紙の本
字幕は言わば翻訳の「芸」なのである
2010/02/26 22:24
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画の字幕翻訳者のエッセイである。タイトルを見れば凡そどんなことが書いていあるのかは想像がつく。
字幕というのは単なる翻訳ではなく、限られたスペースに、限られた時間で読める、限られた字数の漢字と仮名で、外国語の意味を日本語の意味に置き換える作業である。そういう厳しい制限の中で繰り広げられる、言わば翻訳の「芸」なのである。
僕自身も洋画を観ていて、「おお、直訳としては邪道だけど、意味と雰囲気を同時に伝える見事な字幕だ!」と感激したり、「ははあ、限られた字数の日本語にするには、こう訳すしかなかったか。なるほどなあ」と納得したり、時には「それは違うだろ」とひとりごちたりしていることがある。明らかな誤訳を指摘するメールを配給会社に送ったこともある。
普段からそういう風に字幕に対する関心が強い人間にはなかなか面白い読み物であった。実は濃霧で飛行機の出発が遅れたときに空港の売店で買ったのだが、一日で読んでしまった。
ただ、僕が読んで驚いたのはここで紹介されているような個別の翻訳のテクニックではない。そういうことは読む前から想像のつくことだった。僕が驚いたのは、作者が英会話が得意ではないと言っていること、そして、辞書を引きまくって字幕を完成していると告白していることだった。
僕は字幕翻訳者というのは口語英語のかなりの使い手で、もちろん仕事に辞書は用いるだろうがもっぱら耳で聞いて書き下しているものと思っていた。ところが英語の映画の場合はほぼ100%英語の台本があって、それを見ながら訳して行くと言う。考えてみれば当然なのだが、初めてその事実を知って驚いた。そして、英語を職業としている人が、英会話はからっきしダメなどと平然と書いていることにさらに驚いたのだが、それは多分、字幕翻訳は単なる逐語訳の作業ではないという作者の自負の裏返しなのではないだろうか。そういう論点はすんなりと頭に入ってくる。
そして、終盤で作者がもうひとつ語気を荒らげて嘆いている点──それは昨今日本人の読解力が落ちて幼稚化しているということ。これもなるほどという感じで説得力がある。
こういう主張を通じて、この本が単にテクニカルなものに終わるのではなく、映画産業や文化を論じるに至っていることに、1映画ファンは好意を抱きながらこの本を読み終えたのであった。
by yama-a 賢い言葉のWeb
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映像字幕の世界がそんなに窮屈だとは知りませんでした。言葉の世界は難しいですね。今後、字幕には寛大になります。
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飛行機の中で読みました。さらっと読めて面白くて丁度良かったです♪
字幕屋さんは、もっとじっくり時間をかけて字幕を作るのかと思ったら、ホントにあっという間に作ってしまうみたいですね。
ニュアンスを買えずにセリフを変える、そのセンスの素晴らしさに感動しました。。
私みたいに日本語の語彙自体が貧困な人間には絶対出来ない職業だと痛感しました笑
ちなみに私は、洋画はDVDを借りて、字幕・吹き替え両方見ます。24もそうしたので見終わるのに恐ろしいまでの時間を要しました(汗
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非常に共感できる。それくらい漢字にしてくれとか、語彙が少ないとか思わなくもないが、色々苦労されているようだ。「すばらしき愚民社会」とある意味同じようなことをいっているのだが、非常に分かりやすい。分かりやすさを求めているあたり自分も愚民なわけだが。吹き替えと字幕があるなら当然の様に字幕を選ぶ自分はここでもアブノーマルなのか。
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拙ブログに感想があります。
http://blog.so-net.ne.jp/shachinoie/2007-03-11
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映画の字幕作成20年の大ベテラン。どのページを開いても、楽しい話題満載。そして「要約のヒント」が隠されている。
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痛快ですね!
字幕のこともよくわかったし、日本語についても考えることができるし、一石二鳥でした。
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字幕をつくる、という仕事がよくわかります。こんなこと書いて大丈夫かな‥と心配しつつも、おもしろく読みました。
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げっ、と思ったのは配給会社の方で「感動」しやすいように原語では言ってもいないことを言わせたり史実を曲げた内容にするようにしたりするよう要求が来るというくだり。それだけ安直に「感動」したいバカが多いということ。どうも原語で言っていないことが字幕に出ることがあるけど、なんでかと思ったらそんな事情があったとは。
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意外に知らない「字幕屋」という仕事。「一秒=四文字」の制限と、迫り来る日米同時公開の短い短い締め切りに追われながら、限られた字数の中に、いかにたくさんの情報をいれられるか、字幕屋の腕の見せ所。
しかしながら、セリフを削れば意味は一緒でも「原文と違う!」と文句を言われ、配給会社からは「ここは感動的な台詞を!」と原文と全く違う意味での言葉の要求をされる・・・。考えに考えて、その一文字をこだわりぬいて、字幕を作っていく。
その一文字に拘りぬく字幕屋だからこそ、日本語が気になる。テレビ欄にたくさん並ぶ「!」の文字、「お受験」「お取り寄せ」等の丁寧すぎる「お」つけすぎ、テレビのテロップに流れる「だ捕」「ばん回」のまぜ書き、なんだかばかにされてないか・・・。
銀幕の片隅から「ちょっとこんなことも考えてるんですが?」という字幕屋からのメッセージ。よく知らない職業だけに、裏話が面白い。
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文句なくおもしろい!
そして太田さんのキャラ、好きです。
「あきらめずに、すくい続ける」ざる知識のススメは見習いたい。
過度な営利主義に対して「なにかを売るというのは、その商品を大切に扱うということのはずだ」という指摘、
過度な効率主義に対して「プロとしての誇りはないのか」という批判、
まさにその通りだと思う。
私が最近憤っていることを代弁しているかのよう。
某会社の人たちに読ませたいです。
それに限らず、最近の世の中の営利主義と効率主義には
ほとほと嫌になります。消費者なめんな。
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痛快・爽快!
字幕仕事の舞台裏をちらちらとのぞかせながら、字幕業界や日本社会全体の日本語についてユーモアと皮肉たっぷりに書いています。
とにかく、面白かった。この一言に尽きる。
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字幕屋さんも大変そうですね。これだけ言葉選んで字幕作ってるって事は、字幕に出てくる日本語がわからなければ相当問題ありってこと?!
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男「どうしたんだ」→五文字以内女「あなたが私を落ち込ませてるのよ」→五文字以内男「僕が君に何かしたか」→五文字以内(略)そこで、こんな字幕が出来上がる。男「不機嫌だな」女「おかげでね」男「僕のせい?」(p34-5)これまで何人もの「日本語に堪能な外国出身者」の和訳を見てきてわかったのは、「日本語の文章を書くうえで一番難しいのは性別や年齢や立場の違いを表す言葉の使い分けらしい」ということ。(略)「どうかなさったの」と言っていた名門のたおやかな令嬢が、次のページでは「わたしが悪かった」とオスカル化していたりする。(p41)
字幕の字数制限のために、日本語の字数を刈り込むことに日々職業的に励んでいる著者が気づく、最近の変な日本語。無駄な「お」「さん」「(笑)」「させていただく」「!」ルビ…。字幕が読めない人の前に立ちふさがる「文脈の壁」「教養の壁」「流行の壁」。そして売るため泣かせるための字幕の「押し読ませ」…。本当にご苦労、お察し致します。字幕に文句をつけたことのある人、この一冊を読んでみなさい。
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立ち読みました。でも面白い!翻訳でも本を訳すのと映画を訳すのではまた全然違って、それなりの工夫や苦労があるんだなぁと。何文字以内にしなきゃいけないとか、日本語音声用の字幕だったら口の形もあわせなきゃ、とか。大変…。