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紙の本
幸福の王子はしたたかでした。
2007/04/28 12:32
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の水野谷は、債権回収の仕事で立ち寄ったいかがわしいのぞき部屋で、高校時代に密かに心を寄せていた村瀬に再会します。非の打ち所のないエリートで、心やさしくて汚れをしらない王子様のような村瀬が、なぜこんなところで店番をしているのか? もしや悪い人間に瞞されて、いいように働かされているのではと、水野谷と一緒に読者も心配になるのですが、実はこの村瀬という男、見た目とは似ても似つかない、恐ろしくしたたかな性格であることが、じわじわと分かってきます。
のぞき部屋の経営者は、水野谷の勤める金融業者から借金をして雲隠れ中なのですが、いろいろと事情を調べると、親思いで人情味のある人物らしく、人助けをしようとして窮地に陥ってしまったことが判明。村瀬はのぞき部屋で働く青年を車ではねてしまった縁で、この店に関わるようになったのですが、入院した青年の替わりに店番をして様々な情報や体験を仕入れつつも、人柄の良い経営者の窮地を救うべく、いろいろと怪しい策略を巡らしていたのでした。そして実は村瀬にとっても、水野谷はかつての思い人であり、思わぬ再会をコレ幸いと利用して、自分の恋人にしてしまおうと画策をはじめます。
そうとは知らない水野谷は、村瀬がお人好しのあまりに利用されているだけだと思って心配し、なんとか村瀬を守ろうとして、逆に自分が妙な状況にハマッてしまいます。
けれども、借金取りだろうとヤクザだろうと同僚だろうと、見た目の善良さと口先八寸でいかようにも手玉にとってしまう村瀬の本性に、水野谷だけが気づかないまま話は進み……ふと気づけば、とりあえず誰もが幸せになっていました。
結構猥雑な展開のお話なのに、読後感が妙にほのぼのするのは、ほんとにイヤな人間や悪い人間が一人も出てこないからかもしれません。村瀬が車ではねた、軽佻浮薄タイプの遠藤という青年を取って食おう(言い換えれば愛人にしよう)とするヤクザの親分だけは、最後まで顔が見えない感じなのですが、村瀬の、遠藤をエサにする策略でもって、いいように操られて利用されてしまうのだから、そうタチの悪い人間でもないのかもしれません。
ドラマを動かすために、悪い人間や精神の壊れた人間が出てくるお話はとても多いですが、そういう存在がなくても、物語はちゃんと成立するものなんだと思います。大量に小説やマンガを読んでいると、ある程度パターン化した、病んだり壊れたりした人間の話を読むことに、少しづつ気持が疲れてくるのを感じます。この作品のように病み爛れ要素のない楽しいお話は、小説を読むことでリラックスしたいと考えている人間にとっては、とても貴重な存在です。
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