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浦野所有
→10/08/08 渥美さんレンタル
50年前の直木賞作品、『鏨師(たがねし)』。文春文庫版には、表題作を含む5つの短編が収録されています。個人的には、表題作と「狂言宗家」の2本がよかったです。
「鏨」とは、金属の加工に用いるノミの一種。この鏨をたくみに操り、無銘の日本刀に高名な刀鍛冶の名を刻み、高値で売りつけようとする「鏨師」と、それを見破る鑑定士の話です。最大の見せ場はラストでしょうか。人によって受け取り方が変わると思いますが、私としてはとても後味がよかったです。
「鏨師」だけなら50ページくらいなので、簡単に読めますよ。
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平岩弓枝さんが、直木賞を取った時の作品である。
踊りは、西川流名取、三味線に鼓も芸事に励み、代々木八幡様の神社の一人娘で、蝶よ、花よと育てられてきたのに、小説家になるなんて、、誰にも考え付かなかった事だろうと、推測する。
この題材の鏨師(たがねし)も、なんて読むのか、どういう師なのか? 読むまで、解らなかった。
二本刀の鑑定で、最後は、亡くなった逸平から、甘い汁をしぼり取った東舎が、偽銘の刀を、本物として評価して買い取る事になる因縁。
神楽師、つんぼ、狂言師、狂言宗家の計5編。
つんぼは、耳が聞こえなくなった大師匠のおばあさん。
それもわがまま放題、暴力は振るうし、暴言は、吐くし、困ったものだが、臨終の時に、孫が、三味線を弾きながら、口ずさむ 君の心が汲みにくい、、、ちゃんと、聞こえていたのだった。
何かの拍子に、音が聞こえるようになっていた。と言う物語。
何か、芸の深さと、芸事にのめり込んだ師匠の追究心が、うかがい知れる作品である。
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歴史・時代小説はちょっと苦手だけど、短編集みたいだからいいかと手に取った作品。1本を除いて現代だった。
危篤におちいった、刀の偽銘専門家の孫から、1本の刀が鑑定士のところに届いた。これまでの経験から、その男が持ち込む刀に本物など無い。しかし、非常に良く出来た物で、他の鑑定士が本物と鑑定する中、その自信が揺らいでゆく。
短編5篇とも、刀鍛冶、長唄、神楽、狂言と、伝統芸能の知識を下地にして書かれた作品で、狂言の1本以外は現代の話となるため、泡坂妻夫を彷彿とさせるが、あちらのように事件が起こったりはせず、ストレートな小説である。
偽銘師と鑑定士の心理戦である表題作、耳が聞こえなくなった長唄の師匠「つんぼ」など、教科書に乗っていても全く不思議ではないし、かと言って回りくどい話でもなく面白いので、電子書籍で良いのでぜひ読んでもらいたい。
表題作は直木賞だったらしいが、全作品本当に芥川龍之介っぽい。意地を張り通していたら、最後に落とし穴にはまるという、人間関係の難しさに対し、意地を張らないといけない伝統芸能がうまく下地として働いている。
狂言2作は、かなり狂言が解っていないといけないのか、個人的にはなかなか掴みきれないところもあったが、筋は捉えることは可能だった。
他の作品は、時代物ばかり書かれているようで、次はちょっとどれを読もうかは悩む所。
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確かなスケーティングと、豊かな表現力。
強靭な体幹が繰り出すひねり技は、4回転時代に突入した今なお、目を惹く美しさ。
圧巻のショートプログラム。
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伝統芸能を扱った短編小説。
読む前は敷居が高くて難しそうと思い、読んでみると実際にまぁ芸能の細かいことは理解が及ばないのだが、文章自体は読みやすく、すらすら読める。
歴史ある芸能を背負いそこに矜持を持つ者達同士の静かで力強い迫力ある衝突
彼らや家族との間のなにげない触れ合いにも現れるきめ細やかな心理描写
どの話にも伏流する、時代とともに失われつつある伝統や価値感に対する哀愁
それらが絡み合って心がどんどん洗われていき、読後には独特の爽快感が生まれた。