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──泣けた。泣いた。
まず、無償の愛を多くの少年少女たちに捧げてきた女性が、何故こんなにも早く天に召されなければないのか。
その理不尽さに泣いた。
人を騙し、人を傷つけ、悪事を働くたくさんの輩がのうのうと生きながらえていくというのに。
そして、主人公北斗を翻弄した、悲しいまでの運命のいたずらに泣いた。
重要なのは殺人を犯したという事実なのか、それとも殺人を犯さねばならなかった動機なのか。
裁判を迎えても、純粋な北斗はその事実だけが問題なのだと考え、情状酌量しなくてよいと言い張る。
弁護人は、幼児期に受けた虐待と愛するものを失った哀しみが北斗の動機を形成したのだから、情状酌量の余地があると考える。
もちろん、殺人という行為は決して許されるものではない。
ただし、これほど幼児期から誤った教えや虐待を受ければ、到底まっとうな感覚を持つ人間には育たない。
“自分はこの世に生まれてくるべき人間ではなかった。”
そのように両親から気付かされた少年。
少年北斗が、自分を理解してくれるこの世でたった一人の人間の存在によって、ようやく人並みの幸せを感じ始めた時に、その人がこの世から去る。
しかも自らを犠牲にしても彼女を助けようとした行為は、詐欺によってもたらされたものだったのだ。
その時の無念さと憎悪の情が北斗に殺人を決意させる。
裁判を行う中で北斗の心情は揺れ動き、最後に本当の自分の気持ちに気付いた時、彼は初めて本当の人間の世界というものを知るのだ。
読み出したときは、どうにも虐待の描写が凄まじく、読後感の悪そうな内容で、ページをめくる手が重かった。
だが、その感覚はすぐに変わった。
DVから解放され、主人公北斗の純粋さや優しさが描写される部分には目頭が熱くなった。
だが、その幸せな時期も長く続かず、再び人間不信へ。
いや、彼の場合は人間不信ではなく、小さい頃からの誤った躾ゆえの、大人に抱く本心だった。
人が人を裁くことの難しさ。
悔い改めて生きていくことを許さず、生を封殺し死刑を宣告するのが正しいのか。
自らの過ちを後悔し、改悛の情を抱かせ、一生涯行き続けさせることが正しいのか。
深く考えさせられる物語であり、久々に、涙なしには読めない感動作だった。
ぼくは石田衣良という作家を見くびっていたかもしれない。
直木賞作家ではあるが、これほど骨太なしっかりとした作品を書ける作家だとは思ってもいなかった。
「コンカツ?」や「ラブソファにひとり」などの近刊を読んだかぎりでは、時代に乗っかった軽い作品を小奇麗に書く作家だと思っていたのだ。
その先入観を改めさせてくれる一冊だった。
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序盤から虐待シーンが壮絶すぎて、リアルすぎて。
間にギャグマンガで中和しながらでないと読めない、という本は初めてかも。とにかく、辛すぎて読むのに時間がかかった。
今まで生きて行くのに精一杯だった北斗が、裁判で、初めて客観的に自分自身の事を考え、人間として成長出来た気がする。
2人も殺してしまった後では遅すぎるけど。
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久しぶりの石田衣良さん。彼の作品あんまり読んだことないし、読みたいなって思ったこともなかったのですが、これはあらすじ読んだときに興味出て読みました。
愛をしらない少年が愛を知って失って殺人を犯すというお話。
結構泣ける。
重たい、とても重たい。うまく感想書けないくらい重たくて、苦しくて、痛くて。犯罪者の少年側にスポットをあてているからまたなんかもやもやーっとするのもあり。
この作品を書いた、書き切った石田衣良さんすごいな、というのがわたしの一番の感想です。
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幸せってどんな状態なのか?自分にはそんな疑問の残る小説でした。両親からの虐待を受けて育った北斗という少年。里親の綾子の闘病生活を必死で支えた大学生の北斗。殺人の被告人となった二十歳の北斗。客観的にすべて幸せと呼べない環境だった。つらい日々の連続だったと思う。けど、北斗は自然界の素晴らしさ、人の温かさ、温もりを僅かながら受けることは出来た。きっと、つらい過去のなかにも北斗にとっての幸せはあったのだと、他人がどう思おうが幸せだったと感じているはずだ。そう思う。結局、自分の想い描いてる理想、それに現実がどれだけ似ているか!理想の生活、人生が満足出来る状態である!どれだけ満たされているか!幸せってそういうとだとおもう。どれだけ持ってるかだけじゃ幸せなのかは判断出来ない。
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終始息の詰まる展開。
幼い頃から虐待を受けて育った北斗。
その彼が人の温もりに触れ成長していくが、ある事件をきっかけに殺人者になる。
罪と罰。
遺族感情、死刑、裁判。
多くのことを考えさせられた一冊。
石田さんの本の中でもまた新しいジャンルが開拓されたんじゃないかなと思う。
久々に大満足した一冊。
心残りは本編と全く関係ないことで…
ネット通販で買ったら帯が付いてこなかったってこと。゚(゚´Д`゚)゚。
帯も含めて一冊だと思ってる僕にはツラい(;´Д`)
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とにかく重い内容でした。
裁判に入るまでが、辛いというかくるしくてなかなか先を読むことが出来ませんでした。
こんなに辛い話だと思ってなかったので、びっくりしました。
この本を読む時は重いということを覚悟をして読まれた方がいいかもです。
章の最初が橋爪北斗は〜と始まるところが印象的でした。
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最初の数ページでこれ以上読んではいけない、読んだら確実に後悔すると思ったが、作者の筆力に負けて最後まで一気に読んでしまった。もちろん、これが全ての形態では無いだろうけど、DVってこうやって外部に隠蔽され、そして家族を蝕んでいくんですね。
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今までの石田衣良さんの作品とは異質。愛を知らない子供。
酒鬼薔薇せいとがでてきた。
内容(「BOOK」データベースより)
幼少時から両親に激しい暴力を受けて育った端爪北斗。誰にも愛されず、誰も愛せない彼は、父が病死した高校一年生の時、母に暴力を振るってしまう。児童福祉司の勧めで里親の近藤綾子と暮らし始め、北斗は初めて心身ともに安定した日々を過ごし、大学入学を果たすものの、綾子が末期癌であることが判明、綾子の里子の一人である明日実とともに懸命な看病を続ける。治癒への望みを託し、癌の治療に効くという高額な飲料水を購入していたが、医学的根拠のない詐欺であったことがわかり、綾子は失意のうちに亡くなる。飲料水の開発者への復讐を決意しそのオフィスへ向かった北斗は、開発者ではなく女性スタッフ二人を殺めてしまう。逮捕され極刑を望む北斗に、明日実は生きてほしいと涙ながらに訴えるが、北斗の心は冷え切ったままだった。事件から一年、ついに裁判が開廷する―。
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虐待を受けながら育った北斗には何もいい時が無かったが、里子になり始めて母と呼べる愛情に恵まれた。それもつかの間数年で、母が他界してしまう。その時に波動水と呼ばれる水を母に飲んでもらい、後で詐欺だった事が判明してから、殺人事件を引き起こす事になる。最後には回心する模様を描いた素晴らしい作品である。裁判の事が大半を占めるが、つい作品に引き込まれていってしまう。
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小さい頃から虐待を受けてきた北斗がどういう顛末で殺人者になってどう裁かれたのかというお話。後半はほとんど法廷ドラマで石田衣良の新境地でしょうか。「行く」や「言う」はひらがななのに「蕩ける」は漢字を使うってセンスがどうにも理解できません。
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幼いころから両親による酷い虐待を受けて、それでもまっすぐに育ってきた北斗。
なんとか幸せになってほしい、と願いつつも、副題の「ある殺人者の回心」に北斗の行く末は見えてしまって読み進むのが辛かった・・・。
石田さんは、ここのところ、「カンタ」で発達障害を描き、この「北斗」では幼児虐待、そのほか、就活だの、婚活だの、と、社会面を賑わす話題を集中的に題材にしようとしているみたい。
で、「北斗」ですが・・・。
読む人によって評価が分かれる作品かな、と思っていたのですけど某サイトでは絶賛の嵐。
う~~ん、そうかなぁ・・・。
確かに、北斗が殺人を犯した後の裁判でのやり取りは、全てをあきらめてしまっている彼の心をどうほぐくしていくか、どう贖罪の念を呼び起こすか、というヒューマニティが全面に出ていて読み応えがありましたが、私は正直、好きではありませんでした。
自分の力ではどうにもならない家庭環境や、「カンタ」の発達障害のような持って生まれたハンディキャップのせいで、主人公がどんどん追い込まれていく話、というのは、その果てに何か学びがあるとはいっても、あまりに切なくて、なんでこんな辛い話を読まなければいけないんだぁ~~!と言いたくなるんですよ。
逆境の中でも人間の可能性を信じたい、という物語を受け入れられるかどうか、という読み手のキャパの問題なんでしょうね。
私は、自分の力や気持ちで人生をもっと明るく渡っていく人たちのお話が読みたいです。
自分のせいではないことで辛い思いをする人たちのお話は悲しすぎるから。
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とにかくいろんな意味で重い、重~い一冊。
読み進むのがしんどくなるような、児童虐待の描写
1枚1枚ぎっしりと詰まった文字、ちょっとくどいくらいの繰り返しもあり
読み終わるのに時間がかかった。
その中で救われたのは、北斗の里親になった綾子さん
2人目の被害者の祖母、二人の老婆の言葉だった。
人は自分を糾弾する言葉より、赦す言葉の方が自分の行いを
心から反省し、成長していけるのだと今さらながらに思い知った。
これは子育てにも生かしていきたい。
死刑制度については、やはり難しいとしかいいようがないが
北斗については、私はこれでよかったんだと思う。
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さすが、石田衣良という作品。
この長さで、この内容。上手い。
一人の少年が成長し、殺人を犯し、裁判を受ける。裁判まではすらすら読めるが、裁判に入ってからは少しつらい(実際の裁判もそうだが、長い)。すこし飛ばし気味で読んでしまったけれど、主人公の北斗の内心や考え方が実に読みやすく、共感しやすかったように思う。
最後の裁判の判決がちと首をかしげてしまったが、21歳という年齢を考えると妥当なのか?そこだけが気になるところだった。
読める子ではないとちとつらいかもしれないが、特に男子に進めたい。
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石田さんの長編となると1800円かあ~橋爪至高と美砂子のあいだに一人っ子として生まれ,言葉に尽くせぬ虐待を受け,抱きしめられることもなく育った北斗は,詐欺紛いのリフォーム業に勤める父が精神を病み,精神科から総合病院に移って膵臓癌で亡くなって解放されたが,支配を求める母に暴力を振るって殺してしまうのを恐れ,児童相談所の福祉司に相談した。施設に入ることにすんなり母は同意し,数ヶ月の内に里親も見つかったが,信用できる大人か試しに試して,60代の近藤綾子をお母さんと呼び,ただ一つの命綱を得た。先輩の里子・明日実がやってきて,同じ雰囲気を漂わせている。大学にも合格し,高尾山にハイキングに行って帰ってくると,綾子は急速に体調を崩し,検査の結果,肝臓癌だと診断された。告知すべきかは明日実に相談したが,愛する者を失う怖さに震え,必死で看病する二人の許に学校時代の友人が波洞水を見舞いに持ってきた。抗癌剤を早く排出することに効果があるということだが,医学博士が作る銀は1㍑1万5千円,金は3万1500円,プラチナは5万2500円するのだが,利くような気がすると喜んで飲む綾子に為にせっせと北斗は注文し,生活費が底を尽き,綾子が貯めた学費にも手を付けた。4月上旬,花見の後に綾子は亡くなり,北斗は利かない水を売った博士・生田友親に復讐したいかと訊く北斗に綾子は頷いたような気がする。生田を殺す決心をした北斗は秋葉原でナイフを2本購入し,横浜の波洞研究所を訪れて下見を済ましたが,生田の周りでは詐欺の疑いも掛かっている。2度目に訪れた研究所を生田は事情聴取で留守にしており,ナイフを見られた北斗は女事務員をサバイバルナイフの一突きで心臓を止めてしまった。看護婦が様子を見に来て,逃げ出すのを追い掛け,若い看護婦も滅多突きにして殺してしまったが,肝心の生田は帰ってこない。みなとみらいのホテルに籠もっていることをテレビで知った北斗は,ホテルに花のデリバリを装って電話をし,部屋番号を聞き出し,翌朝出向いたが,待ち伏せしていた警察官に取り押さえられてしまう。死刑を覚悟する北斗だが,明日実も国選弁護人の高井も生きて償うべきだと主張する。生育歴に問題があることをアピールするため5年以上も会っていない実の母も証人となった~児童虐待に,末期癌患者を食い物にする紛い物の医療行為,死刑廃止論を絡ませて,如何にも石田らしい展開
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家庭とは、心がホカホカと暖かい気持ちになって、「早く帰りたい」と思うところなんだろうな。それが理想の家族であり家庭だ。でも、現実として、その様な家庭ばかりではなく、真逆だってあり得る。誰も、始めは理想の家庭を夢見、目指すのに。
この本の主人公は二人を殺した犯罪者。
彼は理想とは真逆の家庭で育ち、大人になった。なぜ罪を犯したのか?そして彼には情状酌量の余地があるのか?
現実世界を生きている身としては、幸せな家庭を構築せねばと強く動機付けされる。