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古代ローマ・五賢帝時代の概説書。
五賢帝時代というと、ギボンの「人類が最も幸福だった時代」という言葉に象徴的に表されるように、一般的には
・「養子皇帝制」に立脚し、有能な皇帝が5代続いた政治的に安定した時代
・版図は最大化し、大きな軍事的な混乱のなかった時代
・上記に立脚し、人々はパクス・ロマーナを享受していた・・・
と言ったイメージが連想されるし、事実学校教育ではそれに近いことを習った記憶がある。
本書の特徴は、「プロソポグラフィー的研究」の手法を用い、後世書かれた史料からだけでは分かりづらい当時の政治支配層の動向を描き出し、そこから当時の政治状況を分析している点である。
この結果、本書では五賢帝の時代が、冒頭述べたような安定と平和だけの時代ではなく、大いに陰の部分を持った時代であったこと。
ひいては後に続く軍人皇帝時代という混乱期の種がまかれ始めていたことを解き明かす。
まさに目から鱗の一冊で、著者の丹念な調査と論旨展開に引き込まれる。
高校世界史で植え付けられた五賢帝時代や、5人の各皇帝のキャラクターに対するイメージが大きく揺るがされる。
ネルウァは不安定な政治基盤のうえで苦悩し、トラヤヌス即位の陰には大いなる政争があったことを伺わせる。続くハドリアヌスも即位の際にも本人のコントロール外で争いがあったようだし、この両皇帝はその経緯が即位後の政策にも反映されているようである。
これらを受けたアントニヌス・ピウスの用意周到な後継者選びも当時の政治動向を大いに反映しているようだし、これらの経緯を見るとマルクス・アウレリウス・アントニヌスが実子のコンモドゥスを後継に選んだのは当然の措置だと分かってくる。
五賢帝時代は、共和政末期や帝政末期に比べると詳細に語られている本自体少ないこともあり、この時代の政治史を掴むうえでは必読の一冊だと思う。
また誰かが書いた歴史以外の史料から歴史を再構築するという点で非常に刺激を受けること請け合いである。