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2008年12月16日購入
淡々として味わいのある作品である。
何ということはない事を書いて面白い。
事件は起きるがその事件とのかかわり具合が
あっけらかんとしてなんだか清々しい。
日記を書くなら
このように書いてみたいものだと思う。
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特に大寺さんのシリーズがいい。この作品の良さが分かる(100%でないにしても)本読みになれて良かったと思う。
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小沼さんの分身的な大寺さんシリーズ。友人や動物や妻といった日常の話。ユーモラスだけど、切なくて、でも悲しいだけじゃないし、人生の楽しみも感じるけど、やっぱりどこか切なくなるような話。
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サスペンスぎりぎりのところで平凡な日常に踏みとどまっているようなバランス感覚。昔の新聞の四コマに出てくる暢気な父さんのような人物造形。何だか好みだ。
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地面にどっかりと腰をおろしている小説である。それは怠惰ということでなくて、地面に接する面積が多いという事、即ち生きている者の生活が誠実に描かれている。
言うなれば四角錐なんだけれども、そこに何らかの死が通過していく。
四角錐に落とされた雫のように、重力に逆らわず通過するのだ。
どれも良いのだけれど「黒と白の猫」「蝉の脱殻」「砂丘」「影絵」「ギリシャの皿」がとりわけ好きです。
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私にとって2作目となる小沼作品です。「黒いハンカチ」で描かれる茶目っ気とユーモアとに惹かれて読み始めた作家ですが,この作品ではそれらとは違った雰囲気を楽しむことができました。
全部で11の短編が収められている本書の雰囲気は,最初の短編「黒と白の猫」で味わうことができるように思います。「学校」に勤める主人公・大寺さんの過ごす何気ない日常の中に,近しい人たちの死が入り込むさまを静かに描いているこの短編は,作者本人の言う通り「いろんな感情が底に沈殿した後の上澄みのような所」と呼ぶにふさわしい雰囲気をまとっていますが,それがなんとも言えない感慨を感じさせてくれるのです。大寺さんや他の人々が発する言葉の一つ一つから,悲しみや愛情や様々な感情を感じ取ることができ,本当にすっきりとした作品になっていると感じました。
途中,「エジプトの涙壺」「断崖」「砂丘」といったサスペンス風味の強い短編が挟まれますが,この3つの作品で水面上に浮上してきた感情は後半の4編では再び奥底へと沈み,静かな雰囲気へと戻っていきます。本書の真ん中に配置されたこれら3編に私はすこし面喰ったものですが,後から考えるとこの配置はとてもよかったと思えます。
人と,時の流れと,死と,そういったものを淡々と描くさまは,まるで「凪」のようです。しかし情景の裡に登場人物のほのかな心情をよく表した文体は,静かに,そして切実に,読む者に迫ってくる。本書から私はそんな印象を受けました。最後に載っている解説と作家案内とまでを読めば,この作品たちの奥深さをさらに知ることができるでしょう。
(2010年10月入手・2012年5月読了)
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[ 内容 ]
大寺さんの家に、心得顔に一匹の黒と白の猫が出入りする。
胸が悪く出歩かぬ妻、二人の娘、まずは平穏な生活。
大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村さん。
病身の妻を抱え愚痴一つ言わぬ“偉い”将棋仲間。
米村の妻が死に、大寺も妻を失う。
日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。
[ 目次 ]
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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文体と文章を味わい その先に何も求めない。
小沼丹氏の創作態度そのものを
とても心地よく感じた。
「黒いハンカチ」以来2冊目だが
氏の文体を味わうことの快適さは
漱石を読むときに似ているような気がする。
作者の世界が目前に広がる…その先に主張はない。
このような文学 空気感 時代感 私は大好きだ。
久しぶりに氏の作品に触れたが
これからも できるだけ多く読みたい。
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朴訥とした文体…と思いきや、
風とか小川とか、そういう物の「さらさら」と
流れていく様な、読んでいて非常に心地の良い
美しい(雅やかとは異なる)短編集です。
テーマに死を扱う割にはふんわり・さらりとしていて。
なにより大寺さんの静かな「日常」が、
そして優しく繊細な視線がいとおしい。
表題「懐中時計」がとてもよかった。
こういうの、あるある、と思ってしまう。
兎に角漢字の使い方や日本語がきれい。
原稿用紙に写してみたくなります。
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昭和30~40年頃に書かれたものからか、文体が変わっていて、読み進むのが面白かった。
主人公・大寺しんが妻を亡くしたころや、友人との語らいの様子を描いたものを含めた短編集。
解説を読むと文体の不思議さは時代によるものでなく、小沼丹さんの個性によるものである様子。
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なんとも言えずいいです。日常に死がやってきて、その中を日々静かに過ごしている大寺さん。ありそうでないです、こういう雰囲気をまとった小説は。
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前々から辺りの友人達が「面白い面白い」言うていたので気になっていたのだが「貸してくれ」の一言が言えず、若しくは言ったけれども機会に恵まれずだったか、読めていなかった。漸く。
素晴らしい。
もっとしっかり感想書きたいのに言葉が出てこない。ただ何度も心がキュッとなった。盛者必衰と言うのかな、皆んな死んじゃうことの寂しさが。
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うぅん、洒脱。それとどこかアートの香り。
庄野潤三の様な“静”の小説家には間違いないが、作中で登場する謎と、解明も無くプツンと終わる話の様式が心地良い。特に表題作、『黒と白の猫』辺りは格調高い名作。
他作も確実に巧いんだろうなと、読者の信頼を引き出させる一冊だった。
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「黒と白の猫」からの四編は、いわゆる大寺さんもの。
妻の突然の死。しかし声高に悲しみが描かれることはない。
ー兎も角、死ぬにしてもちゃんと順序を踏んで死んで呉れりゃいいんだけれど、突然で、事務引継も何もありやしない。うちのなかのことが、さっぱり判らない。
ここだけ読むと、奥さんの死を悼んでいないように取られかねないが、一見淡々とした言葉の連なりの中に作者の悲哀や喪失感が感じ取れる。
「エヂプトの涙壺」「断崖」「砂丘」の三編は、男女関係にまつわるサスペンス味豊かな作品。本書の中ではかなり異色な感じ。
表題作の「懐中時計」。時計をなくしてしまったところ、友人が懐中時計を売ってあげるとなったが、値段の折り合いがつかず、その後もちょっとした交渉はあったものの本気にならずに時は過ぎる。そうして10年が経つうちに友人は突然亡くなってしまう。何が起きる訳ではないが、人生とはこんなものかと考えさせられる。
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大好きな小沼丹。
途中まで読んで数年放置、最後までやっと読めた。
毎日寝る前に少しずつ読んで、不思議な気分になった。
突然奥さんが亡くなる大寺さんシリーズが含まれており、全体にほのかに死の匂いが漂う。
でも淡々と時間と生活を描いていて、ここにしかない境地なんだなと思う。
明るくはない、湿っぽくもない。
本人の後書きによれば、このころ、なにを書くかではなく、何を書かないか、を考えて書いていたらしい。
エヂプトの涙壺、影絵あたりが好み。
小沼ワールドに浸ると接続詞まで漢字で書きたくなる。
真逆はマサカ、フトは不図。
これが母語で読める幸せ。
もっと読みたいけど、講談社文藝文庫は高いんだよね。
その分の価値はあるんだけど、一冊1200円はやや躊躇する値段です。