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ここのところ、立て続けに優れた韓国映画を見た。扱っている年代とともに、見た順番に題名を挙げてみる。
タクシー運転手 約束は海を超えて(2018):1980年、光州事件
金子文子と朴烈(2019):1923年、関東大震災後
パラサイト 半地下の家族(2020):現代(ヒュンダイではありません(笑))
KCIA 南山の部長たち(2021):1979年、朴正煕大統領暗殺
1987、ある闘いの真実(2017年公開。レンタルビデオにて):学生運動家朴鍾哲拷問致死事件に始まる民主化闘争
いずれ劣らぬ傑作揃いだが、これらの映画の歴史的背景について考えてみた。すると朝鮮戦争については数冊の本で知っていたが、戦後の韓国の歴史についてまったく知らないことに改めて気がついた。
そこで手に取ったのが本書である。
韓国政治における保守・革新の評価ではない、湖南(全羅道)、嶺南(慶尚道)の地域間対立を軸に、バランスの取れた記述がとても印象に残った。
私は常々民主主義の成熟度では日本は韓国に遥かに遅れを取っていると考えていたが、1987年の民主化を自らの力でもぎ取った後も、民主化候補の二人、金泳三(嶺南)、金大中(湖南)が、地域間の対立に引きづられて選挙での一本化に失敗して、軍出身の盧泰愚に大統領職をさらわれてしまったことなど、民主化への道が平坦ではなかったことを、本書を通じて知ることができた。
朴正煕大統領時代は「漢江の奇跡」と呼ばれ、経済成長を実現する一方で、民主化への準備もしたという成果があって、現在でも評価が難しいと思うが、ベトナム戦争への加担、日韓条約締結などについての本書の歴史的評価も優れたものだと思う。
また、二人の金大統領の時代は、中曽根康弘がファーストネームで呼び合う仲だったレーガンの時代であり、サッチャーとともに世界的に新自由主義の嵐が吹き荒れていたさなかだったことにも、本書によって気付かされた。
本書の最後の方で言及されている、インターネット先進国(2003年時点でブロードバンド普及率世界一)としての韓国が、ネチズンによるインターネットを通じた直接民主制への道を開き、民主主義の成熟度を高めつつある一方で、新自由主義が国民の格差を助長し、デジタル・デバイドが解消されていない点を鋭くついている。
本書は2005年に刊行されているが、2021年の現在でも、映画『パラサイト』の最初に出てくる、フリーWi-Fiを求めて狭い家の中を右往左往する親子の笑えない姿が、デジタル・デバイドが厳然としてある事実を伝えている。