東京大学初!推薦入試合格者の素顔とは
国内の大学で最高峰である東京大学の「今」を伝える本が毎年出ているのをご存知でしょうか?作っているのは「東京大学新聞社」に所属する現役東大生たち。8月に出版された『東大2017』は、「この1冊で東大がわかる!」と謳い、受験必勝法から合格体験記、入学後の 生活のアドバイス、専門学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで、徹底的に解説しています。
発行から32年目を迎えた今年のコンセプトは「とんがる東大」。本連載では『東大2017』の一部をご紹介することで、「とんがる東大」の今をお伝えします。
3回目は、2016年春に”第一期生”が入学した、東京大学の推薦入試合格者の素顔。合格者はどんな人なのか、何が評価されて合格したのかについて迫りました。
近藤 生也(こんどう なるや)さん 理Ⅰ・1年(後期課程では工学部へ進学)
人と共生するロボットを探求
推薦入試で工学部に合格した近藤生也さんが高校時代に取り組んだのは、パズルを解いて敵を倒していくスマートフォン向けゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」を自動で解くロボットの開発だ。きっかけは高1の時に参加した「広島県科学セミナー」。出品作品として人間のようなロボットを作ろうと思い、製作を決めた。
「僕はソフトとハード両方の開発を行い、さらにソフトには人間らしい考え方を導入しました」。高1の夏から1年近くかけて製作し、高2の9月には中高生向け科学論文コンクールの「日本学生科学賞」で入選1位に輝いた。
推薦入試の受験を考えたのは高1の夏ごろ。当初は京都大学にも憧れたが、興味と合致する研究室が東大にしかないため、東大を選択。「ロボット製作へ専念するために受験勉強の負担が少ない推薦で受験しました」。
行きたい研究室が決まっており、面接でも「なぜ東大を志望したのか」という質問に、具体的な東大の研究やロボットを挙げて理由を述べた。パズドラの研究の解説を求められた際は、図解しながら有用性を説明したという。
授業のレベルの高さや、進度の速さには苦労している。「推薦生だからといって手加減はありませんね(笑)」。それでも行動生態学や情報認知科学の授業を履修して、人工知能に生かすべく生物の行動を学んでいる。数々のロボコンに入賞しているRoboTechにも入り、ロボット作りを探求。「将来は人と共生するロボットを作りたいです」。近藤さんのロボット道はまだ始まったばかりだ。
東大 2017 特集とんがる東大
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税込1,650円(15pt) 発送可能日:1~3日
- 東京大学新聞社 (企画・編集)
- 出版社:東京大学新聞社
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取材・撮影 関根隆朗
高校時代から理論言語学を勉強
中村 一創(なかむら いっそう)さん 文Ⅲ・1年(後期課程では文学部へ進学)
高校時代から言語の構造を研究する理論言語学を勉強している。特に興味があるのは「人間は生まれつき脳の中に各個別文法に共通な初期状態『普遍文法』を持つ」と考える、生成文法という分野だ。「赤ちゃんが母語を誰かに教わらずに少しの刺激で習得する過程は、生得的な言語知識を持っていると考えれば説明できます」
言語学に魅せられたきっかけは中学時代の英語学習。学校の文法書には非効率的な説明が多いと感じ、英語の効率的な記述方法を探るうちに言語の仕組みに興味を持った。高校で興味の対象は理論言語学へ。「英語の母語話者が実際にどんな文法知識を持っているのか気になりました」。東大の生成文法の研究者の論文にも刺激を受けたという。
推薦入試の受験を決めたのは「学問への熱意が強い自分にぴったりだと思ったからです」。高校時代は本や論文での独学に加え、当時の東大の院生に理論言語学を個人的に教わった。「まだ学部生のレベルにすら達していませんが、高校生では僕より理論言語学を知っている人はいないと思いました」。推薦入試で受かる自信があったため、前期日程試験はどの大学にも出願しなかったという。
現在は前期教養課程でテクスト論や数学の授業などを楽しんでいる。研究者を志すが「分野はまだ決まっていません」。学んできた理論言語学は選択肢の一つ。時間をかけて進路を一つに絞れる東大の制度を生かし「文学部に進むまでの2年間で『これぞ』と思える分野を見つけたいですね」。学問への熱意の先には、無限の可能性が広がる。
東大 2017 特集とんがる東大
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税込1,650円(15pt) 発送可能日:1~3日
- 東京大学新聞社 (企画・編集)
- 出版社:東京大学新聞社
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取材・撮影 矢野祐佳
東大の推薦入試の抱える課題
東大本部の公表資料によると、東大で初の実施となった2016年度推薦入試の合格者は全体で77人。推薦入試では約100人を募集していたが、合格者数は募集人員の約8割にとどまったようである。[1]
学部・学科別にみると、法学部・理学部以外は合格者数が募集人員に届かず、そもそも出願者数が募集人員を下まわった学部・学科もある。出願者の母数を増やすことが、今後の課題のひとつであるようだ。[2]
東大教授や教育改革実践家の一部は、詰め込み型の教育ではなく生徒が主体的に学ぶ教育形態(アクティブ・ラーニング)の必要性から、推薦入試の重要性を訴えている。しかし推薦入試には、客観性を保てるのか、どのような基準で選考を行うのか、大学教員が正しく受験生を評価できるのかといった疑問もある。[3]
加えて、推薦入試を行うだけでなく、受け入れた後の学びの場をどのように提供するかも問題だ。東京大学新聞社が新入生全員を対象に行っている全数調査によると、「前期試験合格者における推薦入試への賛否」は賛成が53%、反対が47%と拮抗する結果だった。同級生の47%が反対と唱える推薦入試での合格者は、どのような学生生活を送るのだろうか。[4]
[1] 東大初の推薦入試、77人が合格
[2] 【続報】東大初の推薦入試 記者会見で「手応え感じた」
[3] 東大はなぜ推薦入試を増やすべきなのか。東大教授や教育改革実践家らが激論
[4] アンケートは、新入生3146人の95%に当たる2995人が回答
ライタープロフィール
東京大学新聞社
東京大学の学生新聞である東京大学新聞を発行する公益財団法人。東京大学新聞の発行や東大新聞オンラインの運営を主に行う。また、東大を目指す受験生や東大生向けに、独自のムック本『東大20XX』を毎年発行している。 2016年8月に発売の『東大2017』のコンセプトは、「とんがる東大」。梶田隆章教授(宇宙線研究所所長)がノーベル賞を受賞して改めて注目された東大で行われる最先端の研究や、高校までの業績が評価され推薦入試で入学した東大生の素顔など、東大のとんがった部分を紹介している。 東大新聞オンライン http://www.todaishimbun.org/ 『東大2017』 http://amzn.to/2bubB4e