honto+インタビュー vol.17 阿部智里

注目作家に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『弥栄の烏』刊行を記念して阿部智里さんが登場。

「普遍的な物語を、書きたい」

「八咫烏」シリーズで知られる若きベストセラー作家が、キャリアのターニングポイントとなる最新作を刊行!

―「普遍的な物語を、書きたい」

舞台は、八咫烏の一族が人の姿で暮らす「山内」。深緑に閉ざされた土地で、烏たちは宮廷での勢力争い、危険な薬の蔓延、天敵の出現……。次々と巻き起こる出来事に翻弄されながら、生き抜こうともがく。
細部まで作り込まれた壮大な世界観。ファンタジー、歴史もの、ミステリー、さまざまな要素を取り入れながら進む豊かなストーリー。巻を重ねるごとに読者を増やしてきた阿部智里さんの「八咫烏」シリーズが、この7月に発売の6作目『弥栄の烏』で、第1部完結を迎えた。
シリーズ第1作の『烏に単は似合わない』は、2012年に第19回松本清張賞受賞作。つまりは阿部さんのデビュー作だった。そこから書き継いできたのだから、シリーズを完結させる経験は今回が初めてのはず。最終巻を書く難しさや感慨はなかっただろうか。
「1〜5巻で張り巡らせてきた伏線を回収していく。その点に集中して書く必要があったので、話をどう進めていこうかあれこれ悩むことは、まったくなかったですね。書き終えた今は、あるべきところにすべてが収まったという実感を持つことができています」
今作に限らず、もともと作品の構想がしっかりとあるうえで筆を進めていくのが、阿部さんの手法。ゆえに、先の展開をどうしようかと迷うことはない。執筆中に心を砕くのは、すでに自身の頭のなかにある物語を、いかにして読む側に届けるか。どれだけ存分に楽しんでもらえるかたちにできるか、である。
「私の場合、書きたいことは元からはっきりとあります。小説の世界のなかで次に何が起こるかは、歴史の流れのようにすでに決まっている。それを最もおもしろいかたちで伝えるにはどうすべきかには、毎回、試行錯誤しますね」
シリーズが世代やジャンルの好みを超えて広く読まれ、ベストセラーになっていることからもわかるように、阿部さんの作品は読者層を限定しない。
「普遍的な物語を書きたいんです。だから、できるかぎり多くの人に受け入れてもらえる話にしようとは、いつも心がけています。歴史小説風だったり、ミステリー色が濃かったりと、巻ごとに異なる雰囲気が出ていると言われるのですが、それは私がジャンルを意識していないせいかもしれません。八咫烏シリーズの間口を広げるという意味で、一役買ってくれているといいのですが」
 小学生でも読めるくらいに、軽い読み味にしてあるのも意図的だ。
「小難しい文体だと、それだけで敬遠されてしまうこともあるので」
なるほど、各巻とも決して薄い本ではないのに夢中になってぐいぐい読めてしまうのは、そうした考えが隅々まで浸透しているからだ。烏が言葉を話し、人の姿をとって社会を営んでいるという突飛な設定に、違和感なく入っていけるのも、よく練られたわかりやすい文章で書かれていればこそだろう。
かくも完成度の高い長大な小説、知らずに読めば、よほどのベテラン作家の手になるものかと思ってしまう。けれど実際は、第1作が受賞して人の目に触れたとき、阿部さんは20歳だった。作品が持つこの貫禄はいったいどこから? いつから小説を志していたのか。
「はたから見れば今もまだ若造の年齢ですよね。でも、私が初めて物語を書いたのは6歳のとき。もう20年ほど続けていることになるので、決してキャリアが浅いとは思っていません。とはいえ至らないところだらけなので、もちろんひたすら精進あるのみですが。
作家を志したのは小学2年生のとき。『ハリー・ポッター』シリーズを夢中で読んでいたら、母が『そんなに本が好きなら作家になれば』と教えてくれた。物語を書いて生計を立てる仕事があると知って、私のやるべきはこれだ! と思いました。以来、他の職業に心が動いたことはありませんね」
堂々たる完結編『弥栄の烏』をはじめ、八咫烏シリーズの驚くべき風格は、幼少の頃から小説に打ち込んできたことの賜物だったのだ。

新刊のご紹介

弥栄の烏

弥栄の烏

出版社:文藝春秋

失った記憶をさがし求める日嗣の御子・若宮。真赭の薄は、浜木綿の決意に衝撃をうける。宿敵・大猿との最終決戦、八咫烏の軍を率いる参謀・雪哉のとった作戦とは−。 八咫烏の世界を描くファンタジー長編、シリーズ完結。

著者プロフィール

阿部智里(あべ・ちさと)

1991年群馬県生まれ、2012年、早稲田大学在学中に20歳という史上最年少で松本清張賞を受賞。
デビュー作『烏に単は似合わない』から最新刊『弥栄の烏』に至る「八咫烏」シリーズがベストセラーに。

主な著作

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