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「テンペスト」の池上永一が描く、首里城を舞台にした物語「レッドカメリア」
hontoにて連載開始!
あらすじ
時は17世紀初頭、日本と明国の間で複雑な国情となった琉球王国。
少女・真花は渡地と呼ばれる花街で育った。まだ顔を知らぬ父の姿を求めて、首里城の御内原(後宮)に上がることになった。王宮の中に渦巻く権謀術数に真花は一人立ち向かう。
「シャングリ・ラ」「テンペスト」「ヒストリア」など圧倒的な筆力で歴史エンタテイメントを送り出してきた池上永一が、壮大で、強く、美しい沖縄の歴史を描き出す。
著者インタビュー
1970年沖縄県生まれ。早稲田大学在学中に『バガージマヌパナス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー。1996年『風車祭』で直木賞候補に。沖縄の伝承と現代を融合させた世界を確立。圧倒的なスケールのエンタメ作品を次々と発表。著書に『レキオス』『シャングリラ』『テンペスト』『黙示録』『ヒストリア』(第8回 山田風太郎賞受賞)などがある。
本作を執筆するきっかけはなんだったのでしょうか?
2019年10月31日、首里城が火災で失われました。当時の僕は『海神の島』を讀賣新聞オンライン上で連載していて、毎朝五時に更新されるのをゲラと照らし合わせてチェックするのが日課でした。朝の四時過ぎからパソコンの前でスタンバイしていた時に「首里城で火災か?」の速報が流れました。当時のtwitter(現X)の投稿動画で暗闇の中で燃える火があり、私はてっきり「奉神門か、歓会門かの小火騒ぎかな?」と首里城の辺縁部の映像だと思っていました。それが夜が明けてくるにつれ炎は正殿からのものだとわかり、ショックでずっと頭がくらくらしたままニュースを視ていました。朝からマスコミの電話が鳴り、そのコメントに振り回されて一日が終わりました。しかし自分が発したコメントがどこかしっくりこなくて、モヤモヤした気持ちのままでもありました。数年間ずっと自分が首里城にできることはないか、自問自答してきました。そして小説家として首里城にできることは、新しい首里城の物語を捧げることであると決心しました。それが『レッドカメリア』です。
「テンペスト」以来の首里城を舞台にした物語になりますが、同じ琉球の歴史物として、今回は何が大きく違いますか?
琉球史における歴史的転換点を挙げると二つの事象が挙げられます。一つが明治政府による琉球処分、そしてもう一つが薩摩侵攻です。琉球処分の時代は『テンペスト』で描きました。なので『レッドカメリア』は薩摩侵攻の時代を取り上げることにしました。琉球が初めて外国と戦争する一大事件です。
僕は首里城が復元された時から何十回と首里城を訪問しました。素晴らしい宮殿に沖縄人としての誇りを感じさせてくれました。何度か通った頃でしょうか。首里城を訪れて物足りなさを感じました。復元された箱は文句なしの一級品なのですが、ハードウェアの性能だけがあって、肝心のソフトウェアが欠落していることに気づいたのです。このままだと首里城はただの体験学習施設になってしまう。このハードウェアを使いこなすソフトウェアを開発しないと、生きた首里城にならないのではないか。そう思って書いたのが『テンペスト』でした。
残念ながら復元された首里城は焼失してしまいました。現在再復元中なのですが、新しく復元された首里城には、新しい物語を贈って祝福したい。これからもずっと首里城が愛されるような物語にしたい。それが『レッドカメリア』です。
なぜ赤い椿なのでしょうか?
あまり知られていませんが、琉球は椿文化なのです。今の沖縄だとハイビスカスが有名ですが、当時の有力士族たちの庭では椿の品種改良が盛んに行われてきました。赤、白、紅白斑、八重咲など、今日見られる椿の基礎は既に確立されていました。また漆工芸や紅型の意匠にも椿が多く用いられています。一番イメージしやすいのが琉球舞踊の髪飾りでしょう。前花と言って椿を正面に挿します。言われると「ああ!」と気づくのではないでしょうか。
「レッドカメリア」の見どころを教えてください。
今作の『レッドカメリア』の舞台は御内原と呼ばれる後宮の女官の視点で語られます。当時の女官の生活、料理、工芸、衣装、美容、仕事など文化人類学的ディテールを楽しんでいただきたいのが一つ。
次に文書形式が古琉球辞令書と呼ばれる特殊な形式をしていることにも注目してください。作中に神女による「おたかへ」と呼ばれる祈りが入っています。その謡と、行政文書がよく似ています。候文と呼ばれる日本式の文書で記されるのは薩摩侵攻後のことです。
最後に主人公の真花は赤い椿のイメージを託しています。情熱の赤、首里城の赤、激動の時代の赤。そしてダブルヒロインになる真花の親友の伊集という神女は白い椿のイメージを託しています。伊集という名前は白い椿の品種名です。赤い椿と白い椿、激動の時代に咲いた二つの花の人生に注目してください。