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地元で「みぃさんの祭り」がおこなわれる直前に、恋人の広樹をともなって実家に帰省した永尾玲は、蔵の中で蛇をかたどった鏡を発見します。この鏡は、三年前に自殺した玲の姉の綾が首吊り自殺をおこなった場所に置いてあったものでした。
斗根遺跡の発掘をしていた田辺一成は、玲から蛇鏡の話を聞き、興味を示します。広樹のつれない態度に、将来の幸せについて漠然とした不安を抱いていた玲は、しだいに一成に惹かれていきます。
その一方で玲は、父の前妻だった多黄子が、33年前にやはり蔵で首を吊って自殺し、その足元に蛇鏡があったこと、さらに姉の綾が自殺したとき、彼女は婚約していた男性ともう一人の男との間にはさまれて苦悩していたことなどを知ります。しかも、多黄子も綾も、みぃさんの祭りの日に自殺を図ったというのです。自分と同じくうつろいがちな恋に悩んでいた永尾家の女性たちが、みぃさんの祭りの日に自殺していたことを知った彼女ですが、一成に惹かれていく自分の心をどうすることもできず、鏡と向きあいつづけてみぃさんの祭りまでの日々を送ります。
一成は、地元の鏡作羽葉神社(かがみつうりはばじんじゃ)が蛇と関係の深い大物主大神を祀っていることに興味をいだき、蛇神がよみがえる時が近づいているという神主の東辻高遠の依頼を受けて、蛇神にまつわる謎を解くために、神社に伝わる社伝の解読を急ぎます。
土俗的なホラー・ストーリーと、恋に悩む女性の心情がからみあって、独特の作品世界をつくりあげています。ただ、大掛かりな舞台設定の割には、ストーリーがやや単調に感じてしまいました。
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こういう古代物の小説が好きなので読んでみたが、これはイマイチでした。
田舎の因習も浅いし、全体的に軽めでした。
最後のオチもはっきりと変化があるわけでもなく、ボンヤリと終わりました。
せめて蛇の子が生まれるとか、一成が蛇神に乗っ取られるとかあれば良かったのに。
坂東さんの作品は当たり外れが大きくて、これは自分好みではなかったです。
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この人の小説は一筋縄ではいかない。予定調和で決して幕を閉じないのだ。
人間の業はまだ終わらないというメッセージが共通して感じられる。
そして、『死国』、『狗神』、この作品と3作品通して共通しているテーマが、死者の再生。失われた者たちが生者の心の隙間を利用して甦ってくるという設定が一貫して、ある。
生を営む者たちが心の奥底に潜ませている愛という名の傲慢さを発揮した時に、再生を虎視眈々と狙っている死せる者達が牙を剥く。そして坂東眞砂子氏はこの生者たちが己の感情の赴くままに犯す過ちを描くのが非常に巧い。
私を含め、すぐ隣にいる誰かが心に孕んでいる感情、それは凡人であるがゆえに説明できない気持ちや想いをこの人は実に的確に表現する。その心理描写は読中、ページを捲る手、文字を追う眼をはたっと止めるほどストレートに心に飛び込んでくる。恰もページから手が出てきて心臓を鷲掴みにされる、そんな感じだ。
今回も読中、思い惑う表現がいくつかあった。いくつかピックアップしてみよう。
①主人公、玲が自身の性格について語るシーン。
「多弁なのは、(人と喋るのが好きなのではなく)沈黙に耐え切れないからだ」
②同じく玲が婚約者広樹の性格について語るシーン。
「この人は私を見ようとしていないのだ。(中略)それぞれ、相手への自らの愛情の深さをいとおしんでいるだけ」
③そして玲が親類の美佳伯母さんの性格を語るシーン。
「気はいいのだが、自分の言動がどんなに他人を傷つけるのかがわからない女だった」
これらを読むとドキッとする。そうそう、こういう人たちっているんだよなぁと思う反面、これは私のことを客観的に表現しているのではないかと。特に①は私にかなり当てはまる。
こういう文章に遭遇するとき、この作者の人間観察の眼の確かさに感心するとともに戦慄が奔る。出来れば逢いたくない、とまで思ってしまう。
またこの作者は実にドラマ作りが巧い。
玲が一成と契りを交わした直後に、なかなか電話を掛けてこない婚約者広樹から電話が掛かってくる。そしてその台詞「ひどいな、玲ちゃん」の巧さ!
そして首を吊った玲を助けに入るのが一成ではなく、想いが離れつつある広樹である所なんかも巧いなぁと思ってしまった。人物配置と小道具の使い方が非常に巧く、何一つ不自然さが無い。
そして玲と一成の鏡池でのキスシーンの官能的な事!泥にまみれた二人の指が絡まるところは二人の止まらない愛情の激しさが行間から匂い立つようだった。
これほどまでに構成がしっかりしているのに、結末をああいう形で終わらす事に実は私自身、戸惑いを感じているのだ。
これこそこの作者の資質なんだろうが、個人的には余計な味付けだと思った。レストランに食事に行き、おいしい料理を堪能した後で、最後に出てきたデザートが陳腐だった、そんな感じがするのである。
やはりここはあるべきところに収まって欲しかったなぁ。残念。
あと最後に1つ。人が首吊り自殺した縄を腰に巻くと陣痛が軽くなるというエピソードが作中出てくるのだが、これは本当なのだろ��か?
もし嘘だとしたら、死と生を弄ぶがごときこの作者の想像力は恐ろしい。