honto+インタビュー vol.4 藤原和博

注目作家に最新作についてお話しいただく『honto+インタビュー』。随時更新予定。
今回は、リクルート出身で都内では義務教育初の民間人校長など多彩な経歴を持つ藤原和博さんが登場。

人生を変える勉強をしよう!

「学び」は、人生最高の楽しみ。勉強が本分の10代はもとより、大人だって学習をもっと生活に取り入れたいもの。 著作「よのなか」シリーズでも知られる藤原和博さんに、学びの極意を聞く特別授業を、ここに開講!

みなさんは気づいているでしょうか。日本では1997年に、はっきりと時代の変わり目がやってきました。

97年以前の日本は、20世紀型の成長社会。キーワードを挙げるなら「みんな一緒」。何事にも、あらかじめ用意された正しい解答があると考えられていて、その正解へ真っ先に行き着くことがよしとされました。

仕事の現場では、物事を早くきちんと、真面目な態度でこなす能力が求められました。生活面では、あらかじめ提示されたものを消費するのが奨励されます。建売住宅を購入し、勧められるがまま保険に入り、流行のレジャーにいっせいに飛びつくといったことです。子どもの学習も、情報を早くきちんと処理する手段を身に付けることが目的でした。

ところが、98年以降はあきらかに時代が変わります。成熟社会を迎え、価値観が「それぞれ一人ひとり」へとシフトしました。もう決まった正解はどこにもありません。あるのはただ、自分自身の頭で考え導き出した、それぞれの納得解だけ。

仕事でも生活でも、単に入ってきたものを右から左へ受け流すのではなく、情報をみずから編集する力が求められます。学びのかたちも、ただ知識を詰め込むだけでは意味がありません。これからは頭の柔らかさや、いろんな角度から物事を見る複眼的な思考、知識を応用して実地に活かす能力などが求められ、それらを得るためのトレーニングが必要となってきたのです。

いまやすっかり、インターネット全盛の社会ですよね。そんな時代に人は、否応なく大きく2つのタイプに分かれてしまいます。情報を生み出す側の人と、情報をひたすら消費する側の人です。

情報を消費するだけでも時間はいくらでもつぶせますが、それだけではいつか、むなしく感じるときがやってくるのでは? 自分の存在感を増していったり、生きていることを実感するには、情報を生み出す側に回らないといけません。そのためにはどうするか。自分にしかできないことを見つけ、それを他の人にもわかるようなかたちにして、だれかに届けるためうまく発信していく必要がある。そういうことができるような学びを、積み上げていかなければいけませんね。

ここでいう勉強とは、国語・算数・理科・社会・英語といった教科ではありません。それらは、20世紀に有効だった学習の型。情報編集力が求められる21世紀成熟社会には、通用しづらくなっています。

新しい情報活用能力、すなわちリテラシーがいまこそ求められているのです。どんなものかといえば、
・シミュレーション能力
・コミュニケーション能力
・ロジカルシンキング能力
・ロールプレイング能力
・プレゼンテーション能力
この5つのリテラシーです。

いまは正解がない時代なのだから、何かをするときは常に、自分で仮説を立てていかなければいけません。仮説を構築する力が、シミュレーション能力です。よりよい解を求めるには、多くの人の知恵を持ち寄ったほうがいい。そのアレンジをするための力が、コミュニケーション能力です。

情報が氾濫する時代だからこそ、物事を疑い検証する態度も重要です。正しく疑う力、それがロジカルシンキング能力。別の角度から状況を眺める冷静さも大事ですね。そうした目を保てるのが、ロールプレイング能力。自分の能力を最大限にアピールするためのプレゼンテーション能力も含めて、これらがいまと今後の社会を生きていくために、必須の力となっているのです。

これから学校で勉強をする人たちは、そのあたりを意識して学びに向かうべき。では、すでに20世紀型の学習を経てきた大人はどうすればいいか。まずは、自覚することです。自分が情報処理力重視の「正解主義」学習をしてきたことに。そうして改めて、情報編集力を磨くための「修正主義」学習を、折に触れ心がけていきましょう。常に頭を柔らかくしておく、それがポイントになってきますよ。

人はなぜ学ぶのか。幸せに生きるためですね。20世紀までは、幸せのかたちというものがたしかにありました。いい成績をとっていい会社に入り、子をもうけて孫の顔を見て……。でも、そんな定型は崩れました。会社も国も、何も保証してくれません。

一人ひとりが、それぞれの幸福論を編集しないと、幸せを見つけられなくなっているのです。自由度は格段に上がったけれど、自由ってじつは、使いこなすのがたいへんなもの。自分の頭でしっかり考えないと、自由を持て余し、幸せは遠ざかってしまう。

幸福を得るための手段として、自身の情報編集力を磨かないといけない。その営みこそが、いまの時代の本当の「学び」なのですよ。

新刊のご紹介

たった一度の人生を変える勉強をしよう

たった一度の人生を変える勉強をしよう

藤原和博

出版社:朝日新聞出版

暗記中心の「勉強」は、もはや役に立たない。かわりに何をどう学べばいいのか。「よのなか科」の生みの親である著者が、中高生とその親のために書き下ろした。正解のない時代に導くべきものを「納得解」と定義し、そこへの道筋も具体的に示す。

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著者プロフィール

藤原和博(ふじはら・かずひろ)

教育改革実践家、杉並区立和田中学校・元校長。
1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。
2003年より5年間、都内では義務教育初の民間人校長として杉並区立和田中学校校長を務める。数々の取り組みで『文部科学大臣賞』などを受賞、英検協会と提携した「英語アドベンチャーコース」や進学塾と連携した夜間塾「夜スペ」も話題に。
2008年~2011年、橋下大阪府知事ならびに府教委の教育政策特別顧問。
著書は『人生の教科書[よのなかのルール]』『人生の教科書[人間関係]』(ちくま文庫)など人生の教科書シリーズ、『リクルートという奇跡』(文春文庫)、『校長先生になろう!』(ちくま文庫)、ビジネスマンの問題解決に必須の情報編集力を解説した『つなげる力』(文春文庫) 等。

主な著作

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