紙の本
読み急ぐことが惜しまれる日本語に触れられるエッセイ集
2010/05/30 12:47
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
週刊文春に連載されたエッセイ70本を再構成した一冊です。文春誌はたまにしか手にすることがありませんが、手にする機会があれば必ず読むのが福岡ハカセの連載エッセイでしたから、こうした形でまとめて読むことが出来るのは大変うれしいことです。
『生物と無生物のあいだ』、『世界は分けてもわからない』とハカセの二つの前著を手にしたとき、その美しい文章に大変感銘を受けたものです。この『ルリボシカミキリ』は短い随筆文を集めたものですから一編一編は短時間で読めるものですが、読み急ぐことが惜しまれる歯ごたえとコクのある日本語に私は、またしても魅了されました。
昆虫少年であった頃、長じて生物学を修めるにいたった若き研究者時代といったハカセ自らの思い出や、2000年代後期の社会事象(臓器移植法の改正、相次ぐ日本人のノーベル賞受賞、ハイブリッドカー、狂牛病、洞爺湖サミットなどなど)を、生命を見つめ続ける学者の視点から綴っています。その興味と好奇心の幅の広さに驚き、そしてそれぞれの事象を見るにあたって提供される思いもよらない新鮮な視点にもまた魅せられるのです。
私がもっとも強い共感とともに読んだのは「一九七〇年のノスタルジー」。
私はハカセよりもわずかに年齢が下がりますが、それでもかろうじてあの年に大阪で開催された万国博覧会に出かけた思い出があります。
ハカセはこの一編で「懐かしく思う」ことの正体を自己愛であると看破し、そしてその思いが人を慰撫することもあれば、時にひとの足をすくうこともあると綴ります。ハカセの冷静な平衡感覚に、『生物と無生物のあいだ』にあった「動的平衡」というキーワードの片鱗を見た思いがします。
週刊文春の連載はまだ続くようです。また時期がきたところで続編の刊行がされることを楽しみに待ちたいと思います。
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「動的平衡」読んだとき
目からうろこがいっぱいだった
そんな福岡ハカセの
生物学的な視点での
日常を語るエッセイは
サイエンスちっくで哲学的
眼に見えている世界ではなく
眼に見えていない
ありのままの姿みたいな感覚
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2010.5.8読了。
ハカセ、この本は未来のある少年少女のために書かれたと思っていたら、たぶん人生折り返し点は過ぎていると思われる週刊文春の読者向けの連載だったのですね。
子供の時のセンス・オブ・ワンダーがその後の人生の原点になっているハカセ。生物学者として非常に素晴らしい仕事をしているハカセを尊敬していますが、専門分野だけでなく、他の分野についても面白く語られているところもまた楽しく読めました。
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(2010.05.17読了)(2010.05.12借入)
「週刊文春」に2008年5月から連載しているコラムの最初から70回分を再構成・再編集してまとめた本ということです。1回分が2ページ半ほどの長さですので、どんどん読めます。
書いてある内容は、著者の他の本とほとんど重複していますので、福岡さんの本なら何でも読んでおきたいという方とまだ福岡さんの本は読んだことがないけど、あちこち寄り道する長い文章じゃなく、短い文章で生物、生命についてのあれこれを知りたいという方にお勧めです。
●一週間に食べたものは(86頁)
小学6年生に一週間に飲み食いしたものの重量を計ってもらった。一日2kg、一週間で14~15kg。一週間の間に体重がほとんど増えていないとしたら15kgはどこに消えたか。
大・小の排泄量を推定すると15kgの半分ぐらいになる。吐き出しいるCO2の量を計ってみると、一週間に人間が排出する炭素の重さは5~6kgになる。これこそが食べた物の燃えカスだ。これに汗や呼気中の水蒸気などの水分の排出を足し合わせるとインプットの15kgと収支が合う。
(体温を維持する熱エネルギーとか心臓・肺を動かすエネルギー、物を運んだり歩いたりのための筋肉の運動エネルギーとかいうことは考えなくていいのでしょうか)
●名分の書き手(98頁)
大手予備校の「大学入試現代文頻出著者ランキング」を覗くと、内田樹、池田晶子、鷲田清一、養老孟司、・・・等の名前が挙がっている。
(福岡伸一さんの文章も入試、模試の問題に使われています。)
●ブラウン運動にまつわる誤解(103頁)
「生物と無生物のあいだ」138頁にある以下の記述
「原子そのものの動きを直接見ることはできないが、小さくて軽い粒子、例えば水面に浮かぶ花粉や空気中に浮かぶ霧の動きなら顕微鏡を使って追うことができる。すると粒子は絶え間なく非常に不規則な動きをしていることが分かる。これがブラウン運動と呼ばれるものだ」
こんなふうに花粉が動いて見えることはありません。
花粉は小さいとはいえ、普通直径が1mmの20分の1から30分の1程度あり、それよりもずっと小さい水分子が衝突しても動きをみることができない。ブラウン運動は花粉よりずっと小さな微粒子でしか観察できないものなのだ。
●コラーゲン(117頁)
他の動物から採取したコラーゲン食品を食べた場合、それがダイレクトに吸収され、細胞の隙間や関節に達し、コラーゲンの不足を補うということは決して、ない。外来のタンパク質が勝手に身体の中を行き来すれば重大なアレルギー反応や拒絶反応が起こる。そうならないように私たちは、食べたタンパク質をまず消化管内で消化する。つまりアミノ酸にまで分解する。
●なぜ太る(125頁)
大きな動物をしとめることができたら、人々はここを先途と可能な限りむさぼり食べたことでしょう。次にいつ食料にありつけるかわかりませんから。それゆえにこそ、進化はヒトをして、余剰のエネルギーを素早く蓄積する仕組みを発達させました。
●「1Q84」のリトル・ピープル(151頁)
目に見えないけれど、私たちの中にひそかに存在し、その全能性によって人間を支配しようするものとしてリトル・ピープルはある。わたしたちを乗り物として徹底的に利��し、利用価値がなくなれば躊躇なくそれを乗り捨てていくものとして描かれる。
(遺伝子のこと?)
●校正(166頁)
大手出版社は専任の構成者を特別な試験によって独自採用している。校正者は出版社ビルの専用階に陣取って、その出版社から出されるすべての原稿に目を通す。
(本を読んでいると、ときどき誤植に出会います。優秀な校正者がいない出版社の本なのでしょう。)
☆福岡伸一の本(既読)
「生物と無生物のあいだ」福岡伸一著、講談社現代新書、2007.05.20
「できそこないの男たち」福岡伸一著、光文社新書、2008.10.20
「動的平衡-生命はなぜそこに宿るのか-」福岡伸一著、木楽舎、2009.02.25
「世界は分けてもわからない」福岡伸一著、講談社現代新書、2009.07.20
「ルリボシカミキリの青」福岡伸一著、文藝春秋、2010.04.25
(2010年5月18日・記)
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5/17 NHKスタジオパーク出演
今後もメディア露出あり
http://fukuoka-hakase.cocolog-nifty.com/blog/
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題名と表紙に魅かれて買いました。
ルリボシカミキリは見たことないですが、昆虫好き私には一度は目にしたい昆虫です。
筆者の「生物と無生物の間で」という本はとても面白く、筆者の名前も何んとなく覚えてました。
本書はいわゆるエッセイですが、生物学者としての視点から書かれていて、非常に新鮮でした。
自分のことを福岡ハカセと言っているのが、全く嫌味に聞こえず、御茶ノ水博士のようなユーモラスに聞こえます。
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雑誌の連載をまとめたものなので、短い話ばかり。多少物足りない。しかし、その一つ一つは変わらずに興味深く面白く、また文学性を備えている。相変わらずの福岡氏の文体である。
たくさんの書き込みをしたなぁ。それだけ興味深い箇所が多かった。これをまとめるのが楽しみだ。
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福岡ハカセのエッセイ。ハカセの少年時代の話しや研究について噛み砕いた説明などなど、バラエティにとんだ内容で気楽にさくさくと読めますね。ナメクジを殺す(とかす)には、昔から塩をかけると相場は決まってますが、はちみつでも殺すことができるの知ってました?
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磨がれた文章センスにとても感銘。読み手の感性にさざなみを立てる筆致力・表現力は、プロの文筆家でもめったにいないレベルの高さだと思う。今年一番読んで良かったと思ったエッセーです。
昔の少年・少女だけでなく、現役の中高生にも読んでもらって、彼らの感性を磨いてほしいな、と思います。
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分子生物学者の著者の作品はどれも面白い。難解な分野を噛み砕いて説明する文章力と風景や情景の描写力が秀逸。さらに、全体の調和を重んじる価値観に深く共感する。そんな著者が、児童に語り掛けるような形式で、多彩な分野についての持論を展開。生物学に興味を持ったきっかけ、物書きとしての失敗談、村上作品「1Q84」、狂牛病、コラーゲン化粧品の効果、ダイエット、ロハスなどなど。語り口は穏やかだが、主張は鋭い。勉強になる。
著者は、(別作品「動的平衡」で詳述しているように)、生命とは「動的平衡にある」という。
「生命とは、柔軟で可変的な存在。押せば押し返し、沈めようとすれば浮かびあがろうとする絶え間のない営み」。「もし受精卵の段階で、ある遺伝子が欠落していれば生命はその欠落を巧みに補うようにする。つまり別の分子やしくみを立ち上げてバランスを取ろうとする。そして何事もなかったようにふるまう。生命は時計仕掛けというよりも、むしろもっと柔軟で可変的なものなのだ。つまり生命とは『動的平衡』にある」
時計ならば、欠陥部品を入れ替えると修理完了だが、人間はそうはいかない。遺伝子Aを消失、または挿入しても、必ずしも効果は表れない。個々の細胞に張り巡らされたネットワークが「ない」部分を補うための、新たなシステムを立ち上げるからだという。
このような生命全体の絶妙なサジ加減を重んじる。ゲノム解読によって、すべてが解決するという誤った風潮に警鐘を鳴らす。機械論的に解さず、生命の全体に目を向けるべきだという姿勢が素晴らしい。
こんな著者だからこそと思われる言葉が、「才能の萌芽」という1節にある。
「面白いと思った視覚体験を、ずっと面白いと思い続け、その意味を考え続ける。そして気づく。それは人間が勝手に作りだしている境界線や輪郭線を、わざとつなげたり、わざとなくしてみせることの愉快さなのだと」「近代科学は、世界を分けて分けて分けてきた。そして何かを分かった気分になった。でもそれは幻想だった。パーツはどこまでいってもパーツでしかない。遺伝子はすべてゲノムから切り取られ、解読されたけれど、生命のありようは何も解けてはいない。分けた瞬間に失われたものがあるからだ。人為的な分断と分節をつなぎ直し、人工的な境界を溶かさないと見えないことがある」
本書では生物学だけに限らず、環境問題(ロハス)、食の安全、アートなど様々な分野で核となる重要な価値観を、楽しみながら吸収することができると思う。
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『週刊文春』連載のコラムの書籍化だそうです。生命科学をめぐる‘ハカセ’のエッセイは、夏休みの課題図書にもなりそうです。▼NHK『いのちドラマチック』の裏話入りです(?)。図書館予約数は11(2010/08/14現在)です。
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週刊分春に連載中のコラム「福岡ハカセのパラレルターン・パラドクス」の再編集版である。
コラムなだけあって、その時々のテーマについて福岡ハカセがその所見を述べている。
テーマの豊富性と、筆者の造形の深さは素晴らしい。
その中でも共通しているのは、本質の究明であると思う。つまり、本のテーマにもあるように、なぜ自然とはこのようになっているのか、ということを論じているのである。そのなぜという問を想起させるテーマとして、生物学や歴史という身近なトピックを用いているのである。
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週刊文春の連載されている、分子生物学の博士・福岡伸一先生のコラムを一冊にまとめたもの。
コラムだから色々なテーマで書かれていて、ひとつのテーマにつき約2300文字程度。
短くて読みやすい。
しかも全然難しくない。
ウィルスについて、DNAについて、という生物学者らしいテーマの回もあれば、登山で遭難しそうになった話や料理教室に通った時の話など生物学とは関係ないテーマのものも。
だけどそんな回でも学者らしい見解が盛り込まれていたりして、私の知的好奇心は刺激されまくり。
もっともっとこんな本が読みたい。
先生の著書・「生物と無生物の間」も面白かったし、他の作品も読んでみよう。
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連載しているコラムをまとめた一冊。こういった科学物は読みごたえが薄くなってしまいがちだがこれは濃い。ウイルスの話は全然知らなかったし、福岡ハカセの日常もかいまみえる一冊。
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いろんなおもしろいことが知れた。
福岡さんの本は専門的なこともとてもわかりやすく、興味わくような書き方をしてくれるから読みやすくてすき。