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なぜ、「負けて当たり前」のラグビー日本代表が「勝てる」チームになったのか?

2015年9月19日。スポーツ史上最大の番狂わせが起こりました。そう、ラグビーW杯のラグビー日本代表が南アフリカ代表に勝った試合のことです。往年のラグビーファンは涙し、ラグビーがどんなスポーツかわからない人さえも、興奮した勝利だったのではないでしょうか。

それまでの日本代表は20年間のW杯でわずか1勝のチームでした。一方、南アフリカ代表といえば、W杯で2回も優勝をしている強豪国です。そんな南アフリカ戦の勝利を含め、W杯で3勝を挙げた日本代表。いったいなぜ、負けて当たり前だった日本代表は、W杯で3勝もするチームに変貌をとげられたのでしょうか?

奇跡と呼ばれた勝利の裏側には、何があったのか。当時の日本代表ヘッドコーチ・エディジョーンズの記した本『ハードワーク』から、そのエッセンスを抽出し、2回に分けて記したいと思います。奇跡の勝利を描き切った本人、エディの語るリーダーシップとは、どのようなものなのでしょうか。

勝てるチームの作り方

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日本人らしさをあえて武器にする「ジャパンウェイ」とは

エディは、日本人とオーストラリア人のハーフです。しかし、日本に初めて来たのは、30代になってから。つまり、日本で育ったわけではありません。しかし、エディは、最も日本人をよく知っている一人だと言えるでしょう。彼は、日本人を芯の芯まで理解しようとしたのです。

出る杭は打たれることを気にし、普通でいることに一生懸命な日本人たちを見て、初来日の時に、エディは失望しました。戦後復興から目覚ましい経済発展を遂げた力を持っているものの、今や停滞している日本。その経済状況に重ね合わせ、日本ラグビーも本当の力を出せないまま弱さに甘んじてしまっていると、エディは分析しました。そこで、エディはこう考えます。

「選手たちの中に眠った、日本人本来の力を、どのようにすれば目覚めさせられるか? 慢性的な弱さから抜け出し、大きな勝利に向かって邁進するには、何をすればいいか?」

(『ハードワーク』より引用)

その考えから見出されたチーム方針が「ジャパンウェイ」です。簡潔に言うと、ジャパンウェイとは、日本人らしさを活かすということ。世界と同じようなことをしていても、体格に劣る日本は勝つことができません。けれど、強みを生かせばチャンスがあるはずエディが目をつけた日本人らしさとは、勤勉さ、責任感、体格の小ささでした。

まず、日本人本来の力の代表格は、勤勉さです。エディは選手たちのトレーニングを、早朝を含め一日3回、時間を区切って行うよう変えました。外国人にはない忍耐力を持ち、あきらめない姿勢からくる勤勉さを、エディは見逃さなかったのです。さらに、トレーニングに対する意識をも、エディは変えていきます。

単に、「トレーニングを頑張る!」では従来の日本代表のまま。根性論を実践したいのではなく、エディは、トレーニングの効果を高めることを考えていたのです。そこでまずエディは、トレーニングのためのトレーニングには、意味がないことを、選手たちに伝えます。

日本人は勤勉さゆえに与えられたものをこなす能力はある。けれども、なぜこなすのかを日本人は意識していないとエディは見抜きます。つまり、目標を設定していなかったり、共有していないがために、トレーニング自体が与えられたものをこなすだけの集団に、日本代表でさえはなっていたのです。そして、そのようなこなすだけのトレーニングでは、効果が半減してしまうのです。

そこで、次にエディはトレーニングに意味を持たせることに徹します。つまり、トレーニングは勝つために、自分自身を変える目的のためにやるのだということを、共有させたのです。そのことにより、受動的な勤勉さではなく、能動的な勤勉さが開花します。この能動的な勤勉さこそが「眠っていた」日本人本来の力の勤勉さであることに、エディは気づいていたのです。エディの働きかけにより、選手たち自らの意識は次第に変わっていきます。

まだ、これだけでは大きな勝利を掴むことは、できません。

個人単位での意識を変えることができても、チームとして意識が変わらなければ勝つことはできません。そこで、エディは、選手個人個人が、チームのための責任感を持つことを求めました。そのために、障害となっていた年功序列の精神をなによりも断ち切ることに腐心します。グラウンドの外で年長者を立てることは大切ですが、グラウンドの中では害でしかありません。エディはその精神を一掃するために、少しでも集中力が切れた選手が見受けられたら、年長者であろうが練習から外して練習を取りやめたり、外国人にも時間厳守のルールを日本人と同じように適用したりしました。

例外を作らずに公平に選手たちを扱うことで、練習には緊張感が増し、「練習は勝つためにしている」という目的を共有するだけではなく、チームのための責任感が生まれました。こうして、日本人本来の力を引き出し、大きな勝利へと向かう筋道ができていくのです。

あとは、慢性的な弱さからどう抜け出すかが課題でした。

日本人には、体格が小さいという短所があり、選手たちも体格が劣っているから弱いのだと思い込んでいました。しかし、そんな短所だと思われていた体格の小ささを、エディは弱点と決めつけず「一つの条件」と捉え、長所として活かしていきます

体格が小さいことの長所は、大柄な選手よりも機敏に動けること。そして、身長が高い選手に比べて低い姿勢を取りやすいことです。ラグビーの試合の後半残り20分の場面を思い浮かべてみてください。60分間ずっと走り回りぶつかり合っていたら、いくら体格が大きくても、もう体は限界です。その状況でまったく走るスピードが落ちなかったり、低い姿勢でタックルをされたらたまったものではありませんよね。これが、体格の小ささを長所とした戦術です。

ただ、戦術が夢物語では、弱さから抜け出せません。夢を現実にするために、徹底した勝つための目的意識とチームのための責任感をとことん植え付け、そしてその意識のもとでの、あの、一日3回時間を区切ったトレーニングがあったのです。

こうして、日本人本来の力である能動的な勤勉さが目を覚まし、W杯南アフリカ戦においては、後半最後までスピードを保ち、粘り強い低いタックルを続け、大きな勝利を掴むことができたのです。

この章では、ラグビー中心の視点から『ハードワーク』のエッセンスを記してきましたが、次の章では、少しビジネス的な観点から記してみることにします。

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理想的な上司とは?

エディは、ミスをすることは悪いことではなく、ミスをしたあとが大事だと考えています。なぜなら、ラグビーでは試合中にミスをしても、試合は続くから。そしてそれは、仕事も同じです。社員は、ミスにビクビクしていても、仕事は進みませんし終わりません。では、ミスをしたらそのあとはどうすればよいのでしょうか。

まず、チャレンジして起きた部下のミスは、上司が責任をとってやるということが大切です。そうでなくては、部下はミスを恐れてチャレンジすることができません。上司が責任を持つだけで、部下にも部署全体にも責任感が生まれます。そして部下が失敗してときに、上司はたとえば次のように、部下を一杯飲みに連れていってはどうでしょう。実はこの発言の中には、エディが重視することが詰まっているのです。

「よく挑戦したな。偉いぞ。次また頑張ろうな。で、そのためにはな、ここをこうするとよくなるんじゃないかというのがいくつかあってだな」

(『ハードワーク』より引用)

エディが重視する1つ目は、「飲ミュニケーション」。大勢の前で公に怒るよりも、マンツーマンによるプライベートな場で指摘するほうが、周りを気にする日本人にとってはよい、とエディは考えているからです。もちろん、ここではお酒が重要だという訳ではないのでお酒が嫌いな人においては、喫茶店などが十分代わるになるはずだといえます。

2つ目は、発言の最後の「いくつかあってだな」というように、「選択肢をいくつか与えること」。さらには、上司が上から命令するのではなく、部下に自分の力で決断を考える機会を与えてあげることが、大事なのだとエディは説きます。いま何が悪いのかわからずに指摘されるよりも、自分の問題点を自分で考えて行動できる人のほうがはるかに良いですよね。言われたことをこなすのではなく、なぜ自分はいまそれをやっているのかを考えさせることで、部下にも自然と、目標や目的を自主的に考える力がつくようになるのです。

3つ目は、「きちんと褒めること」。日本人の指導者たちは、怒鳴ることはあっても、褒めることは少ないものです。エディはそれを懸念していて、どうせ勝てるわけがないというネガティブな意識の塊を払拭することが大切であり、そのために上司は良いことをした部下に対してはきちんと褒めていくことが大事だと述べています。体が小さいことを怒られるよりも、体が小さいこと活かした長所を褒められた結果、ある集団はどうなったでしょうか。

もちろんこの3つ以外の要素もあります。けれどこうして、理想的な上司と部下の関係を築き上げた結果として、日本代表は南アフリカ戦に勝つことができました。実は試合最後の逆転の場面。エディは「同点でいい」という指示を出していました。しかし選手たちは、自分たちで状況を判断し、「リスクを冒してでも逆転を狙う」という選択肢を取ります。

あの、弱くて負けて当たり前だった選手たちが、主体的に自分たちで勝利を掴みに行ったのです。部下が上司を超えた瞬間、エディの革命は見事に成功したのでした。

この記事の最後に、エディが一番大切にしている考え方を紹介して、終わります。

「コントロールできることだけを考える。コントロールできないことは、放っておく」

(『ハードワーク』より引用)

この考え方です。うまくいくのかなあという心配事や、どうしようもない体格の差のような欠点や短所は、放っておく。気にしたからと言って、勝てるわけではないからです。その代わり、コントロールできる目標や計画はしっかり考え、体格の差を補うために、下半身を鍛えたり、足を速くするといった、トレーニングはとことんやる。それがエディの信条であり、ハードワークです。

エディは、まったく勝ち目がないと言われていた集団を、W杯で3勝するチームにまで押し上げました。これは冒頭に述べたような「奇跡」では、もうありません。エディは、根本的に選手たちの意識を改革し、理想的な監督と選手たちの関係を保ち、最後はエディ自身を選手たちが超えるという道をしっかりと作ったから、勝てたのです。

目の前の部下に対してなにをやってもだめだと決めつけていませんか。短所ばかり怒っていませんか。部下に目的意識を持たせ、次に短所や弱点を条件としてどう活かし、無駄のないハードワークをさせ、遠慮なくチャレンジさせる。最後に失敗したとしても急に怒らず、改善点を教えずに考えさせてあげられる。そんな上司がいるところには、きっとラグビー日本代表のような勝利が待っているはずです。

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ライタープロフィール

 

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ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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