注目作家に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『フリーランスぶるーす』刊行を記念して栗山圭介さんが登場。
「過去の鮮明な記憶が、僕の内なるライブラリー。小説を書くときの助けになっているんです。」
仕事と働き方を問う、「大人の青春小説」誕生
―「普遍的な物語を、書きたい」
フリーターのまま30歳を迎えた平林健太が一念発起。憧れていた「ギョーカイ」へ足を踏み入れた。失敗、挫折、叱責の日々を乗り越え、ひとかどの者として自分の名前で仕事をするようになっていく……。
読んで痛快、かつ甘酸っぱい気持ちにもさせられるのが、栗山圭介さんの新刊『フリーランスぶるーす』。
自身の学生時代をベースに書いた前作『国士舘物語』や、馴染みの店の大将が話す逸話をもとにしたデビュー作『居酒屋ふじ』と同様、今作も自身の体験が色濃く反映されている。
「過去の出来事を不思議なほどよく記憶しているんです。場面や会話だけじゃなくて、匂いや音まで鮮明に。それが僕の内なるライブラ
リーになって、小説を書くときの助けになっているんです」
豊富な記憶をもとに、ドキュメンタリーや回想録にすることだってできるだろうけれど、あえて小説に仕立てたのはなぜ?
「自分史を忠実に思い返しながら、それを書き写していくなんてとてもできません。小説であれば、中心に据える話を決めたら、あとは
1行ずつ即興で書いていけばいいので、なんとか書き継いでいけます。僕の小説は、自分史に基づいた思いつきみたいなものですから。ベースは自分の体験ですが、もちろん脚色します、というか、『盛って』あります(笑)」
なるほど、読後感がかくも痛快なのは、しっかりと「盛ってある」おかげ?
「かもしれませんね。それに50代の人間が書いてはいるけれど、どれもが青春小説というのも影響しているんじゃないでしょうか。青春小説って、10代の少年少女が主人公だったり、書き手が若いということだけが条件じゃない気がします。登場人物が失敗を重ねながらも前に進み、自らを成長させていこうとする物語であれば、僕にとっては十分、青春小説なんです。
大人はきっと誰もが、年齢を重ねてきた分、若い人より失敗の数が多いはずです。僕なんて、どこを切っても金太郎飴みたいに失敗がぎっしり詰まっている。それらが自分を伸ばす糧になり、まだまだこれからと自分に言い聞かせることをバネにして、大の大人の青春小説を書いています」
今作では、組織に属さない「フリーランス」の生き方にスポットを当てている。「フリーランスの特筆すべき条件とは、実際の働き方や立場というよりは、精神のありかたでしょうね。仕事を通して一個人としてどう振る舞うか、自分なりの気構えを持っているのがフリーランス精神のある人だと思います。
主人公の平林は、仕事で迷ったときには、小細工せずに丸裸になって、相手にぶつかっていって何とか道を切り拓きます。人間同士だからわかってくれるはず、と信じながら。
だれもが働き方や生き方を見つめ直さなければいけない時代に、この作品が、何かを思わせ、考えるきっかけになってくれたらとてもうれしいです」
新刊のご紹介
栗山圭介(くりやま・けいすけ)
1962年岐阜県関市生まれ。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年『居酒屋ふじ』で小説デビュー。
他の著書に『国士舘物語』『フリーランスぶるーす』。『居酒屋ふじ』はテレビ東京系でドラマ化放映中(毎週土曜日深夜12時20分~)。
バックナンバー
- 伊坂幸太郎『ロングレンジ』(幻冬舎)
- 真梨幸子『祝言島(小学館)
- 阿部智里『弥栄の烏』(文藝春秋)
- 深水黎一郎『ストラディヴァリウスを上手に盗む方法』(河出書房新社)
- 小手鞠るい『たべもののおはなし パン ねこの町のリリアのパン』(講談社)
- 上田秀人『竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末』(講談社)
- 浅田次郎『天子蒙塵』(講談社)
- けらえいこ『あたしンち』(KADOKAWA)
- 伊東潤『天下人の茶』(文藝春秋)
- 真保裕一『遊園地に行こう!』(講談社)
- 伊坂幸太郎『サブマリン』(講談社)
- 松岡圭祐『探偵の鑑定』(講談社)
- 堂場瞬一『誘爆 (刑事の挑戦・一之瀬拓真)』(中央公論新社)
- 山崎ナオコーラ『ボーイミーツガールの極端なもの』(イースト・プレス)
- 安藤哲也『崖っぷちで差がつく上司のイクボス式チーム戦略』(日経BPマーケティング)
- 藤原和博『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)
- 伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』(文藝春秋)
- 阿部和重『キャプテンサンダーボルト』(文藝春秋)
- 川上未映子『きみは赤ちゃん』(文藝春秋)