紙の本
美味しそうな小説No.1
2001/03/13 22:35
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:マル - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかく食事の描写がすごい。誰とも会わない静かな生活を送っている主人公の理津子が偶然出会った男・大西とただごはんを食べるシーン。焼肉、天ぷら、寿司、パスタ。なんてことのないありふれたメニューだがとてつもなく食欲をそそる。食べることがこんなにも官能的だとは。ひとと関わること、ひとりでいることはどういうことか。孤独な理津子の甘えたところのない潔さが美しくも痛ましい。大西と出会えてほんとうによかったと自分のことのように嬉しく感じた。「ひとりでいることが好き」と言うのが好きなひとにこそ読んで欲しい小説。
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ここ数年、必ず5本の指に入るくらい好きな作家、姫野カオルコ。
同じものを偏執狂に書き続ける作家の業と執着の深さに慄きながらも新刊が出るたびに読まずにはいられないっていう。
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2009/7/23
あーすごい。
ホントすごいなぁ。
淡々とくる。
そうそう、そういうことなんよ。
いろいろと申し訳なくておこがましくて何もできんのだ。
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姫野 カオルコの【喪失記】を読んだ。
「私は男に飢えていた」の一文から始まるこの物語に一瞬のうちに引き込まれた。
30歳を過ぎて「処女」である主人公の理津子。彼女は家庭の事情で、幼少期時代を点々と他人の家で過
ごし、再び両親と暮らし始めるまでの間、恐ろしいほど規律正しいカトリックの教会で育った。
故に、知らず知らずのうちに自らの心を「神」によって縛り付けてしまう。極端なまでの自己への戒律。
性を淫とし、願うことを傲慢とする。
物語は30歳を過ぎてイラストレーターとして生活を形成する理津子が、本能のまま生きる男、大西と出
会い彼と食事を重ねることで自らの過去を振り返り、自ら縛りつけた現在の自分から脱しようともがく様
を、切ないほどの孤独と、葛藤で描かれていく。
理津子は痛いほど真の孤独である。願う事はただひとつ。自分が人間であること、生身の女であることの
アイデンティティを、他者によって明言してもらいたいだけなのだ。
イラストレーターとしてそこそこの成功を収め、歳の分だけ、世間からは「経験豊富な大人の女性」とい
う目で見られ続ける。理津子も必死でそれに答えようとするが、自らを「鉄人」と呼ぶように容姿に対す
るコンプレックスと染み付いてしまったカトリックの教えから、自らを装うことに罪悪感に苛まれる。
自分のような女と食事をすることでその男の時間を奪ってしまうのは傲慢である、もっと美しい女性に話
しかけられたほうが男性にとって喜びであろうに、強烈なまでの被害妄想と自己犠牲。理津子はもがけば
もがくほど迷走を続ける。
強烈に印象に残るシーンがある。
男女の性について、一般的な男女の感覚が自分の理解を超えたある日、偶然再会した旧友に「五千円払う
からキスしてくれませんか」と頼んでしまう。別にこの旧友のことが好きなわけではない。欲情したわけ
でもない。言うなれば哲学的にキスをした後日、この彼と電話で話す機会が訪れるが理津子が何の気なし
に発した一言「・・・よかった、電話してきてくれて・・・」彼のことを好きなわけではない。仕事で行
き詰ったときに旧友からの電話でほっとしただけである。なのに誤解され、一方的に「重っ苦しい」など
と言われ困惑する。明白な答えなど見つかるわけもなく「そうですか」と電話を切り、電話の前で「いや
いやキスをさせたことに対する謝罪はどうすればいいのだろう」などと考える。「すみません」と電話に
あやまる。「すみません」とFAXにあやまる。呆然としたまま、おもむろに湯舟に湯を溜め、鎮痛剤を
7錠ウイスキーで流し込み、ドライバーを片手に朦朧とした意識の中でバスタブに浸かる。そして。
そして、朦朧とするまま、賛美歌を口ずさみ、ドライバーを逆に持ち自らの手で、ドライバーで、処女膜
を破瓜するのだ。
男の僕が読んでいて胸が痛くなる。込み上げてくる切なさが��まらない。
湯舟から上がり、服を着て、部屋の中央で正座する理津子。うつむくと床に涙の水滴が落ちる。その床を
ソックスで拭く。拭いても拭いても水滴が目から落ちてくる。そして理津子はソックスで目の涙を拭う。
読んでいる僕はいたたまれなくて、切なくて、声が出ない。
これらの回想を経て、最後は大西と結ばれるという訳ではないのだが、大西の言葉や態度によって理津子
は己のアイデンティティを見出すきっかけを掴み、緩やかな、とても緩やかな、言われなければそれとわ
からないほど緩やかなハッピーエンドを迎える。
性というキーワードで精神と肉体の変化、個人と社会との関わりを説いていく作品である。人はみな孤独
である。しかし、我々が口にする「孤独」は、ここで提示される「孤独」と意を異なる。話そうと思え
ば、話せる友人が必ずひとりやふたりいる。遊ぼうと思えば、遊べる友人だっている。我々は孤独を自ら
の手によって作り出しているに過ぎない。真の孤独とは心の状態である。寂しいなどという生優しい感情
ではない。理津子の孤独に比べれば、我々の孤独など甘えに過ぎない。
とにかく僕は姫野カオルコが描く世界感に真っ直ぐに引き込まれてしまった。姫野カオルコの作品を読む
のはこれが初めてであるし、古本屋で大量に購入した本の中の一冊であったという事以外、特別な感情は
なかったが、この作品を読んだことにより、姫野カオルコの別の作品を読んでみたいと願う僕ができたの
は事実である。
男性が読むのと、女性が読むのでは読後の感想がだいぶ違うと思う。この作品に興味をもった女性の方が
いたとすれば、感想を聞いてみたいと願う。
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普通に見た目はキレイな顔なのに、
何故か恋愛に縁がないまま三十路を越えた主人公。
私とは、たぶん対局にいるであろうタイプで、
とても共感出来る感情ではない。
『私は男に飢えていた。』
という小説の書き出しは、
読み進めていくうちに違う形で裏切られた。、
単なる三十路の処女の喪失までの話ではない。
それどころか、最後まで喪失する場面は出てこず、
痛くて悲しい女像を浮かび上がらせる。
共感は出来なくとも、
読み物としては好きな部類だ。
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登場人物たちは常に食べている。食事光景から、キリスト教の影響のもとに育った主人公の「女性性」喪失感が浮かび上がる。
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状況には共感。
というか、姫野さんとは友達になってみたい。盛り上がれそう。
ドライバーで穴をあけるシーンを彼氏に読ませたら引かれた(笑)
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主人公の寂しさや惨めさが伝わってきて胸が痛くなった
勝手に決め付けられるのは辛い
大丈夫な人なんていない
強いと思い込んで自分を保つ主人公がいじらしくて好きだ
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「受難」となんだか似てる気がしました。
2作品続けて読むと
より姫野さんを感じることができるかもしれません。
なかなか面白いと思いました~。。
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真面目な女の人の葛藤。外見や考え方で私ごときがって思うのが分かるなあだった。
大西の経歴に最後びっくり。全体的に重いけど面白かった。この人の本好きかも。女性性がテーマで興味深い。
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小説としてのすばらしさはもちろん
数多く登場する食事シーンがどれもこれも最高
個人的にはきすの天プラ食事シーン…段トツ。
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「女である」ことを自分以外の誰かに明言されたい、その為に異性に抱かれたいと願う女性の話。
そしてそのような思想を、作者自らが後書きの解説でばっさりと斬っている。
恋愛や本能から離れた思想の部分で異性を利用しようとする者は、異性から欲情もされず抱かれもしないと。
主人公のように極端な環境で育たなくても、「自分が女である」という健全なイメージを持つことは現代社会ではなかなか難しいことなのかもしれない。
性に関する保守的な抑圧と(名ばかりの)男女平等の狭間にいるのが、私達という世代なのだろう。
本著を読んで「女とは何か」を考えた時、今のトレンドである「ゆるふわ」や「スイーツ」は作られた偽物の女性性なのだと強く感じた。
「女の子」や「女子」だと自らを偽らず、自覚的に「女」となりそれを楽しむこと、それが次世代の女性像なのかもしれない。
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主人公の卑屈さは自分も大いに共感し、
胸が締め付けられるシーンもあった。
「私は男に飢えていた」というキャッチコピー
にもってこいの冒頭から最後まで主人公は飢え続ける。
読んでて苦しい。切ない。
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作者によると、本書は「ドールハウス」に続く作品で、三部作の第二部とのことである。
主人公の白川理津子は幼い頃教会に預けられて育ち、大人になってもその戒律でもって自分を律しつづける。女は美しくはかなく男に守られるもの、しかし自分にはそんな女である資格はない。それは傲慢である。分不相応である。そう自分に言い聞かせて生きてきた結果、5年間プライベートな友人と食事をしたこともないような、孤独な日々を送っている。理津子の心の寂しさや頑なさの起因が、ありがちで薄っぺらな女性のコンプレックスとは異なるところにこの作品の厚みがあるように思う。しかし一方で、大西という男の果たす役割が、作者の意図するほどには見えてこない気がする。文庫版あとがきは、作者自らが作品の主題や何かを論じるというめずらしいかたち。
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難儀だなぁ。スイーツ脳の女子にぜひ読んでいただき、まとはずれな感想聞いてみたい。とか、意地悪く思うほどに難儀なんですよ、この主人公。ドライバーは、柄のほうとわかっていても痛いっす。パスタおいしそう。本能、ね。