紙の本
なじみの小料理屋でくつろぐ気分が味わえる
2003/09/06 23:40
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とみきち - この投稿者のレビュー一覧を見る
浅田次郎の短編集を読むのは、なじみの小料理屋のカウンターで過ごすひとときと同じく心地よい。黙って座れば、熱いおしぼりと冷たいビール、心のこもった酒肴と手料理がほどよいタイミングで並べられ、心地よく酔わせてくれるから。
大手出版社をリストラされて精気を失ったカメラマンと、旅先で出会ったストリッパーとの間に交わされる淡い交情を描いた『あじさい心中』。
「五感で幸福を味わいつくしながら、やがてうららかな春の陽射しを浴びるように、ゆっくりと人生を終える」至福の死を大金をはたいて買い取った主人公は、死ぬ間際に果たして契約どおりの瞬間を得られるのか。タイトルは『死に賃』。
万年総務課長代理の死をきっかけに、彼にかかわりのあった人間たちが自分の胸に手を当てて襲われる自責の念や恐怖を、会話のみで描き切った、芝居の脚本のような『奈落』。
『佳人』は、お見合い世話好きの母が紹介したがるお嫁さん候補に、いまだ独身の有能な部下を紹介したところ、思いもかけぬ恋に展開していくお話。
水商売の母に女手一つで育てられている6年生の少女の、ひとりぼっちの夜の寂しさと、父を求める切なさをリリカルに描いた『ひなまつり』。
表題の『薔薇盗人』は、船長として世界周遊の船に乗る父親にあてて息子が書いた手紙形式の作品。ストーリーに仕掛けがあるのはご愛敬。三島由紀夫への嫌がらせみたいな小説だと作者が語ったという逸話が、解説に紹介されている。
作品に出てくる人たちは皆やさしく、人生の切なさ、心のふれ合いを描く浅田節を心ゆくまで堪能できる。ああ、ここで泣かせるわけねとわかっていながら、いつもの手じゃないの、あざといなあと感じながらも、すっかりお任せの客となる。出された料理一つ一つを味わいながら、思うまま泣かされ、うまいとうならされる。期待どおりのひとときを供してくれるからこそのなじみの店である。
おなかいっぱいになって、一呼吸。安心して通える店を持つ贅沢を感じつつ、「ごちそうさま」と立ち上がる。暫くしたらまた来ようという思いを胸に、家路に着く。
私好みの一品を挙げるとすれば『あじさい心中』。場末の人情を書かせたときのうまさは、天下一品。
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淺田次郎の短篇集。
表題作を含めて6篇が集録されてゐる。
このなかで最も淺田次郎ワールドを感じさせてくれるのが「あぢさい心中」と「ひなまつり」だらう。ともに薄幸の女性の心情が心に沁みてくる。そして明るい光が射込んでくるやうな終りかたが、讀後感を味のあるものにしてゐる。
私の好きな作品は「死に賃」。こんな死にかたができたらよいなとつくづく思ふ。
さて、三島由紀夫の死を探求するために陸上自衞隊に入隊したといふ作者が、「三島由紀夫への嫌がらせみたいな小説で(笑)。」と發言してゐるのが表題作の「薔薇盜人」。
三島の「午後の曳航」のいはばネガのやうな作品である。
淺田次郎にはいつも泣かされるので、警戒しつつ讀みすすめたが、幸ひ今囘は泣かずにすんだ。
2003年4月21日讀了
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2003/04/146つの短篇から成る作品集で著者自身が気に入ってるという3篇が御説のとおり良い。わけても「あじさい心中」は良作。自身が感じるどん底の絶望感と諦念は他者により一瞬にして救済され得るのだということだろう。諦めてはならず、又諦めは恥である。その為に配置された触媒としての「リリィ」というヒロイン造形は浅田の作品中でも屈指の輝きを放っていると思う。以下気に入った順に「ひなまつり」「死に賃」「薔薇盗人」「奈落」「佳人」
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リストラとか不倫とか母子家庭とか地に足がつきまくっているのにどこかファンタジー。
昨今は人と人との心のあったかい心の繋がりの方がよほどファンタジーだよ実際……(涙)。
『ひなまつり』の「私に、お父さんを下さい」って女の子のお願いなんか泣きますね。
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切ない話が多い短編集。
1番最初に収録されている「あじさい心中」の
インパクトが強く、他の作品の印象があまり残っていない・・・。
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これまたいい短編集。最もお薦めは題と同じ「薔薇盗人」。
物語の進み方と、真実の解き明かされ方がユニーク。
びっくりな展開で、みんなの期待を裏切らない結末。
お薦めです。
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短編だったのに一つ一つが濃くて、さらにちょっと怖いテイストも
あったりして。意外でした。食わず嫌いはダメだなーーと思いました。
「あじさい心中」とか「ひなまつり」とか表題の「薔薇盗人」が好き。
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背表紙曰く「人間の哀歓を巧みな筆致で描く愛と涙の6短編」。 付け加えるなら愛と涙と『毒』と思う。嫌な感じではないけども。
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k_28)浅田さんの短編集をつづけて3冊読んでみました。どれもいいですね。その中でも「姫椿」が好きです。
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【ひなまつり】
ただひたすら泣きたい時に読む本です。
これぞ「泣かせの浅田」作品という感じ。
意思に関係なく涙が出てくるので,公共の場所で読むのは注意が必要。
水商売の母と二人暮らしの少女が主人公。
母の元恋人が少女を優しく見つめてくれるシーンがなんとも感動的です。
少女もその彼を慕って,お父さんになってほしいと母にお願いするまでの少女の思い。
揺れる二人の大人たち。
せつない気持ちが伝わります。
何度読んでも泣ける本です。
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「あじさい心中」「ひなまつり」などの王道スタイルの短編と
会話形式の「奈落」、書簡形式の「薔薇盗人」などの変則スタイルの短編が
良い具合に混じって、飽きずに読める短編集。
長さ的にも、電車やちょっとした合間に読むには適度な長さ。
男の人は「薔薇盗人」、女の人は「ひなまつり」が好きな人が多そうかな。
ただ、電車で読むにはこの文庫版は表紙がきつい。
30男が一面に薔薇の書かれた本を読んでると、若干妙な視線を感じましたよ
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とにかく新潮は装幀がたいがいださい。この本も然り。けれど、中身はどの短編も秀逸で面白かった。特に「薔薇盗人」。
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有名な作家さんだけに、有名どころの中原の虹とか壬生〜とかを避けた。
で、なんとなく本屋にあって読みやすそうで持ち運びに重くない程度のを。
全体的にはすごく素敵だった。
一番好きなのは「あじさい心中」かな、と。
あのちょっとフィルターを通したような感じと、哀愁というか切ない感じがいい。
ラルクのkenちゃんが浅田次郎好きだってむかし言ってたけど、このイメージはすごく合う。
映画のような映像的な終わり方が印象的だった。
「死に賃」と「奈落」はちょっとホラー?というか、皮肉というか。そんな感じ。
「ひなまつり」はドラマになりそうな感じだなぁと。
「佳人」はちょっと笑い入ってる?
「薔薇盗人」は手紙調で書かれていて、でも時間の流れとか物事の流れが分かる。
こどもの純粋さと大人のあれこれが交差している話。
バラについては詳しくないけど。。
すべての話を読んでみて、すごい振り幅(という表現でいいのか?)を持っている作家さんだという印象をもった。
すごいピュアな心情も、皮肉も、切なさも、いろんなものをいろんな手法で書いているというか。
いや、もはや有名すぎる作家さんだから、なにをイマサラお前が、という感じだろうけども。
個人的には「あじさい心中」的な話が満載だとよかったけど。
それだけじゃ飽きちゃうのかもしれない…ので、この作りでよかったのかも…と。
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短編集。少し前に読んだ消化不良感のあった「夕映え天使」と比べても、これはどれも全て面白かった。テイストが全く違うので思わず笑ってしまうような作品もあり、人情深い作品もあり、で楽しめました。
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会話のみで進められていくお話があったり
書簡のみのお話があったりと、
それぞれに違った趣があり、さすが!という感じです。