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確認先:目黒区立八雲中央図書館
オーストリア・ハプスブルグ家を扱った小説は数多い。しかしその多くは、宮廷外交の結果、あるいはその道中が中心であるといわざるを得ない。
そうした宮廷闘争だけしか見ない風潮に一石を投じる格好でデビューした桜木が着目したのは、少女時代のマリア・テレジアが「時折市中に勝手に出かけていた」というエピソード。
これをライトノベルのフォーマットに膨らませた格好ではあるが、90年代初頭の(今となっては)「古きよき」X文庫の世界を今に引き継ぐ作品に仕上がっている。
これは特に「愛」や「恋」という欲望(感情とやや趣が異なる)が「権力」と「権威」にどこまで影響され、かつ影響していくのかという部分を、あっさりとした展開のなかで着実にまとめる作業ができていることは評価したい。昨今のベストセラー作家でさえ、この部分に対するまとめができておらず(東川篤哉や岩崎夏海などにこの傾向が見られる)、肩透かし感を受けている中で、このような作家が地道に発展することを切に期待する次第である。
ただ、挿絵作家はもう少し選んだほうが良かったかもしれないだろう。この絵では、X文庫が想定しているターゲットより下の年齢の読み物(例:フォア文庫)と間違われるリスクはある。