本当のお金持ちによる資産運用の姿と、人工知能による金融支配
丸善とジュンク堂は、ビジネスパーソンや各界の専門家を主な利用者とする大手書店グループです。その購買データを分析すれば、ビジネスパーソンにとって「いま注目の本」が見つかるのではないか、というこの連載。今回は、8月の「経済・金融」分野に絞り、売れ筋のランキングとトレンドを読み解いてみました。
「経済・金融」分野において、8月は新刊が5冊ランクインしています。また、先月2~4位だった3冊が順当にランクアップしたのも特徴。今回は1位の『プライベートバンカーカネ守りと新富裕層』、そして新刊で最もランキングが高かった『人工知能が金融を支配する日』の2冊に注目しました。
丸善・ジュンク堂「経済・金融」書籍2016年8月ランキング
(2016年7月26日~2016年8月25日までのデータ、経済分野に金融分野を追加)
元新聞記者の作家が描くノンフィクションが1位に!
先月の3位から順位を上げ、今月堂々の1位に輝いた『プライベートバンカーカネ守りと新富裕層』。この本は、週刊現代において2014年に連載された「国税は見ていた 第1部」をもとに、新たな取材を加えて再編集したものです。
著者はノンフィクション作家の清武英利氏。立命館大学経済学部卒業後、75年に読売新聞に入社し、新聞記者として警視庁・国税庁などを担当していた人物です。その後、中部支社の社会部長、東京本社の編集委員を経て、編集局運動部長に就任。一方その後、読売巨人軍の編成本部長に抜擢され、オーナー代行という立場まで任されます。記者として、またそれをまとめる編集委員として、現場に深く関わってきた経験から描かれる本はどれも濃密なもの。その内容は高く評価されており、2014年には、記者時代から追いかけ続けた山一證券をテーマとした『しんがり ― 山一證券 最後の12人』で講談社ノンフィクション賞を受賞しています。
タックスヘイブンを通して見る本物のお金持ちの世界とは
その清武英利氏が今回執筆したテーマは、タックスヘイブン。「パナマ文書」で突如有名になった言葉として、新たに知った人も多いのではないでしょうか。
本書は、タックスヘイブンの地として有名なシンガポールの銀行を舞台に、元野村證券のプライベートバンカー・杉山智一氏の活躍を描いたノンフィクションです。プライベートバンキングとは、スイスをはじめとしたヨーロッパで生まれた銀行経営の一形態。富裕層の資産管理がおもな仕事ですが、資産の保全・管理だけでなく運用まで任されるために、特に最近は、税率の低い地域・タックスヘイブンに資産を移すことが重要な任務になっています。
本書は、ノンフィクション小説というよりも、関係者からの話をいくつかまとめたドキュメンタリーのような構成になっています。事実は小説よりも奇なり、というように、作られたドラマ性がなくても充分にドキドキしてしまいます。
お金持ちはさらにお金を生む。私たちの身近にはないけれど、この世に確実に存在しているというその姿の一端をつかみたい人に最適な一冊といえるでしょう。
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世界の投資家・富裕層が人工知能に注目している!?
次に注目したのは、初登場で4位にランクインした『人工知能が金融を支配する日』です。東京駅丸の内北口の丸善ほか、経済系の書籍に強い書店で平積みされていることもあってか、売り上げを伸ばしているようです。
著者の櫻井豊氏は、旧東京銀行でトレーディングや資産運用に関わってきた人。現在はリサーチアンドプライシングテクノロジー株式会社という金融シンクタンクの取締役として、コンサルティングや市場動向の分析などに携わっています。近年話題のフィンテックやマイナス金利時代の評価まで幅広く研究している人物でもあります。
前作の『数理ファイナンスの歴史』は、555P、5500円もの分厚い本ながら、読みやすさと適切な解説で高い評価を得ました。そんな櫻井氏は、最近IBMやGoogleで人工知能を研究している人材が次々とヘッジファンドに引き抜かれていると指摘しています。その理由は何なのでしょうか。
人工知能の開発が進んだら、銀行マンがいなくなる?!
ヘッジファンドとは、投資家や富裕層から集めた資金をさまざまな手法で運用するファンドのひとつ。好況・不況に関わらず、常に投機的なスタイルで利益だけを追求する姿勢から、ハイリスク・ハイリターンな方法を選びがちだといわれています。リーマンショックの原因となったサブプライム問題や、2013年ごろから話題になった仮想通貨ビットコインにもヘッジファンドは絡んでいるため、その動向に注目している人は多くいるのです。
一般にはあまり知られていないヘッジファンドですが、本書によると、そんな彼らが次に目をつけたのが人工知能とのこと。人工知能の研究者を囲い込むと同時に、人工知能を実践的に活用するための投資もブームになっているのだそうです。
たとえばアメリカでは、人工知能をベースにした「ロボット投資アドバイザー」が急速に普及しはじめたと著者は主張します。この開発が進めば、ロボットに押され、やがて銀行員や証券マンなどのマンパワーが必要なくなっていくのかもしれません。
このような、人工知能と投資を結びつけるという新しい視点から、論理を展開している本書。先月売り上げを伸ばしたフィンテック関連書籍から、さらに一歩先の知識を得たいを考えている人を中心に注目を集めていると考えられます。
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ライタープロフィール
hontoビジネス書分析チーム
本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。
ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。
丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。