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科学哲学者(そういう人がいるんですね)の筆者が、量子力学の現象の解釈に関する、諸研究について紹介した本。
序盤で、量子力学の標準解釈という、現在実験で確かめられている現象について、世界中である程度の?妥当性が認められている解釈の話が出てきて、その後、その問題点に対し、どういう議論がなされているか、という流れで話が進む。
標準解釈については、読んだら何となく知っていたことが多かったが、そこに問題点があるということは知らなかったし、また、これだけ多くの議論がなされていることも知らなかったので、面白かった。
特に、量子力学というと、測定するまで粒子の物理量が確定しないものだと固定的に捉えてしまっていたが、多世界解釈や、未来からの因果関係を含めて考える理論など、物理量は確定しているという立場もたくさんあることが新鮮だった。
また、実は物理世界は状態が重ね合わされているのが実相で、我々の意識が錯覚しているのだ、という説や、上記の未来の事象に現在の事象の原因を求める説などを知り、所詮、人間の認識などは、ごく限られた範囲にしか及ばないのかもしれない、ということを強く意識させられた。
ただ、難しかった。
前の議論を完全に租借してから次にいかないと、どんどん分からなくなる。
それに、ベクトルとかを懇切丁寧に解説している割に、説明が足りないんじゃないかと思われるところが散見され、新書を読むような一般の読者層をターゲットとしていそうな割に、全体としてちぐはぐな印象を受けた。
ただ、巻末の推薦図書(どれも本書よりも難しそうな感じ)を見て、また唸りながらも量子力学の世界を感じたいという気持ちにさせてくれるのは不思議だった。
次は、もうちょっと腰を据えて読みたいと思った。
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非常に興味ある分野だが、この類の本を読み進めるほどに量子力学の難しさにも直面していく。
哲学という分野も同じ。
ただわからないなりに読んでもやっぱり興味深い分野だしもっともっと知りたいという欲求が出てきます。
というわけでこの本も難しかったけど面白かったです。
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量子力学の哲学――非実在性・非局所性・粒子と波の二重性 (講談社現代新書)
p.30
「アインシュタインの議論のどこに欠点があったのか。これにはいくつかの論点がある。ひとつは彼らが局所性を仮定していたことに問題があると言うのだ。」
そして、
「この論文では『本質的な事柄がぼやけてしまっている』とシュレーディンガーへの手紙の中で不満を漏らしている。」
恐らく、アインシュタインが拘っているのは、量子力学の確率解釈の部分であろう。しかし、局所性の問題の方にスポットが当てられてしまったのだ。
当然隠れた変数が認められていないのであるから、現在の量子力学における確率解釈は、その本丸である。
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「本書では、量子力学のさまざまな解釈を紹介する。これらはいずれも「解釈」であるから、量子力学が経験的に正しいこと(実験事実をうまく予測したり説明したりすること)を認める。つまり、実験的に確かめることができるものについては、どの解釈も一致しているのだ。それゆえ、どの解釈が正しいのかを実験的に確かめることは、いまのところできない。だから、これは「科学」ではなく「哲学」なのである。(p.7)」
量子力学の非-常識的な性質は、それこそ量子力学が提唱された黎明期において既に指摘されていた。それというのは、本書の副題にあるように、「非実在性・非局所性・粒子と波の二重性」のことである。以降、不可思議な量子の世界を何とか人間が分かる形で言語化しようと様々な「解釈」が考案されてきたが、残念ながら未だ、物理学者や科学哲学者の皆が同意するような解釈には至っていない。
量子力学に対する批判として最も有名なのはEinsteinらによるEPRパラドックスの議論だろうが、量子力学の非-常識さを定量的に表現できたのはBellの定理が最初らしい。本書も、このBellの定理から始まる。
Bellの定理の主張は、「(B1)量子力学系における物理量はいつでも明確な値をもっている (B2)量子力学系において局所的な相関しかない (B3)量子力学は経験的に正しい の三つが同時に満たされることがない(p.120)」というものである。現在の標準的な解釈(コペンハーゲン解釈)は、(B1)と(B2)を諦め、状態の収縮を認める射影公理を導入するというものであるが、この「諦め方」は他にも色々な可能性が考えられる。本書では、その様々な解釈がパターンごとに整理されて紹介されている。名前だけ列挙すると、GRW理論、デコーヒレンス理論、軌跡解釈、多世界解釈、裸の解釈、多精神解釈、単精神解釈、一貫した歴史解釈(多歴史解釈)、様相解釈、交流解釈、時間対称化された量子力学…。こうして改めて並べてみると当然というべきか結構沢山あって驚くが、Bellの定理やKochen-Speckerの定理などのNO-GO定理のために何かを守るためには何かを諦めねばならないので、そこに解釈の「個性」が生じるわけだ。
筆者の一推しが、「時間対称化された量子力学」という解釈である。この解釈によればBellの定理を破ることなく実在性や局所性を守れるので、著者の『アインシュタインvs量子力学』を読んだ時は、どこが悪いのか・なぜもっと支持されないのかが分からなかったのだが、本書では、確かに有力ではありつつ問題点があることも述べられていた。曰く、「ハーディのパラドックス」と呼ばれる状況において、負の確率(みたいなもの)が出てきてしまうそうだ。しかも、それが単なる思考実験にとどまらず、大阪大学の研究チームによって実際の実験として行うことに成功したらしい。この負の確率に対して幾つか説明が提案されてはいるそうだが、取り敢えず留保というのが現状のようだ。負の確率がどのようにして導かれるのか非常に気になるが、本書では数式などは登場しないので分からないのが残念。
新書にしては、とても難解。多分、常識が通用しないために理屈を積み上げていくしか方法がなく、頭がこんがらがってしまうんだろうな��。
はじめに
1 量子力学は完全なのか 量子力学のなにが不思議なのか1
2 粒子でもあり波でもある? 量子力学のなにが不思議なのか2
3 不可思議な収縮の謎を解け
4 粒子も波もある
5 世界がたくさん
6 他にもいろいろな解釈がある
7 過去と未来を平等に考えてみる
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索引