コミックとアニメ映画『聲の形』で大人気の大今良時さんと、彼女の先輩漫画家・濱内シゲノリが対談。ヒット漫画の秘密に迫った。

CHAPTER1

大今 ： 憧れの先輩と並んでお話できるなんてうれしいです。
濱内 ： いやいや、編集部でよく顔を合わせているでしょ（笑）。よく漫画家たちが仕事をする専用室にお互いこもるよね。でもさ、大今さんはさ、たまには外にも出ないとダメだと思うよ。発想凝り固まっちゃうよ（笑）。
大今 ： ですよね（笑）。全然外出ないんですよ。
濱内 ： 僕は、カラオケボックスで描いたりしているよ。大今さんは『聲の形』がブレイクしているけど、デビューのきっかけは、僕の作品を読んだからだったって言ってたけど、あれ冗談でしょ？
大今 ： 本当です。『緊急事態！　ユリ先生』を読んで、衝撃を受けました。導いていただいたというか。今も漫画を描いているときは、いつも先生の絵を思い浮かべています。
濱内 ： いいから、いいから（笑）。でも、すごいよね。ちゃんと賞に応募してデビューしちゃうなんて。僕の場合はスカウトだったからさ。街を歩いていたら、急に声をかけられてさ。「あなた、漫画描きませんか？」って。
大今 ： そんなパターンあるんですね。
濱内 ： あるのよ。それまで漫画なんて描いたことなかったからね。
大今 ： さすがです。『聲の形』も読んでいただいたみたいで。
濱内 ： 当たり前だよ。しかしスゴいところを攻めたよね。ずいぶん深いところまで斬り込んだテーマだし。何より、10代のころの思い出を大事にして描いているのがわかるよ。子ども時代の出来事や気持ちの描写がとことんリアルだよ。無理に漫画っぽくしていないというか、漫画に媚を売っていない作品だよね。
大今 ： 本当にうれしいです。たしかに自分が経験してきたことは、作品づくりの糧になっていますね。

CHAPTER2

濱内 ： 以前渡した僕の代表作『男少年ゴーゴン』はどうだった？気をつかわなくていいからさ。
大今 ： すみません、ちょっとまだ読んでなくて。
濱内 ： そうなんだ。けど、すごく小さい本だと思わなかった？
大今 ： たしかに。コミックサイズじゃないと思いました。
濱内 ： そう、僕の本はどれもふつうの３分の１くらい。本棚に本を並べると隙間ができるよね。そのスペースはたいていブックスタンドみたいな仕切りを作るけど、それじゃもったいない。そこも本で埋められないかと思って、始めたのが「仕切り漫画」というシリーズ。僕の漫画はすべてそれだよ。だから、あまり書店で売ってなかったりするんだ。僕自身、見たことないんだ。いったいどこに行けば買えるんだろう？　知ってる？
大今 ： わからないです。他にはどんな作品を？
濱内 ： 最近、女子向けに描いたのが、『不思議to RELAX』だね。これは「別冊少女マガジン」に載せるって、編集部アシスタントの岡田が言っていたけど、どうなったんだろ。そもそも「少女マガジン」って見たことないんだよな。大今さんは、読んだことは？
大今 ： ないですね。私が知らないだけなのかな。
濱内 ： それにしても大今さんはいい作品を描くようになったよね。すごく伸びたと思う。特に、75ページ目が好きだったな。だいたいどの巻も、75ページ目がキマっている。これ、大事なところでさ。業界では、「コミックセブンティーファイブ」と言われるんだけど、75ページ目を見れば、だいたいその作品の勢いがわかるんだよね。
大今 ： ６ページ目までに読者を惹きつけるということが大事とは聞いたことがありますが……。

濱内 ： そうなんだ。僕はね、75ページも漫画描いたことがないから。『男少年ゴーゴン』も『不思議to RELAX』も、数ページで終わるし。だから、すごいよね、75ページも描くなんて。『聲の形』でいちばん評価したいのはそこだよ。あんなに長いお話が描けるというところ。俺さ、お話、考えるの苦手なんだよね。大今さんは新作が「週刊少年マガジン」で始まるんだって？
大今 ： はい、主人公がいろんな人に出会って成長していくお話です。
濱内 ： 楽しみにしておくよ。ところで、アニメ映画化されたときって、偉い人と名刺交換とかしなかった？　その人にちょっとさ、『不思議to RELAX』っていういい作品を描く漫画家がいて、って話とかできないかな？
大今 ： 先輩のためにがんばってみます。今日は尊敬する方とお会いできてうれしかったです。ありがとうございました。
濱内 ： いやいや、持ち上げなくていいから（笑）。