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グローバル時代における異文化対応力とは何か?

日本人が海外で働くことが当たり前になり、日系企業で海外に駐在するだけでなく、現地法人で働く層や、日本にいながら世界各国を相手にビジネスするシーンが増えている。また、訪日外国人観光客数が年間2000万人を超える過去最高のペースを記録する中、ビジネス現場に限らず日常生活においても外国人旅行客と接する機会も頻繁になってきている。

グローバルなコミュニケーション機会が加速度的に増えるこれからの時代に求められる力とは何なのだろうか?グロービス経営大学院で英語MBAや異文化マネジメントの講座を教える田岡恵氏と訪日観光サービス分野の研究専門にする文教大学教授髙井典子氏、両教授の対談を基にヒントを提示したい。

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左:文教大学教授髙井典子氏/右:グロービス経営大学院教授田岡恵氏

ビジネスにおける異文化対応力とは?(田岡恵グロービス経営大学院教授)

英語ができればグローバル企業から採用されるという時代は終わり、昨今は本質的な実力をつけることに向き合わざるを得なくなっている。田岡氏は、異文化対応力を磨く前に基本的な能力として持っていなければならないビジネススキルを次のように指摘する。

髙井典子教授(以下、髙井) グローバルなビジネスに必要なスキルとはどのようものだとお考えですか?

田岡恵教授(田岡) 同僚・取引先等ステークホルダーの異文化価値観への対応力は必要になってくるのですが、それ以前に土台として身に着けておくべきなのが、基本的な能力、すなわちビジネスそのものの高い理解力と説明力です。ビジネスディスカッションの現場においては、「なぜその判断を行ったのか」の理由や背景を正しく理解し、かつ論理建てて説明できなければ意見交換にさえなりませんが、日本人はこれらの力がやや弱いのです。

説明するという分野において「日本人の特徴」として言えることですが、日本は世界で最も会社内組織の階層が強固な文化です。そのため、ヒエラルキー(組織の権威構造)のなかで自分がどういう役割を担うべきかという意識があまりにも強く、個人としての主張を前面に押し出さない傾向にあります。

一方他国では「交渉や会議の場に出てきた人が会社を代表するリーダーだ」と思って捉えてくる。すると、仮に自分が意思決定者でないとしても、肩書を脱いで自分の主張をすることを意識するべきでしょう。こうしたことはMBAでの学習過程においても必ず求め得られる、基礎的かつ重要な視点だと思います。

また相手の反応を見て理解されていないと思えば、相手に質問をしてみるとか、誤解されているようならそれを解く、あるいはお互いの前提の違いを知ることが必要です。日本人は交渉事では合意に至ることを目的にしますが、たとえばアメリカ人は自分の意見を通すことがゴールだったりしますから、決裂も辞さない面があります。そういうことを感度高く質問することで、そのような裏に隠れているものを表に出していく力が必要です。

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グロービス経営大学院教授田岡恵氏

異文化対応力を構成する3要素とは何か

田岡 これら基礎的な能力を身に着けた後に求められるのが「異文化対応力」です。異文化対応力の土台となるのが、「Cultural Intelligence(文化的知性)」と言えるでしょう。この「Cultural Intelligence」は次の3つの要素に分類されます。すなわち、「knowledge(知識)」、「mindset(心構え)」、「skill(具体的な行動)」です。

「knowledge」においては正しい知識を持っているだけでなく、自分で「知らないことを理解している」ことが大切です。「mindset」においては、相手が言っていることをきちんと聞くことができ、反応することができること。「skill」においては、みんながきちんと意見なり、態度なりを表現する場をつくれる技術をもっていること。一言で言ってしまえば、「ビジネスシーンにおいて気がきく人」と言えるかもしれません。こうしたことが異文化の中で仕事をするときには重要なのです。

  

このknowledgeの部分を体系的なフレームとして理解するには、田岡氏が監訳した『異文化理解力』(エリン・メイヤー著英治出版)が非常に実用的で参考になる。ビジネス環境や仕組みを作り出すためのヒントとなる視点を「評価」や「リーダーシップ」といった、グローバルな職場環境において文化の違いが生まれやすい「8つのマネジメント領域」に沿って解説するなど、knowledge(知識)として理解する上での参考書となるはずだ。

『異文化理解力』は、「異文化間のコミュニケーションのコツ」や「多文化世界における説得の技術はどのように違うか」、あるいは「リーダーシップや階層がどのように構築されているか」など、相手の真意を理解し、自分の真意も伝えることができる、ビジネスパーソンに必須の教養が詰まった一冊だ。

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「mindset」や「skill」を高めるためにどのような準備・経験を積むべきか

田岡 では「mindset」や「skill」を高めるために個人として何ができるのかというと、ひとつは、自分と違うものを受け入れる素養を養うこと。それにはできだけ若いうちに(出来れば20代が理想)異文化に触れる経験をすることです。感受性が豊かな、自分ができあがってしまう前の段階で経験することで異文化に対する対応力がまるで違ってきます。

私が最初にイギリスに行ったのは27歳のときで、マネジメントではなく、下の立ち位置からのスタートでした。そのとき、自分が現地のイギリス人から「日本ってどうしてこうなの?」と尋ねられると、自国の文化に関心を持ってくれていると感じうれしく思っていたので、逆に自分も周りのイギリス人に「なぜイギリス人はこうなの?」と質問攻めにしていました。「あなたの文化を理解しようとしている」という姿勢は、相手に好感を抱かせ、受け入れてもらえるベースになると思います。

そして最終的には、『異文化理解力』にもあるように、「個人が切り出される」までその国の文化に入り込んでほしいですね。たとえば、一緒に学んだり、仕事をしたりすれば、ステレオタイプをいったん抱いて壊し、個人を知るまでのプロセスが経験できると思います。

たとえば、「イギリス人のジョンさん」との関係でいえば、最初は「イギリス人はこうなんだ」からしだいに「ジョンさんはこうなんだ」と考える。またもう一度、「イギリス人ってこういう共通点があるよね」との考えに至り、最終的には「文化は違うけど、こういうところは人間として共感できるよね」というところに行きつくのです。そうすれば、人と人という根源的なところで理解し合うことができます。

「個人として何ができるのか」についてのもうひとつの方法は、逆説的なようですが、「もっと日本文化を知る」ということだと思います。相手との相対感をきっちり出せるように、自分の文化はこういうことだといえること。自己を確立することが必要です。そうでないと、ビジネスにおける自分の意見というものも真実味を持って受け取ってもらえないからです。

若い人にはぜひ異文化に深く入り込める環境に飛び込んでほしいと伝えたいですね。

「◯◯人ってこうなんだ。わかったぞ」と思っても、次の瞬間ひっくりかえされる。知っても知っても、理解したつもりだっただけ、ということの繰り返し。文化とは重層的な存在であり、その奥底にある価値観や本質を理解することが「玉ねぎの薄皮を一枚ずつ剥いていく作業である」という表現には強く共感しますし、それこそ異文化体験の醍醐味だと思います。異文化体験は終わりのない学びの源泉であり、最高のエンターテイメントといえるでしょう。

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グロービス経営大学院教授田岡恵氏

2020年に向けて訪日外国人四千万人時代に我々が必要な異文化対応力とは?(髙井典子文教大学国際学部教授)

いま日本ではインバウンド(訪日外国人旅行)市場が急激に拡大している。「爆買い」の言葉で有名な旺盛な消費欲や、聖地巡礼と呼ばれる映画やアニメにゆかりの地を巡る消費行動で日本経済に好影響を及ぼしている一方、観光ビジネスの現場では課題が噴出し、受け入れるプレイヤー(地域住民・自治体・企業)がストレスを抱えつつあるのも事実だ。観光分野における異文化対応力として、今必要な心構えやスキルはどのようなものだろうか?

今がまさに大事な時期。インバウンド観光を通じて現場はどう変わるか?

田岡 インバウンド観光の現場では実際どのような問題が起きているのでしょうか?

髙井 いま観光の現場では主にふたつの異文化対応の課題が表面化してきています。ひとつは「観光事業者が外国人客の行動に戸惑い、共感・理解できないこと」もうひとつは、「リピーターでやってくる層のニーズに充分対応できていないこと」です。

前者の課題で分かりやすい例としては、魚市場で仲卸業者が、外国人客が直接手で魚を触ってしまうことに憤慨したり、例えば山梨県の忍野八海では外国人客が湧水池にコインを投げ入れ対応に苦慮するということなどが挙げられます。外国人旅行者が、日本の習慣やルールを理解せずにとってしまう行動に対して、困惑する場面は日本各地でおきつつある問題ではないでしょうか。

後者の課題は、リピーター層に対して、初めての訪日客に対する場合と同じ対応をしてしまっていることです。そのために彼らの満足を得られず、結果、観光事業者が困惑しているということが挙げられます。初めてその地を訪れる客に対しては、相手の要望に合わせようとするおもてなしのサービス精神は心地よく、満足感の高い体験なのですが、何度も訪れているリピーターにとってはそれだけでは満足もしなければ、ましてや感動は生まれません。旅慣れている人は、現地の生の価値観に触れることを旅行の楽しみと思っていますから、むしろ「ありのままの日常に触れたい・体験したい」と思っているのですが、このニーズに地元が対応できていないのです。

これら2つの課題に共通する理由は、その観光地地域のプレイヤーの心理状態が「単にお客様がたくさん来てくれてうれしい」という初期段階を超えて第二段階(ストレス発生状態)に差し掛かっているために生まれていると、私は見ています。

急激に異文化が入ってきたときにおける現地の人々の態度変容には、いくつかの段階があります。観光の分野においては、相手に侵略の意図がないというのがわかっているので、第一段階は大喜びから始まります。それが、旅行客が自分たちの生活を乱したり、あるいはコミュニティの中に得をする人と損をする人が生まれる第二段階に差し掛かると、関わる人達の内面にはイライラやストレスが生じます。

この先の第三段階として起きうるBADシナリオとしては、やがて観光客を単なる「お金を落とす人」としてだけ見るようになり自分たちの生活圏と分離しようとするケースです。そして最終的に無関心に至るというストーリがあることが観光分野の研究で分かっています。

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文教大学教授髙井典子氏

観光業において必要な異文化対応力とは何なのか?

髙井 この「ストレス発生状態」の段階から、「無関心の第三段階以降」シナリオに向かわないようにするためには、外国人観光客と日本の観光事業者が、「相互共感できる関わり方」を作る必要があります。つまり、相手の文化習慣を理解し、自分たちの文化も客観的に捉え、相対化=違いを理解することで、両者が共感できる接し方・関わり方を見つけていくことです。

前述した魚市場の件であれば「魚を触らないでください」と言えばいいのです。「なぜなら……」と説明するその理由の中には、彼らの文化にはない考え方、伝統があるはずです。それをうまく伝えることができれば、注意を受けたとしても「そうか、日本ではそういう考え方があるのか、おもしろいな」という具合に外国人客の共感を得られるはずです。

同時に、相手にだけ要求するのではなく、時には自ら痛みを伴う変化を受容しなければいけないこともあるでしょう。

たとえば、石見銀山では世界遺産に登録されたときに、急激に大量の観光客が押し寄せ、地元住民の生活がおびやかされるようになりました。そこで地元住民は路線バスを廃止することを決断しました。自分たちも不便を我慢するから、観光客にもバスではなく、歩いて見てほしいという思いがあったからです。そのかわりベロタクシーなどの代替の乗り物を用意し、高齢者にはそうしたものを利用してもらうようにしています。

地域のキャパシティを超えて観光客が訪れると、自然が壊されたり、渋滞が発生したりして現地住民の生活に悪影響が及びます。それがどれくらいの規模なのかを見定め、現地の住民と観光客が「ひと」対「ひと」として接することのできる交流の仕方を工夫することが必要です。

「自分たちの地域はこういうところだから、こういう形の観光をやっていきたいんだ」と住民が主張し、主導権を持って観光事業者と一緒に対応を考えていく必要があります。こうした対応ができるようになっていけば、「ありのままを見せる」こともできるようになっていくはずで、さらに共感・共有の場面を生み出すことができます。

髙井氏の著書『訪日観光の教科書』(赤堀 浩一郎との共著創成社)は、成長戦略としての訪日観光(インバウンド)を読み解く初の体系的入門書。また、訪日観光の盛り上がりの理由、観光する外国人が何を求め、どのような消費や体験をしているのか?よりよい訪日観光の為には何が出来るのか?等のテーマについて、星野リゾート、ANA、ニセコ地区など約20の先進事例も紹介している。インバウンドに関心があるビジネスパーソンならばぜひ押さえておきたい。

訪日観光の教科書

インバウンドは個人が異文化対応力を高める大きなチャンスである

田岡 インバウンド観光に関わる方へのメッセージをぜひお聞かせください。

髙井 観光業の将来についていえば、これまでは旅館だと大手の旅行会社が間に入り事前コミュニケーションを行ってくれ、販売してもらい、自らは日本人のお客様を現場でおもてなしすればいいという環境でずっとやってきました。しかし、リピーターが増えれば旅行会社を通さない個人旅行者が増えるので、そのマインドを変えて、海外のお客さんとも個人としてやり取りできるようになっていく必要があるでしょう。日本の観光事業者は真面目ですから、始めてしまえばノウハウは得られるはずだし、スキルもやっていけば身につくはずです。

理想は、田岡先生の本の中にあるように「パーソナリティが切り出される」ところまで外国人客と付き合えるようになることだと思います。ざっくりとした「〇〇国の人」の中に隠されている個人を切り出す努力をしないといけない。外国人と接するとき、ついついステレオタイプを持ち込みがちですが、皮膚感覚で共有できる場面をつくることが観光業でも大事だと思っています。

そのためには通り一遍の観光地めぐりではなく、旅行者を迎える地域の個人が垣間見えるようなシーンを観光の中でいかにつくっていくかが今後の課題です。

やはり私たちは「他者とは相当の努力なしにはわかりあえない」のだという点を出発点にする必要があるでしょう。そのうえで、コミュニケーションの受け手と送り手のもつ文化的枠組みを互いに理解するための工夫が求められているのです。その時のために、私は教える学生にはできる限りひとりで旅行をしてほしいと強く訴えています。活躍するビジネスパーソンの皆さんも、ぜひ海外旅行やインバウンド観光の機会を活かして「異文化対応力」を高めていただくと良いと私は考えています。

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文教大学教授髙井典子氏

プロフィール

 

田岡恵

グロービス経営大学院教授
グロービス経営大学院経営研究科教授、同大学院英語MBAプログラム研究科長室ディレクター。慶應義塾大学文学部卒業、筑波大学大学院国際経営修士(MBA in International Business)。海外での企業会計プロフェッショナル職を経て、現職。グロービス経営大学院では、会計および異文化マネジメント関連の講義を担当。共著に『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』

プロフィール

 

髙井典子

文教大学教授
文教大学国際学部および国際学研究科教授、専門は観光行動論。同志社大学法学部卒業後、三井物産株式会社勤務、部門を横断する新規事業開発部署で川下ビジネスを担当後、1993年渡英し、英国の大学院で国際観光を学ぶ。サリー大学(University of Surrey)修士(MSc)、レディング大学(University of Reading) 博士(Ph.D.)。東京都観光事業審議会委員、日本観光研究学会理事。著書『訪日観光の教科書』(赤堀浩一郎氏との共著)は観光学術学会・教育啓蒙著作賞を受賞

ライタープロフィール

 

hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。

ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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