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紙の本
― イギリスはおいしいが、品格は難しい。 高校生なら読む価値ありか・・・ ―
2009/03/20 01:04
8人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:レム - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「イギリスはおいしい」で一躍有名になった書誌学者のリンボウ先生こと林望氏の著書だ。 ひところ書物のタイトルにずいぶんと「品格もの」が流行ったが、最近もちらほら出版されているようだ。 リンボウ先生も品格に関する著書を何冊か書かれている。 なお、本書は、NHKの「知るを楽しむ」という番組から起こした本だそうだ。
本書の中で、林氏は自著「イギリスはおいしい」が売れた理由を「離見の見」の哲学を持ち出して説明している。 すなわちこの本の書きぶりが、食文化論にありがちな自己中心的なものではなく客観的表現を用いて語ったがゆえに、多くの読者が引き込まれたのだと考察して自賛している。 それはそれで一つの評価かもしれない。 本書では触れられていないが、ではその客観性をどのように身につけるのか、という点が実は難しいのだが。
この「離見の見」は、世阿弥の『花鏡』にある言葉で、能楽に造詣が深い林氏はこれをさらりと用いたのだろう。 だが『花鏡』には「見所より見る所の風姿は我が離見也 」「離見の見にて見る所は、即、見所同心の見也 」と書かれており、単に第三者的見地を持つべしということのみではなく、自己の殻から離脱して観客と共に視点と価値観を共有し、観客の目線の先を読む(ことで自らの能を舞う)ことが示されている。 林氏のように高い教養がある方は、一言一言に深いバックグラウンドがあるのだから、本書ではそこまで踏み込んだ解説が欲しかった。
そもそも社会生活一般に、多かれ少なかれ何らかの品格は必用とされる。 したがって品格を考えることは特に問題ないだろうし、「品格もの」の本も数多い。 但し、である。 品格を形から手に入れようとしたり、ましてや安易に手に入れようとしたりする考え方、つまり品格を高めること自体を目的対象とする行為があるとすれば、視点がずれていると思う。 例えば、ある人に教養があってそれが品格に現れている場合は、その人が手に入れたのは品格ではなく教養と謙虚な態度だ。 言い換えるならば、教養は身につけるもので、品格はその結果内側からにじみ出るものだろう。 そういう意味で、品格ある文章はそうたやすく書けるものではない。
いわゆる一般の「品格もの」の本の中には、品格を論じつつも行儀(マナー)と混同しているものが少なくない。 ところが文章は、行儀がそのまま品格になって現れてしまう性質もあるので、そこが文章において品格を語る上での難しさなのかもしれない。 ところで、林氏は同じ原稿を複数の雑誌に投稿したりしているが、そういうご自身の姿勢は物書きとしての品格に関わらないのだろうか・・・。
それはさておき、本書の内容は世間一般にある「文章の書き方」物と大差ないものの、古典を含む優れた作品から文章を学ぶことや、いくつかの文章の極意について書こうとしている内容が無難である点で、これから小論文など書き始める高校生には参考になるかもしれない。 より高いレベルを求めるならば、林氏の『文章術の千本ノック-どうすれば品格ある日本語が書けるか』 の方がお勧めである。
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