大槻ケンヂの「本当にやりたいこと」に中川翔子が迫る

第4回は、来年デビュー30周年を迎える筋肉少女帯の大槻ケンヂさんとともにお届け。対談後編は、80年代の話からスタート。

中川翔子（以下、中川）80年代はどんな時代だったんですか？

大槻ケンヂ（以下、大槻）マンガでいうと、あだち充先生の『タッチ』や柳沢きみお先生の『翔んだカップル』が連載されていた頃。硬派だった少年マンガがヤワくなって、「少女マンガ化」したというか。『翔んだカップル』は、高校生の男の子と女の子が手違いで同居することになるっていう話で、今の「シェアハウスもの」の元祖と言えますよね。これ僕ねえ、ちょうど思春期だったからもうトキメいちゃって

中川わあ……！　『週刊少年ジャンプ』って、今は「友情、努力、勝利」というキーワードですよね。私は90年代以降の読者なので、遡って読んだのも80年代までの作品なんです。例えば『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』、『オレンジロード』みたいな、明るくてワクワクドキドキするような作品が多くて。80年代に思春期を送ってトキメイテいた人たちに、私は一番憧れますね。

大槻確かにウォークマンが登場したり、江口寿史さんや大友克洋さんのようなマンガが出てきたり、音楽もテクノやニューウェーブが流行ったりして。楽しかったけど、「軽薄短小の時代」とも言われてましたよね。社会はバブルに突入し、同世代の女の子たちはみんないい思いしてた。『気まぐれコンセプト』っていう、今も続くホイチョイ・プロダクションズ制作の四コママンガがあるんですが、広告代理店の話とか業界あるあるをテーマにしていて。僕らは当時、貧乏バンドマンだったから、「へえ、こんな世界があるんだ」って他人事みたいに読んでました。

中川弘兼憲史先生の『課長島耕作』も、当時はおかしかったですもんね。バンバン不倫して、海外に出張して、お金使って金髪の女を抱いて……って話ばっかり（笑）。当時は、そんな時代がずっと続くとみんな思ってたんですか？

大槻思ってた人も多かったんじゃないかな。だから、バブルが弾けて大破産しちゃった人もたくさんいたし、未だにバブルの恩恵が忘れられない人たちもいますよね。今頃どうしているんだろう、バブル姉さんたち……（笑）。

中川でも、そのバブルのおかげで、後のヘンな世界が生まれたというか。当時、大量に建てられたリゾートホテルやテーマパークが94年くらいに全部潰れて、それが熟成して20年くらい経って、素敵な廃墟たちになっているじゃないですか。いわゆる「廃墟美」というのに当てはまる建物跡が、たくさんある。あと10年も経つと古くなり過ぎたり老朽化が進み過ぎたりしちゃうから、ちょうど今がいい塩梅なんですよね。

大槻そうか。あ、『課長島耕作』といえば、弘兼先生の『人間交差点』というマンガがやはり80年代にあって。当時僕はバブルの恩恵もないからずっと家に引きこもってて、近くの銭湯にジュースを買いに行くか、深夜にコンビニへ行って『人間交差点』を立ち読みする以外、外出しない日々を送ってました。

中川無気力感がすごい（笑）。しかし『人間交差点』ってヘヴィな話ですよね。隠し子として生まれて、母が殺されてとかそんな話だったような……。そういえば80年代のマンガにも、衝撃的なラストが多いです。橋口たかし先生の『焼きたて!!ジャぱん』というマンガもアニメになって、コンビニとコラボしたりして結構人気だったのに、最終回がものすごく意味不明な。なんか、インド人が「なんやて？」って叫ぶコマで終わるっていう。

大槻（笑）そういえば『マカロニほうれん荘』も奇妙な終わり方だったな。すごく面白かったんですが、ちょっと作者の鴨川つばめ先生が追い込まれちゃったみたいで、連載が進むにつれ絵がどんどん奇妙な感じになって、急に連載終了しちゃった。僕らの世代にとって、鴨川先生はそういう意味合いで有名。江口寿史先生も一度ね、『ストップ!! ひばりくん!』という大人気マンガが、途中からペン入れしないまま掲載されたりして。「……これ、いいの？」って読者全員が思った。最近は連載マンガもやらなくなりましたけど、それで心のバランスを保ったんじゃないでしょうか。そんな感じで、鴨川先生と江口先生に対しては、なんとも言えないモヤモヤ感があるんですよね。

中川70年代のマンガの物語的なバッドエンドと違い、80年代のマンガのバッドエンドは作家の個人的な闇に起因していることが多い気がします。芸能界もそうですが、いっときドーンと売れても、ずっと食べていくというのはとっても大変で。

大槻ホントそうだね。

中川今『バクマン』を読み直しているんですけど、マンガ家の先生たちは、掲載されるのも大変、連載を勝ち取るのも大変、連載を続けるのも大変、アニメになっても打ち切られるかもしれない。一回連載でアニメになっても次の作品がうまくいかないこともあるし、次がダメだとなかなか掲載のチャンスすらもらえなくなるという。「どうやって食べていけばいいのか？」は、みんなシビアな問題として捉えていて。こんな日本の素晴らしい文化が、そんなに厳しい世界なのかとすごくショックを受けてしまったんです。それだけの運とスキルを持ってしても、継続というのはミラクルなんだなと。そんな中、一つ「これだ！」というスタイルを見つけたら、ずっとそれを繰り返すのがいいのか、新しいことにどんどんチャレンジするのがいいのか。どうなんだろうって。

大槻フラワーカンパニーズというバンドのメンバーが言ってたんだけど、若い頃はとにかく音楽性の変化を求められる。でも10年、15年とやっていくと、むしろ同じような内容の曲をどんどん作って欲しいとリスナーは思うようになるわけですね。安心したいわけです。自分にとって、その音楽が流れている風景こそが心地よく、それが変わってしまうのが嫌なんだなと。うちら筋肉少女帯もそうですが、長年やっているバンドって、「これ、前に作ったのと同じじゃね？」ってことはよくあるんです（笑）。でも、そうであってほしいとファンが望むことでもあるのかなと。

来年で筋少は30年。爆笑問題や鈴木みのる選手と同期！

中川今度、筋肉少女帯は20年ぶりの完全オリジナル・アルバム『Future!』をリリースするんですよね？　どんなアルバムなんですか？

大槻マンガ家さんっぽく言うと（笑）、特に自分はこのジャンルを描こうとは思わなかったんだけど、編集さんやアシスタントさんとのお付き合いとか色々ある中で、気づいたらこういうマンガで30年やってきた、と。でも本当に自分のやりたいマンガってなんなんだろう？っていうのを未だに考えてる。それが僕にとっての筋肉少女帯なんです。30年間、こういうのをやってきたけど、「もしかしたら俺がやりたい音楽は、他のところにあるのかもしれない！」とも思うから、今回はメンバーに、「いつもと違うタイプの曲を書いて」って割と言いましたね。

中川え、筋少ってもう30年もやっているんですか？

大槻そうなんです。来年でデビュー30年。爆笑問題や鈴木みのる選手と同期！

中川（笑）30年続けて、なおかつ特撮とかソロをやったり、小説を書いたりとか色々あった中で、でも筋肉少女帯に帰った時、メンバーに「違うタイプの曲を書いて」と言いつつ全体的にはどうですか。変わりましたか？

大槻さっきのフラカンの話じゃないけど、リスナーやオーディエンスやスポンサーが、「今までの筋少をやってくれ」って言うのもあるので、そう言う部分をあえて残したりもしましたね。クライアントによっては、「イントロは筋少のあの曲で、Aメロは筋少のこの曲で～」みたいに発注される方もいるので。

中川そうか。若い頃に聞いていた世代がオファーする立場になって。好きなものってブレないんですね。

大槻そうだね。僕も子供の頃の憧れだったマンガ家さんにサインもらう時はつい、「あの頃描いていたあの感じで」ってお願いしちゃうもんね。この間、永井豪先生にサインしていただいて。僕、先生の『空想科学任侠伝 極道忍者ドス竜』というVシネで、忍者の役をやらせてもらったことがあるんですよ。なので先生にサインしてもらう時、その忍者の絵を描いてほしいと頼んだら、「……覚えていないんだ」って言われちゃった。

中川その話でいうと、私ずっと「芸能人」と「一般人」との境目が曖昧のままというか。中野在住の、ただのオタクの一市民ですという感覚がすごくあったんです。それでも最近は、すごく巨乳の女子大生とかから、「小学生の頃から好きでした！」って言われるような芸歴になってしまって。

大槻ちょっと待って、その「巨乳」の部分は必要な情報ですか？

中川（笑）で、どうお返ししたらいいのか混乱しちゃうんです。なんか、「そんな！私なんて」ってつい言ってしまうんですけど、いつかちゃんと受け止めて「ありがとう」って言わなきゃと思うんですよね。

大槻しょこたんくらいになると、「あなたに命を救われました」とか言われるでしょう？

中川よく言われるのが、「私も友達いなくて」と「私もいじめられてて」と「私も猫を飼ってて」。これが「三大“私も”シリーズ」（笑）。ありがたいことです。「キャリア30年」という極みに到達すると、どの引き出しでも変わらぬクオリティで「どうぞ」って差し出せる感じですか？

大槻どうだろう。よく若いバンドマンに言われるのが、「僕、あの時のあの大槻さんの作品で救われたんです！」っていうフレーズなんだけど、「あの時のあの作品」を、俺が覚えてないの。

中川永井先生と一緒だ！（笑）

大槻ドス竜記憶！で、そういう時は「ああ、書いた書いた。それね、うん！」っていうのが正解だって、みうらじゅんさんに教えてもらった（笑）。「命を救われました」と言ってきたら、「ああ、救った救った」って返せと。それからは僕も、そういうようにしています。「おう、救ったぞ。確かにお前を救った」って。

中川私もそうしようかな（笑）。大槻さんの、これからの夢って何ですか？

大槻そうだなあ。以前、しょこたんと一緒にやった映画『ヌイグルマー』の原作を、マーベルで映画化してくれねえかなと思ってて。

中川マーベルで!!

大槻原作はわりと反米マンガなので（笑）、そこは上手いことやらないといけないんだけどね。なんかこう、回り回ってスタン・リーのところまで行って、『アベンジャーズ』の一員にヌイグルマーがなってほしい。

中川最高……スカヨハ（スカーレット・ヨハンソン）と並んで登場してほしい。ヌイグルマーがポップなアメコミデザインになったら、それでまた人気が出て原作本がまた売れて、私が出演した邦画もまたリバイバルヒットして、みたいにならないかな。

大槻永井豪先生によれば、日本のマンガをハリウッドに売り込んでいる仲介業者がいるらしく。そういう輩のせいで、永井先生の『黒の獅子』をパクられた結果が『ターミネーター』だと。でも確かに、『ミクロの決死圏』は手塚治虫先生の『吸血魔団』が元ネタ説ありますよね。手違いで無断に使用されたというエピソードも残っている。

中川それで言うと、『ロボコップ』は『宇宙刑事ギャバン』な気がする。

大槻あれは絶対そうじゃないの？　俺、以前ポール・ヴァーホーヴェンに直接『ギャバン』のことを聞いたら、「オウ……アイ・ドント・ノウ」って言ってましたけどね（笑）。ちなみに、楳図かずお先生は「『チキン・リトル』は『チキンジョージ』のパクリだ」と言ってますが、僕それはないんじゃないかと思うんだよな～。

中川あははは。あ、でも『ヌイグルマー』のハリウッド進出は本当に実現してほしい。

大槻あと、僕のホラー小説『ステーシー』がモーニング娘。によって舞台化されたり（『ステーシーズ 少女再殺歌劇』）、加藤夏希ちゃん主演で映画化されたりしたんだけど、それもハリウッドで映画化されないかなあと思ってて。とすると僕の今の夢は、「濡れ手に粟」「棚からぼたもち」ですか（笑）。

中川そういえば水木しげる先生も、「鬼太郎は金のなる木だ」とおっしゃっていました（笑）。放っておいても何度もアニメになってくれたからって。大槻さんもたくさん作品を残されているから、ハリウッド進出も全然あり得ますよね！

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