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生産性の低い本は淘汰? ちきりんと共に未来の本のかたちを探る

「社会では、急速な高生産性シフトが起こりつつあり、生産性の低いものは淘汰される」

2016年11月に発行された『自分の時間を取り戻そう』で、このように主張した、ちきりん。社会派ブログの運営者で、Twitterのフォロワー数は20万人を超える女性である。

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社会派ブロガーちきりんと考える、未来の本のかたち

社会派ブロガーちきりんが2017年3月27日、「高生産性シフトの到来と、未来の本のかたち」をテーマにトークイベントを行った。問いかけは、2つ。

1つ目は、本を読むという読書体験は、はたして今後も読み手にとって、生産性の高い活動であり続けられるのか、ということ。2つ目は、貴重な時間とお金を投入したいと思えるような「生産性の高い本」をつくり出していくためには、作り手と書き手に何が求められるのか、ということだ。

ちきりんとダイアモンド社の編集者、会場の参加者と共に答えを探っていった。その内容をレポートする。

生産性

加速する「高生産性」へのシフト

「生産性」とは、時間やお金などの希少資源に対して、どれだけの成果を手に入れられたかということを意味する。もちろん人によって、その成果は様々ではあるのだが、「社会は、生産性の高いモノが選ばれる方向へと変化している」とちきりんは主張する。

たとえば...と例にあげるのは、テレビ。テレビの人気が無料動画配信サービスに圧倒されてきている原因はさまざまに語られているが、ちきりんはその原因を「生産性の低さ」だと指摘する。

たとえば無料動画は録画の必要などもなく、好きなときに好きなところから、ピンポイントで再生できる。また、尺が短いものも多いので、すきま時間に必要なもの(=成果を得られるもの)だけ見ることができる。すなわち、生産性の高い見方ができるのである。一方、テレビは、平均的なコンテンツクオリティはまだ無料動画より高いものの、自分にとって必要な場面を見るために(=成果を得るために)、その前後を含めて何十分、何時間も見なければならない。これは生産性が低い。

だからこそ、動画のコンテンツの質がテレビよりやや劣るとしても、消費者は無意識的に生産性の高いものを選びつつあり、テレビが淘汰されつつある、という論理である。

では、このような「高生産性シフト」が他のあらゆる場面で進むのだとしたら、はたして「読書体験は、読み手にとって高い生産性を維持できるものなのだろうか」。さらに、読者が自らの時間やお金などの「希少資源」を投入したくなるような、生産性の高い本をつくっていくにあたり、作り手や書き手に求められることは何なのだろうか。

未来の本は、読者が求める「成果」から導ける

現在の本のかたちは、読み手が得たい「成果」から逆算したときに、ベストなかたちといえるのだろうか。すなわち、読み手が本に求める成果を、最善の方法で達成できる本のかたちなのだろうか。ちきりんに導かれ、私たちは思考実験を試みた。

たとえば、ここにスティーブ・ジョブズなど、著名人の超長編自伝があるとする。読み手の得たい成果が、①信頼度の高い知識を成果として求める場合、②本棚に飾ることを成果として求める場合などにあるとき、超長編自伝の生産性は高いのだろうか。

おそらく、①と②のどちらの成果を求める場合でも、超長編自伝の「生産性は低い」だろう。前者の「信頼度の高い知識」を得るには、超長編自伝は、時間やお金(=希少資源)をたくさん使う。後者の「本棚に飾ること」が成果の読者にとっても、それだけの分厚さ、価格が必要かは疑問である。より生産性の高い本のかたちが考えられそうだ。

それでは、①あるいは②の成果を求めるときに、「生産性が高い本」とはどのようなモノになりえるのだろうか。以下がその思考実験の結果である。

①信頼度の高い知識を成果として求めるとき、要点がまとまった「サマリー本」はニーズがあるのでは(但し、オフィシャルの出版社が発行するもの) ②本棚に飾ることを成果として求めるとき、「より洗練されたヴィジュアル(装丁や写真)を持つ本」はニーズがあるのでは(このとき、本の内容は限定的でよい)

このように、読み手の得たい「成果を起点」にして考えたならば、現在の本のかたちは、必ずしも最善ではないと言える。今後発展してくる高生産性社会では、それぞれの読者が求める成果にカスタマイズされた本こそが、生産性が高い本であり、求められていく本だといえるのかもしれない。

さらに読み手自身が、生産性が高い本を選ぶことも重要だろう。これは難しいことではなく、実は日常で行われていることだ。

たとえば古典を読むとき。漢語版がよい人と、現代語版がよい人と、マンガ版がよい人がいる。これは、自らのリテラシーレベルなどに合わせて、最適な生産性の高さを無意識に追求しているのだろう。現代語版で読むほうが情報量が多いが、読みこなすだけの知の基盤や言語力がない場合には、マンガ版で読んだ方が得られるものが多い。文字で読んでいると、希少資源である時間を大量に消費してしまうからだ。

このように、読み手の成果をカスタマイズする本が作られていったり、読者自身が自らのリテラシーを把握していったりする中で、生産性の高い読書活動が維持されていくように思う。よって、1つ目の問い「読書は、読み手にとって生産性の高い活動であり続けられるのか」という疑問への答えは、イエスだ。

ここまでは「読み手」の視点での生産性を軸に思考実験を進めてきた。では次に、「作り手」と「書き手」にとっての生産性を考えてみよう。

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本はテレビより、無名の人物を世に送り出せるのか

作り手の生産性を問いかけていくと、ひとつには「本の制作プロセスの生産性」があげられた。ここには既に顕在化している課題もあるようで、たとえば、100ページほどで収まる内容を他の本に見劣りしないページ数まで増やさなければいけないケースや、インタビュー原稿の機械的な書き起こしプロセスなどは、本の流通の仕方やAI(人口知能)の発達にともない、数年のうちにも生産性高い新しい手法へとシフトしていくように思われる。

他方、おもしろい議題であり議論が交わされたのが「本には、著者を世の中に出すという成果が期待できる」というもの。この編集者の意見に対し、ちきりんは「この場合、テレビと本では、どちらが生産性が高いか」と問いかけた。

ここから、思考実験が進んだ。はたして作り手が「著者を世の中に出す」という成果を求める場合において、本という媒体は、生産性が高いといえるのだろうか。当初ちきりんが聴衆に問いかけたところ、「テレビ」の方が生産性高いという意見が7割ほどであった。

たしかに、『火花』などの例をみても、本を「売る」という成果においてはテレビの生産性は高い。しかし、今回の問いは、「ゼロから無名の人物を世に送り出していく際」ということである。無名の人物をテレビに出す場合と、無名の人物が自分の意見を本にして、その本が売られていく場合を考えていくと...。さまざまな意見が交わされたが、分母の小ささも考慮したうえで、聴衆の中でもテレビ派から本派へと主流派が変わっていった。どうやら、本の生産性の方が高いようなのだ。

一見すれば、テレビこそが、無名の人物を世に知らしめる際には最善の手段と思われる。しかしテレビでは、時間帯や番組の方向性などの制限がかかるし、なにより受動的な視聴のため、あるメッセージ、人物の魅力の内容を伝えようとしたときの時間が短い。一方、本という媒体は、著者のもつ考えや世界観を「パッケージ」としてまるごと消費者の手にとどけることができる。だから、「著者を世に出す」という成果を得たい作り手にとっては、本という媒体の生産性が高いと結論づけられるのである。

生産性の高い書き手は、本で何を伝えるのか

最後に、「書き手」にとって、本は生産性が高いのかという疑問に迫った。今回は書き手が本に求める成果として、以下の2点を挙げた。

①伝えたいメッセージ、世界観の伝達
②書き手自身の知識の体系化、言語化

詳しく見ていこう。たとえば、①メッセージを伝えたいという成果を求めるだけであれば、ブログなどの生産性が、本の生産性を凌(しの)ぐだろう。なぜならばブログであれば、自分の世界観を好きなときに好きなだけ伝えられるからだ。一方の本は、自分のメッセージを伝える(=出版する)までにはどうしても時間も手間もかかってしまう。

しかし②の知識の体系化という点では、本の生産性はブログよりも高い。当然のことであるが、ブログのページを1ページ1ページ眺めるよりも、本という形態、パッケージで、1冊にまとまっていた方が体系化され、全体感がわかりやすい。

人工知能は、作り手と書き手をどう変えるのか

今回のイベントでは、度々人工知能(以下、AI)についても触れられた。たとえばAIが発達すれば、以下のような可能性も出てくるわけだ。

①校正などのプロセスの時間短縮(作り手に影響) →書き手の伝えたいメッセージが、より迅速に伝わる可能性が出てくる

②ライティングにAIが活用される可能性(書き手に影響) →ライターには、今まで以上に本来の意味でのインタビュアーとしての資質が求められる

なお②については、今後より生産性の高い本をつくり続けるために、書き手に求められることであろう。人工知能は作り手の生産性を高め、より迅速に書き手の意思を伝える可能性がある一方で、私たち一人ひとりに「人間」について深く考えさせるように思われる。

本の未来は、明るいのか

今回の思考実験によると、どうやら、読書という体験は生産性の高いものであり続けられそうだ。また、本という媒体も生産性を高める役割を果たしているようであり、特にその知識のパッケージ力は、他に代わるものがなさそうである。

しかし一方で、現状の本の分量や値段、流通の仕方には、生産性シフトを見据えると改善の余地がありそうだ。さらにはAIの開発が進むにつれ、作り手、書き手という、本をつくるプロセスの変化は起こるだろう。

また、今回、メインの議論には出てこなかったが、ちきりんが途中でふと述べた「本自体は生産性が高いものも多いのだけれど、その生産性の高い本を見つけるという発見のプロセスの生産性が、今はまだ低い」という発言は、印象的だった。

生産性、という観点からの思考実験を進めることで、新たな本の形、つくり方などが見えてきた。このように丁寧に、未来の本のかたちを考えていくと、不況に喘ぐ出版界の未来もなんだかとても明るいものに思われた。

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プロフィール

 

ちきりん

社会派ブロガー

関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。

シリーズ累計23万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』(ダイヤモンド社)『「自分メディア」はこう作る!』(文藝春秋)など著書多数。ツイッターのフォロワーは 20万人超え。ベストセラー著作も多数。

・Chikirinの日記
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/
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・ツイッター
@insideChikirin

ライタープロフィール

 

hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。

ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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