマ。
面白い話もあるのだが、センチメンタルな人情話がやたら多い。
せっかくの「里海」という面白いテーマを、センチメンタルな著者が台無しにした。
投稿元:
レビューを見る
里山資本主義も読みました。
里山よりも里海のほうが、親近感がわきます。
やはり、どちらかというと山よりも川や海の近くで
生活してきたからかもしれません。
だけではなく。
里海資本論の考え方は、都市も地方も関係なく
全体でできうる考え方だと思うのですが
里山資本主義の言われ方は、都市対地方(田舎)という
間違った対立に取られる部分があると思います。
今住んでいる家の近くは、23区内ですが、近くの川や
畑、森と自然が多く
虫・鳥もたくさん見かけます。やはり自然や多様性
を人間の手によって作り上げていくということが
大事なのではないかと思います。
投稿元:
レビューを見る
20150804 懐かしい未来。我々の世代までが実感としてわかるのかも。子供たちにとっては当たり前の現実になるように変わっていく流れになれば良いと思う。人任せではダメ。参加する事から始めよう。
投稿元:
レビューを見る
「里山資本主義」に続いてNHK取材班による日本再生の具体論。思えば子供の頃、70年代の記憶では瀬戸内海と言えば石油コンビナートや赤潮の発生など公害によって汚染された海というイメージだった。それが直近の僅か10年間で、驚くほど豊かな海が復活したという。牡蠣やアマモを活用した古来から伝わる智恵によって海水は浄化され、生態系が再び息を吹き返しつつあるという。過疎に悩む地域に若者が戻ってきてあらたな繋がりを生み始めている。里山から始まった新たな資本主義が里海に到り、本当に日本の社会を変えていくのではないかという期待を抱かせる。
少々、良いところばかりを取り上げているのではないかとも思わせるほどの絶賛ぶりなので、もう少し現実に起きている問題点などにも触れてくれるとより理解が深まるのではないかと思う。
投稿元:
レビューを見る
だいぶ前に『里山資本主義』は読んでいたのだが、本書はしばらく積ん読状態。。
読み始めてみると、自分にとってとても身近な瀬戸内海をメインに取材がされていて、もっと早く読めばよかったと後悔。
今では、澄んだとてもきれいで美しい瀬戸内海だが、高度経済成長の時代には工業排水や生活排水、埋め立てなどの影響で1年に300回近くの赤潮が当時発生していたとされている。
それが今の状態まで回復してきたのはここ約10年ぐらいである。
公害や排水への意識が高まり、対策がとられてきたのももちろんだが、一番の要因は自然に任せるのではなく、「人が手を加えることで海を健康にし、豊かにするメカニズム」。
西洋的な一神教に基づく考えではなく、八百万の神々を奉ずる多神教に例えて、人間(人為)も自然のシステムの中の一部、八百万の神々の端くれとして機能させることで、自然の中に均衡や多様性を生むことができる、という概念を実証データを基に証明した。
その結果、普段当たり前に見ている、美しい海が瀬戸内に広がっている。
そして海がよみがえると、病を抱えた人もよみがえる効果があった。
お金ではなく、昔ながらのモノが循環する経済もよみがえった。
そしてそれらはこれからの時代の最先端である。
弓削島や因島、向島の例も取り上げられていて、とても身近に感じた。
本書の解説で藻谷さんが引用している『風の谷のナウシカ』の一文がインパクトあった。
「この時代、人は海の恩恵からも見放されていた。海はこの星全体にばらまかれた汚染物質が最後にたどり着く所だったからだ」
たしかに、人が出す廃棄物などの汚染物質が最後にたどり着くのは海である。
そんな状態だった瀬戸内海が、いかに現在の状態まできれいになったのか、本書を読んでとても勉強させられた。
投稿元:
レビューを見る
何しろ私は岡山在住なので、NHK中国で取材している番組は、全てではないが見たことはある。取材対象が岡山県が多かったので、買ったのではあるが、「里山資本主義」の別バージョンかとは思っていた。二ついい意味で裏切られた。一つは、前著は半分以上は藻谷浩介氏の理論書だったが、今回は全面ドキュメンタリー番組の映像のテキスト化と補足になっていて大変わかりやすくなっていた。一つは、里海は里山の理論を覆って、(断定と曖昧は弱点だとは思うが)大きな理論になっていた。前著が資本主義で、今回が資本論であることにその時になって気がつく。
日生、しまなみ海道の弓削島、因島、または笠岡の取り組みは興味深いものが多かった。確かに、赤潮の発生が今ではほとんど聞かれることがなくなった等々のわかりやすい指標以外にも、ガッテンすることはある。倉敷に住んでいると、あんなにも臭くて臭くてたまらなかった水島港の臭いが、この前約40年ぶりに行ったらほとんど臭わなかったのだ。そうか、海が再生されつつあったのだ。水島はアマモが生えていないし、カキ筏もないので、再生のスピードは遅いが海は大きく繋がっているのである。
アマモの種付けで成果が現れ出したのは、始めてから25年後くらいだったという。確かに我々は死んだ海を長い間見てきた。その間に、漁師たちは諦めずに対策を立て実行してきたのである。「壊すのは簡単だけど、元に戻すのには時間がかかる」それは全ての環境問題に当てはまることなのかもしれない。
日生のアマモ面積は戦後すぐは590ha、1971年には82haまで落ち込んだという。2014年には280haまで回復。まだ道半ばなのである。
因島の除虫菊畑も復活しているらしいし、笠岡のカブトガニも今は干潟にもたくさん見えるという。この変化も、ほんの10年前には聞かなかった。アマモとはまた違う、独自の努力の賜物である。
自然の再生に、人間も少し「お手伝い」をする。その「里海」の考え方は、非常に日本的なのだという。里海理論が、やがて世界を救うのかもしれない。
2015年10月19日読了
投稿元:
レビューを見る
「里海」の概念によって再生した瀬戸内海各地を取材している。「里海」とは、人が手を加えることによって、自然の循環・再生が保たれ、生物多様性が増しているような海のこと。人間も多様性の一部であるという考え方は斬新だと思う。再生に取り組んだ人々の情熱と苦労と、その後の喜びが生き生きと描かれており、テレビ番組で見た場面も多かったが、活字もまた勉強になる。因島や弓削島も登場し、その自然環境の豊かさを再認識した。藻谷氏の解説の解説も面白い。
投稿元:
レビューを見る
里山資本主義の続編。
里山資本主義では里山自体にそれほどのキャパシティがないことは認めつつ、資本主義経済とも折り合いよくやりつつその比重をシフトしようよという主張だったと思うのだけど、今回の里海資本論では、なんというか‥里海礼賛のような主張ばかりが鼻につく。
書き手が前回の藻谷氏から井上氏に変わったからなのか、ここ数年で僕の意識が変わったのかはわからないが、事はこう単純な自然礼賛で解決することではないように感じる。もちろん、本書が論じるのはミクロであって、地球全体の巨視ではないのは理解しているし、こうしたミクロな意識改革が大切なのだが、そうした巨視観点からの警鐘も少しでもあればよかったと思う。
投稿元:
レビューを見る
前に読んだ「里山資本主義」より分かり易くて良かったが、私自身ではどうしようもない。でも、こういう話が増えて欲しい。
投稿元:
レビューを見る
広島のカキ,日生のアマモなど身近な話で楽しめる.素晴らしい人々の活動を記者として的確に報告している.確かに瀬戸内海はきれいになってきた.赤潮の時代があったことが信じられないが,あのように海を痛めてきたことは忘れてはいけないと思う.未来に希望が持てる話ばかりで,楽しく読めた.
投稿元:
レビューを見る
里山資本主義の続編! 東京でも素晴らしい自然がみれるのかな‼ちょっとずつ、自然を作り上げれるように、協力してみたい!
投稿元:
レビューを見る
牡蠣筏によって、浄化されていく海。自然物を利用して自然を取り戻していく。ステキな考え方だと思った。赤潮の時と筏設置後の写真を実際に見比べた時は同じ海とは思えないほどキレイになっていて感動した