honto+インタビュー vol.30 伊坂幸太郎×朝井リョウ

注目作家や著名人に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、世界観を共有したお二人の新作『シーソーモンスター』『死にがいを求めて生きているの』を上梓した
伊坂幸太郎さんと朝井リョウさんが登場。

この3月に朝井リョウさんが『死にがいを求めて生きているの』を、4月には伊坂幸太郎さんが『シーソーモンスター』を、続けて上梓することとなりました。じつは両作は、同じ企画から生まれた作品。2016年に創刊された季刊文芸誌「小説BOC」内の、「螺旋プロジェクト」として連載されていたものが、それぞれ一冊になったのです。「螺旋」とは、8組9人の小説家がテーマ、世界観を共有したストーリーを同時に紡いでいこうというもの。参加作家は朝井リョウ、天野純希、伊坂幸太郎、乾ルカ、大森兄弟、澤田瞳子、薬丸岳、吉田篤弘という、ジャンルを超えた豪華な顔ぶれ。これから全作家の作品が、連続刊行されていきます。各作家が共有していたルールとは、瞳が青い海族と耳が大きい山族、ふたつの種族の対立を描く、「渦巻き」など登場させるべきモチーフが定められている、「原始」から「未来」まで、各作家が描く時代も割り振られているというもの。プロジェクトを先導するかたちとなった伊坂幸太郎さんと、依頼を受けてすぐに参加を決めた朝井リョウさんに、世界観を共有した新作について語っていただきました!

対立をテーマにするなんて…

伊坂 企画が始まってもう丸3年になるんですね。ずいぶん前のような、最近のような不思議な感じですが、そもそも、朝井さんはなぜ参加してくれたんですか? すごくうれしかったんですけど、ちょっと意外というか。

朝井 それは伊坂さんから声をかけていただいたからですよ! 文学の世界をひとつの高校と想定すると、伊坂さんは隠し撮り写真が出回るタイプの人気の先輩。後輩の私からしてみれば、『伊坂先輩が誘ってくれてるよ! 行くに決まってんじゃん!』といった感じでした。普通に浮かれました。

 真面目に話すと、たいへんありがたいお話ですし、これに乗らない手はないでしょって感じでした。

 ただ、実際にやってみるとなかなかたいへんなプロジェクトでした。無事完結させることができてほっとしています。

伊坂 これは声を大にして言っておかないといけないんですけど、僕、力のある先輩じゃないですからね(笑)。地味で真面目な図書委員みたいな感じで、権力ないですよ。この企画で、たいへんだったのはどのあたりです? 小説に書く世界の前提が設定されていたり、どの時代を描くか割り振られたり、登場させるべきキーワードが挙げてあったりと、たしかに「枷」はいくつもありましたけど。

 僕はふだんから、枷がある仕事はけっこう多いというか、何もないところから「好きなこと書いて」というよりも、「こういう条件でやってみて」と言われたほうが、よし、その枠組みの中でなんとか読む人をギャフンと言わせられたら! と思えるんですよね。だからみんなも、そうじゃないのかと思ってしまったんですが。

朝井 私は書き出す前に全体の構成をけっこうかっちりと決めるタイプなので、枷に関しては対応しやすい書き手かもしれません。いろんな条件を最初に織り込んでおけばなんとかなるので。想像以上にたいへんだったのは、自分で平成という時代を選んだくせに、平成の世界の中に「海族」「山族」が存在することを説明しなければならない点でした。どう書いてもトンデモSFみたいになってしまうので、本当に悩みました。

 いや、そもそも、対立が物語の根本に設定されていることが一番たいへんだった点かもしれないです。

 私は「人それぞれ世代」というか、バチバチに対立して成長していこうというよりも人それぞれ個性を尊重しようという風潮で育ったので、平成を舞台に書くべき対立というものがかなり長い間思いつきませんでした。いまとなっては、自分で好きに書いていたら対立というテーマに取り組むことはまずなかったので、そこに目を向けられてラッキーだったなと思います。

伊坂 以前お会いしたときも、「対立がなくなっちゃってる時代なんですよね」と仰っていましたね。なるほどそういうものか、と思わされました。僕はいつも結構単純に、対立させちゃうので(笑)。たしかに、朝井さんの作品に対立は出てこない。でもその代わり、自分と違うだれかとの差異とか、ジェラシーとか、自分のなかで生じる問題が痛々しいまでに書かれていますよね。

 朝井さんは「僕らの世代がそうだから」と言いますけど、それってどの世代の人間も持っているものじゃないですか。そういう人間の性質を、メタ化して小説に入れ込んでいて、普遍的なものになっているんです。ああ、そうそう、人間ってそうだよねと思わせる話で、そこがすごいですよね。

朝井 「人それぞれ世代」であることの影響があるのかどうかわかりませんけど、私の小説って毎回、けっこう違うテイストになってしまうんですよね。それこそ今回みたいにテーマが降ってくると、それに大きな影響を受けてしまう。

 伊坂さんは、どんなテーマが与えられても、いつもいかにも伊坂さんだ! というか、しっかり「伊坂じるし」の作品になるじゃないですか。うらやましくてしょうがないんですけど、どうしてそうできるんですか。

フィクションの役割をきちんと果たすこと

伊坂 いや、ただワンパターンなだけなんですよ。僕は自分の書く小説を、世界の反映とか社会の動きを写し取るようなものとは捉えていなくて、小さい箱庭のなかで繰り広げられる人形劇みたいに思っているんです。だからある一定の枠内に収まってしまうというか、好きな人は好きだけれど、おもちゃ遊びにしか思えない人には馬鹿にされちゃうという(笑)。

朝井 そこが私は好きで、伊坂作品を読んでいると、フィクションの力を信じて書いている人から、すてきなプレゼントを渡してもらえた気がするんです。私の作品だと、読んだあとに「いい気持ちで読み終えたな、よし明日から自分もがんばろう」とはあまり思わないような気がしていて……読者にはせっかく貴重な時間を割いて読んでもらっているにもかかわらず。

 私だって読書をするとき、何も傷つきたくて読んでいるわけじゃないのに、自分の作品では読者につらいことを強いているんじゃないかと、悩んでしまう。対して伊坂さんの作品は、いつだって人がフィクションに期待する役割を、きちんと果たしてくれているように見えるんです。

伊坂 たしかに、嫌な気分で終わらないようにしたいとは、いつも思っていますけれどね。子どもが生まれてから、そう思うようになって。いまの子どもたちが大人になるころの未来は、暗くないほうがいいなあ、という気持ちがあるというか。少しだけでも上を向いて生きていけるようなものをと、意識しているところはあります。

 でも朝井さんの今回の作品だって、いい方向に近づいていくようなお話じゃないですか。上を向いた終わらせ方になっていると思うんですけど。

朝井 小説の終わらせ方って、本当に難しいなと思うんです。最後の部分を書くときがいちばん、「ああ自分はいま、噓をついてる!」という気持ちが強くなってしまって。今回も最後は苦しみましたが、なんとか少しでも希望のあるものにしたいと考えながら、書き終えました。

伊坂 「噓をついてる」って(笑)。おもしろいなあ。「螺旋」の企画だからということを別にしても、朝井さんの新境地が、真骨頂と言うべきなのかな、とにかく代表作が誕生したと僕は思っているんですよね。これをトップバッターに、これから螺旋作品が刊行されていきます。どの作品も充実したものですし、続けて読むと各作のおもしろさがきっと増すと思いますよ。

新刊のご紹介

シーソーモンスター

シーソーモンスター

伊坂幸太郎

出版社:中央公論新社

出会ってはいけない二人が出会ったとき、世界の均衡は崩れ、物語は暴走する。

著者プロフィール

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)

1971年千葉県生まれ。2000年『オーデュボンの祈り』でデビュー。作品に『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重との共著)『ゴールデンスランバー』『フーガはユーガ』など。

死にがいを求めて生きているの

死にがいを求めて生きているの

朝井リョウ

出版社:中央公論新社

植物状態のまま眠る青年と見守る友人。美しい繫がりに見えるふたりの“歪な真実”とは?

著者プロフィール

朝井リョウ(あさい・りょう)

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。『何者』で直木賞、作品に『チア男子!!』『武道館』『世界地図の下書き』など。

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