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どこを切っても小川洋子というような印象も強いが、対象を偏愛するのでなく一歩下がって包み込むように見つめるのは今までと違う感じもします。それはチェスという題材の為か、今までになく三人称小説だったためか。
人形の中に入ってチェスをするリトル・アリョーヒン。「大きくなること、それは悲劇である」ということを胸に刻み込み、成長を止めより小さく狭い空間に身を潜めていく。それなのに、チェス盤の上で無限の宇宙の広がりを見せる。その対比にのめり込まされます。
面白い物語と出逢った時、早く読みたく一気呵成に進むものとじっくり噛み締めるように味わいたくなるものとありますが、これは後者ですね。しかしそれまで静かに読んでいたのに、最後の最後で気付けば涙がこぼれてしまいました。でもこの作品を「泣ける」なんて表現したくはないですね。
チェスのことはほとんど知らなかったのですが、これほどまでに美しい軌跡を紡ぐものだとは。それはそのままリトル・アリョーヒンの軌跡に繋がるのですね。
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初めて小川洋子さんの作品を読む。
リズムがあって、詩のような美しい文章だ。
アンデルセンの童話のような物語。
チェスはやったことがないが、うっとりするような世界。
次第に惹きこまれていく。
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発売当時の評判を聞いて文庫化を待ち望んでいた作品。その期待を裏切る事のない美しいお話でした。
チェスは小さい頃にお遊びで兄とやっていた程度でルールこそ知ってはいるものの、棋譜などは書いた事がなくましてやその美しさを感じた事のない私。そんな私でもチェスの美しさに触れられる、不思議なお話でした。
少年がマスターからチェスを教わっていくくだりでそれまで私が持っていたチェスへの意識がガラリと変わったのを感じました。最初はなかなか覚えられなかったタイトルも読み進めていくうちに納得のタイトルに。お話の中では人間の内面的に美しくない部分も描かれているにもかかわらず美しいお話に昇華しているのもまた不思議。むしろそういう部分を描いているからこそ美しいのかも。後から思い出したよう読み返したくなりそうな作品でした。
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哀しくて美しい。
人間チェスの部分があまりにもおぞましく悲しく物語全体に大きく暗い影を落としています。それでも最後には読者の心に涙と灯火を与えるのですが、この影の部分が自分には大きすぎ、辛すぎるように思えます。それでも・・・・、そう、本書に巡り合えて幸せでした。
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リトルアリョーヒンの、清らかさが胸に痛い。
小川洋子さんの作品には、誤解を恐れずに言えば、フリークスが多く出てくる。と、思う。
そこが私は好きだ。
人は、誰もがフリークスだと改めて思い知ることができる。
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こんなに美しい文章久しぶりに読んだなーっと小さな溜息が漏れました。
成長の歪みを流れとして受け入れ、周りもチェスの神様までもが温かく愛しく見守ってくれる。チェスのこと何もわからないけど、身体の中に浸透してくる染み渡る情景で、本当に深海を泳いでいるような錯覚になりました。
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タイトルの意味がわかった時の安堵感。
筆者らしい不思議なアイテムと、身体的欠陥を持つ主人公、そして孤独感が織り成すストーリーが静かだが惹き付けられる。
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リトル・アリョーヒンと呼ばれた少年の話。小川洋子の本は「博士の愛した数式」以来2冊目。
日本になじみの少ないチェスを題材にした話のせいか、文体のせいか、海外の小説を読んでいるような気持ちになります。舞台はどこの国なのだろう。
穏やかな波を泳ぐように話は進む。時々、少し大きな波に身をゆだねながら。そして少年の最期も、ゆるやかに、静かに時を終える。
心を落ち着かせたいときに再読したい1冊です。
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久しぶりに物語的な小説を読んだ。いしいしんじみたいな童話性と透明感がありながら、小川洋子らしい数理の神秘・哲学みたいなのが織り交ぜられていて、とてもきれいだと思った。
何かを得られるとか、何かが響くとかいう小説ではないけれど、読んでいて心が落ち着く、おだやかな小説だと思う。
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冒頭の息苦しさは、得も知れず、終盤の清清しさは、音のない深海の底で、光差し込む水面を望むよう。
言葉では言い表せない情景に、思わず息を詰める。
大きなものへの畏怖、小さきものへの憧憬。
黒と白。
見事な対比。
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小川洋子の本は、抽象的で淡々とした文章が多いのでまるで海外文学を読んでいるかのような印象を受けていました。
今まではちょっとパッとしない物語を描く作家だなぁと勝手に思っていましたが、この考えは改めなければならないようです。
この作品は本当に素晴らしかったです。後半にかけて泣きそうになる。特にミイラとの手紙によるチェスの一手一手。
そして、物語の終わりのあっけなさ、喪失感がより感動を誘います。
本屋大賞はハズレないなぁ。
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P.54
何となく駒を動かしちゃいかん。いいか。よく考えるんだ。諦めず、粘り強く、もうダメだと思った所から更に、考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめる時は、負ける時だ。さあ、もう一度考え直してごらん。
マスターやおばあちゃん、老婆令嬢や総婦長さん、リトルアリョーヒンの周りにいる人は、みんな温かくて優しくて素敵な人たち。
最後はロウソクの火がしずかに消えて行くように幕が引かれるが、リトルアリョーヒンらしくて良いのかも知れない。きっと彼も納得したのでは無いかと思う。
良い物語だった。
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リトル・アリョーヒンと共に8☓8の静謐に身を落とし、しばらくして軽い眩暈を覚えて本を閉じること数回。チェスのルールは読後もいまだによくわかってないのだけど、「盤下の詩人」が見る”勝負”の深淵に共感せずにいられなかった。
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2冊目の小川洋子作品。これを読んでいる途中に、3冊目を買いに行ってしまった。久しぶりに、作家を好きになった気がする。
文中で2度泣いてしまった。
一度目は、老婆令嬢が
「できれば私もあなたの先生のような方にチェスを教わりたかった」
といった場面。
二度目は
「チェスをはじめて教えてくれたのがあなたでよかった」
と老婆令嬢が言った場面。
リトル・アリョーヒンと老婆令嬢の静謐で高潔なやりとりに、胸がつぶれるおもいでした。
それにしても、モチベーションの高い作品だと思う。最初の一行から、最後の一文字まで。これぞ小説。緻密でいて大胆で、とても情熱的。
リトル・アリョーヒンはたった一枚の写真と一枚の棋譜しか残さなかったというのに、読み手はその生涯を、それこそ生れ落ちたその瞬間から追うことができる。こんな幸福にめぐり合えたことに思わず感謝をしたくなる。リトル・アリョーヒンを知る前の私と、知った後の私では、何かが違うんじゃないかという気さえする。良作にめぐり合うということは、そういうことだ。
リトル・アリョーヒンが盤下に見たものの、ほんの端っこの方だけでも、私は見ることができただろうか。彼が聞いた、何よりも雄弁の駒の音の、ほんのきれっぱしだけでも、私は耳にすることができたのだろうか。
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独特の雰囲気に引き込まれ、何度も涙を拭きながら一気に読み終えました。
とても美しい小説だと思いました。