紙の本
ナチの国の若者の想い
2017/04/24 09:02
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投稿者:まもり - この投稿者のレビュー一覧を見る
音楽に生きる人たちの話だと思ったら違った!ナチスドイツが台頭する中、同じドイツに生まれた多感な若者たちがどうその時代を過ごしたか何を感じながら過ごしていたかなどを精緻な筆致で描き切った凄まじい作品。冷めた視線で、受け入れがたい戦争と政策を時にイロニーにまみれ、力強く抗い、発狂を抑えながらやり過ごしていく様子に言葉を失う。戦争に飲み込まれないように、必死に友人たちと複雑に支え合う若者たちの姿に、改めて戦争の否応ない圧力と不毛さを胸苦しく思う。佐藤さんはすごい作家だ!
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ジャズと自由を愛する
2018/05/22 04:04
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分の好きなことをとことん追い求めていく少年たちの姿には心温まるものがありました。戦争が青春時代を奪い去る残酷さも伝わってきました。
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生き抜かなくっちゃ
2017/09/22 21:02
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナチス政権下のハンブルグ。そこの富裕層の息子エディ、十代の少年らしく世の中に反発しているようでいて、冷めた目で、第三帝国を見据えている。
クラブで踊り、ジャズを奏で、ゲシュタポに追われたり、つかまったり。戦争が激しくなり、やがてドイツは空襲を受ける。
ユダヤの血を引くもの、もしくはユダヤ人と縁を結んだ者もいる中、純粋なアーリア人って何だと問う。収容所に送り、強制労働や虐待で死なせるより、きちんと食べさせ、働かせて税金を納めてもらったほうがよほど国のためになるじゃないかと、資本家の息子らしく考えているあたりが、不良ながらも建設的だ。
なんと多大な犠牲を払って、戦争は終わるのだろう、それがいつも不思議だ。
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戦時下のドイツ・ハンブルクを舞台にした青春小説。
ジャズに熱中する若者の姿が魅力的だった。主人公は斜に構えていながらもしたたかで、それがラストの爽快感に繋がっているような気がする。
Twitter文学賞を受賞した『吸血鬼』も良かったが、個人的には本書の方が好み。
帯文は皆川博子。そういえば皆川博子の『伯林蝋人形館』とも、描かれている時代は違えど、何処か虚ろで、でもハイテンション……という部分が共通点していると思う。
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登場人物の描写が生き生きとしていて素晴らしいです。スウィング音楽が、ダンスのステップが、彼らの息づかいが今にも聞こえてきそうでした!
ナチス政権の戦争下にあって、生命力溢れる若者たちの一生を切り取った物語です。圧倒されました。
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佐藤亜紀「スウィングしなけりゃ意味がない」 http://www.kadokawa.co.jp/product/321608000273/ … うおーよかった!嫌いな戦争物なのに!今年の一冊。陰惨な状況が軽い文体で淡々と書かれる。主人公は感受性まで徹底してお坊ちゃんだし章題のスタンダードジャズがシノプシスにもなってるし。いやーもう
サントラがあった
https://youtu.be/-FvsgGp8rSE?list=PLcgXt29xqW6eJiwUrQi8sgq6dFMpJtcgS
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第二次世界大戦中、ドイツ北部に位置する港湾都市ハンブルクの話。戦時下だというのにクラブに通いつめ、軽やかにステップを踏み、ピアノやクラリネットを奏してジャズに明け暮れる若者たちがいた。その名も、スウィング・ボーイズ。えっ、ナチスドイツの国でジャズ?と驚く向きもあろうかと思うが、ハンブルクは中世以来ハンザ同盟の自由都市として知られ、正式名称は自由ハンザ都市ハンブルクという。
つまり、同じドイツといっても首都ベルリンほどナチに傾倒していない人々が多かった。会社社長などは当然党員であったが、面従腹背の姿勢でほどほどに付き合っていたのだ。その息子たちは、父親が形だけでもナチのシンパになっていることに腹を立てていた。主人公が憧れるデュークという上級生に至っては、軍の英雄である父親と取っ組合いの喧嘩をして、双方とも血まみれになってもやめないほど。
それにしても、これが日本人が書いた小説、というから驚く。はじめは海外小説の翻訳だと思ったくらいだ。日本の小説は海外を舞台にしていても、主人公は日本人だったりすることが多いのだが、出てくる人物はドイツ人やユダヤ人ばかり。日本とは何の関係もない。現地取材もしたのだろうが、当時の資料を駆使して自在に戦時下のハンブルクを描き出す。
ハンブルクにはドイツの潜水艦基地があり、造船所などの軍需産業も多く大空襲を受けている。無論その時の様子も出てくるが、前半は、ギムナジウムに通う十五歳の主人公エドワルト・フォス(通称エディ)が、ピアノの天才少年マックスや、ヒットラー・ユーゲントのスパイをやらされているクー。何をやらせても格好いい上級生のデュークといった面々に出会うことにより、次第にジャズに嵌ってゆくところを描いていて、アメリカの青春映画をなぞっているような気分だ。
戦争中だというのに当時の日本の様子と比べると嘘みたいに明るく、陽気で派手でオシャレで、いったいこの差はなんだ、と憤りたくなるほど。まあ、差は確かにある。というのも、日本の小説や映画に登場する当時の青少年は、優等生とは言わずとも、まあまあ普通の家の子であることが多い。一億総中流といわれる時代にはまだ早いが、とんでもないブルジョアが主人公になったりはしない。
エディの家は祖父の代に稼業で成功し、父の代には軍需産業の経営者に成り上がる。家にはプール、自家用車はマイバッハというブルジョアだ。エディがつるむグループは、ハンブルクの産業界を牛耳る社長や軍の幹部といったお偉いさんの子弟が中心で、あと何年かすれば彼らが父親に代わって、市の経済を支える重鎮となる。親の七光りをいいことに、休日にはクラブやカフェに入り浸り、酒と女と音楽を楽しんでいる。早い話がセレブの不良グループだ。
卒業すれば、ふつうは入隊が待っているが、エディは父の会社に入ることで入隊が免除される。軍事教練さえこなしておけば問題はなかったはずなのだが、ある日マックスに話しかけられたのをきっかけに、エディはどんどん深みにはまってゆく。すべてはジャズのせいだ。マックスはジャズを聴くためにクラブに行きたいが、服装がダサくて入れてもらえない。その点エディなら、ツウィードやフランネルのダブルブレストのブレザー、トレンチ・コートから靴まで、ワード・ローブは完璧だ。
マックスにお古を貸す代わりに、ちゃっかり仲間入りしたエディは、すっかりその雰囲気に嵌ってしまう。ウィスキーを飲み、女の子と踊っているところをゲシュタポの手入れを受け、逮捕される。初犯であることを理由に放免された後も、エディはジャズから離れられなかった。マックスのピアノは上達し、アディという女の子のクラリネット吹きとも出会えた。親父の会社の社員の息子のクーにもお古をやって仲間に引き入れる。ジャズと酒とパーティの退廃文化を満喫していたエディを襲ったのはまたもやゲシュタポだった。
二度目とあって父親も救いきれず、鑑別所送りにされたエディは、壮烈な洗礼を受ける。志願すれば助けるという相手に、刑期を務めあげないうちは入隊しないと言い張るエディ。業を煮やした所員らは、エディを散々痛めつける。縞服の収容者たちと同じ場所で穴掘りをさせられたエディの前で次々と人が死んでいく。それでも志願を拒否し続けるエディ。彼はここで筋金入りの反ナチとなる。この小説の面白いのは、ナチに反抗するのが、主義者でも何でもない、ただの金持ちの不良少年であることだ。
ただの不良どこではない。禁制のジャズをレコードやBBCの放送から録音して海賊盤を作り、地下に潜ったユダヤ人の手を借りて闇のルートに流し、ぼろ儲けをする才覚も持っている。しかし、それは金が目的ではない。好きな音楽を聴く自由を誰にも邪魔されたくないからだ。もちろん、マックスのピアノ演奏を録音したレコードも作る。ユダヤ人丸出しの名前を付けたレーベルで、ひそかに流れ出したそれは評判を呼ぶ。
クライマックスは、ハンブルク大空襲。第二次世界大戦を扱った小説や映画で大量に目にするのは連合軍側の視点で描かれている。しかし、ドイツの側から見ればそれは地獄だ。しかも、複雑なことに、ナチを嫌うエディが願うのは、連合軍の勝利によってこの戦争が終わることだ。狂気のヒトラーは、敗北するくらいなら自分たちの手で一切を焼き払えと命じる。工場を再建すること。ユダヤ人その他収容所から徴用されてきた多くの労働者を無事に逃がすこと。エディのやらねばならないことは多い。
各章のタイトルに有名なジャズ・ナンバーの曲名が使われている。第四章はビリー・ホリデイで有名な「奇妙な果実」。黒人の死体が木の枝にぶら下がっている光景を果実に喩えたこの曲の名が何故と思っていると、差別を受け、次第に追い詰められてゆくユダヤ人の運命の暗喩となっている。もちろん、本作の表題も有名なデューク・エリントンのナンバーだ。ジャズ好きでなくとも一度くらいは耳にしたことがある有名な曲ばかり。頭の中で流れる音楽に耳を澄ませながら読み進めるのも一興。
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第二次世界大戦中のドイツ・ハンブルクでの高校生が主人公の物語。
ナチスの抑圧の中、いかにジャズを楽しむかに青春をかけた若者たちの様子が生々しく描かれています。
一般的にイメージする戦時中の様子とは違う、ハイソな社会のお坊ちゃんたちの生き様が伝わってきます。
また、空爆された市内の様子も生々しすぎるくらい描かれています。ちょっと気持ちが悪くなるくらいリアルです。
ものすごい量の下調べがあったのでしょう。参考文献の量がすごいです。
戦争反対の意味も含めて、お薦めします。
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ナチス政権下のドイツ。ハンブルグという工業都市で敵性音楽のジャズにはまってしまった少年たちを描く。ただ解説によるとドイツはわりとジャズ先進国だったらしい。
愛国主義を押し付けたり、わけのわからん理論を展開する国のやり方に怒りを示す主人公エディに引かれる。
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戦下のジュブナイル小説とでもいうのでしょうか。「青い棘」みたいな退廃的な話なのかと思ったら、世知辛い世の中にあっても商機を見るに敏な奴はいるもので、そういう輩が戦火の中をまさにスウィングしながら生き延びていくんでしょうなぁ。エディは私の脳内で「オスカー・ライザー」として変換されました。
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ジャズなんてまったく分かりません!な自分が、iTunesでジャズの曲をポチポチ買うようになってしまいました。もちろんこの小説の空気をより感じたいがためなんですが、「The World is Wating for the Sunrise」を聞くと、同タイトルの章の、工場でこの曲がかかるシーンや緊張から解放に向かう空気が浮かんできて、イントロだけで涙腺が緩みます。
各章に曲名が付けられていて、曲が物語に寄り添って進んでいる(と思う)のですが、前半で一番印象的だったのは「IV 奇妙な果実(Strange fluit)」でした。ジャズに暗くてもStrange fluitというタイトルだけで、それなりに身構えて読んでいったのですが、マックスの祖母が「あたしたちは人間ではなくなってしまった」とつぶやきながら真綿で締められるように自死に追いつめられていく姿には、人の尊厳を奪うことの酷さについて考えさせられました。また社会の仕組みをいじるだけでこのような残酷なことが簡単に行われてしまうことへの恐ろしさをまざまざと見せつけられました。そんな中でリーベンス兄弟の“尋常ではないアイデアで生き延びる”逞しさには救いを感じざるを得ませんでした。
主人公も社会的にはいわゆる「不良」という位置づけですし、リーベンス兄弟も父親たちに「ろくでなし」呼ばわりされてしまうわけですが、そうあらなければ生きていけない社会の方が間違っているというエディたちの姿勢は首尾一貫としていて読んでいて爽快でした。後半登場するエッピンガーのブレっぷりとは対照的だったのも面白かったです。
ちなみに主人公たちが裕福な家庭だということでアルスター湖をヨットで乗り回すシーンが頻繁に登場するのですが、地図と併せて湖のある都市として描かれるハンブルグの町が印象的でした。
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読書会でおすすめしていただいた本です。
とても面白かったです。
第二次世界大戦下のドイツ、少年たちはジャズに熱狂する。敵国の音楽ですが、彼らにはドイツに蔓延する空気の方がダサい。彼らの言葉など、現代の表現で軽快に描かれていました。
戦時中が舞台なので、爆撃など辛い表現もあるのですが、描かれる少年たちの日々はみずみずしさもありました。
戦争は全てを変えてしまいますが、彼らならこれからもたくましく生きていくだろうと思いました。
映像的ですし、翻訳物を読んでいるようでした。
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読みづらかったー。大人が少年の口調で書く小説って苦手...。戦時下の若者ってこんな感じかも。これもある意味リアリズム…。でもこのタイトルどうにかならなかったのかしら。
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出だしは自意識過剰(少年時代を描いた小説に特有な)で、作者はとても巧みだが読みにくい。この時代の本や映画にとても興味があるし、ジャズのスタンダードナンバーの章立ても成程と思わせる選択で、読み進むと、中ほど(Night and Day)から一気にペースアップ、ラストへ突き進む。最後にアディの声が聞けてよかった。
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ナチの非道はドイツ国内のドイツ人に対しても容赦ない.その中で金持ちの特権を隠れ蓑にジャズを愛しギリギリの青春を謳歌するエディ達おぼっちゃま軍団.どんな状況でもスウィングを忘れずしぶとくしたたかに生き抜いていく,軽いのりで不良のようにふるまいながらも,絶対に戦争には行かないという強い意志には心揺さぶられた.そして,収容所の人々が描かれている反戦物として強く訴えるものもある.ジャズの名曲の数々,また「死の島」素晴らしいです.