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いつもはしれーっと新刊が出ている印象の高野氏だが、今回は待ちに待った!というか、本人が気合いを入れて宣伝をしているのがよく分かり、それだけに読者としても高野氏の本としては珍しく(?)襟を正してページを読み進めた。
第一章と第二章はあらかたWebで先行配信されており、第三章以降が本書にて初公開となっている。
私は高野氏の著書の中でも最も面白いのは【アヘン王国潜入記】と【西南シルクロードは密林に消える】だと思っているが、断言しよう。本書はその両作に匹敵する傑作である。高野氏の代名詞である「誰も行ったことのない場所に行き、誰も書いたことのないものを書く」というスタイルがここまで一貫しているのは、ミャンマー以来と言っても良いだろう。
2つの作品の共通点は何と言っても「麻薬」である。ミャンマーではひたすらアヘンを、ソマリランドではカートをひたすら嗜む。私もよく海外を旅する方なので分かるが、こうしたアプローチは中々できるものではない。まずもって、「麻薬ダメ絶対」的な価値観の日本にどっぷり浸っていると、どうしても無意識に麻薬的なものを遠ざけてしまう。もっとレベルを落として、現地の酒だとか、ゲテモノ系の料理もモノによってはしんどい。例えそれが、現地の人にとって日常的なものであっても、その壁(=文化差)を乗り越えるのは結構勇気がいることなのである。
しかし、高野氏は最初からアクセル全開でこの壁を突破する。(もともと本人が好きなのだと思うが)ヒマさえあればひたすらカートを食む。やり過ぎてカート二日酔いになっても、迎え酒とばかりにカートを食む。そうして、現地人との交流を深めていくのである。
「同じ釜のメシを食う」とは良く言ったもので、こうして、同じ生活リズムを刻む事でソマリ人たちは高野氏に心を開き(「心を開く」という表現が本書でふさわしいかどうかはさておき)、ソマリ文化への深き探求、はたまた日本社会への問題提起まで昇華させている。同じ日本人が行っても、とてもこうはならないだろう。
言語習得能力、文化への深い洞察などは相変わらず。ソマリランドどころかアフリカに全くなじみのない私でも十分に楽しめた。ブログなどを拝見する限り、高野氏はこのソマリランドへの旅をきっかけに人生の大きな転機を迎えたように思う。ソマリランドを経て、今後高野氏がどこへ向かうのか、注目したい。
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力作。
あとがき、「ソマリランドを認めてやってほしい」という言葉に集約されている。現場を踏んだ取材で、未知の土地を次第に知っていくスリルは何物にも替え難い。
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高野秀行最新作。
独立国家ソマリランド、海賊国家のリアルONE PEACE・プントランド、リアル北斗の拳モガディショ。氏族社会のソマリアを日本の戦国時代となぞらえ、とても分かりやすく解説している。
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すごいすごい
高野秀行に最高傑作では?
もう怪獣を探す旅なんかには
出かけないんじゃないかという
寂しさはあるけど・・・
味わいとしては
「ヤノマミ」「ピダハン」の
違う社会の違うルールを知り
目からウロコがたくさん落ちる感じ
しかもあくまで面白く
伊達家とかのたとえは
著者の努力にもかかわらず
読み流してしまったけど
ソマリランドの独自の民主主義とか
ソマリアの現状
欧米のマスコミの伝える側面を
違う側から説明するところとか
もう
こんなにも
社会にとけ込むなんて
インド旅行に苦労した自分には
すごいなあと思った
図書館で借りてしまったけれども
たくさん売れてほしい本
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著者の本はほとんど読んでいるけど、これは新しい代表作だと思う。やることはいつもといっしょで、未知の場所へ行き、言葉をおぼえ、現地の人と食べ、飲み、働き、風習や文化にどっぷり浸かって真の姿に迫っていく。その集大成と言える本(いままでで一番ぶ厚いしね)。複雑きわまる氏族社会を日本の戦国時代にたとえて飲み込みやすく説明する手際も鮮やか。なんかとんでもなく危険でぶっ壊れた国、という漠然としたソマリアへの偏見が次々に壊されていくのは爽快だった。濃密な力作である分、一気に読むには疲れるので、同じ著者の『移民の宴』で小休止をはさみながら読んだ。
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どーんと分厚い外見通り、読み応えがある。まさにこれは「読む前と世界が違って見える」本の一つ。高野さんの代表作になるだろう。素晴らしい。
「ソマリランドって、ソマリアの近く?ソマリア沖って海賊の出没するとこだよね?」程度の知識しかなかった私は、WEB本の雑誌に連載されていた第1章第2章のソマリランド入国記だけでも、十分驚きで至極面白かった。崩壊国家のただ中で内戦を独自に終結させ、二十年も平和状態を維持しているのに、国連が認めずほとんど知られていない国ソマリランド。「未知」「未確認」とされるものをその目で確かめずにはいられない高野さんが、入国を果たし、日本人とは対極にあるような強烈なソマリの人々に翻弄されながらその社会の有り様を身一つで調べていく。奇跡のような平和はどうやって作り上げられたのか。
このソマリランドルポが実は導入にすぎない、というのがまあ何ともすごいのだ。同じソマリ人が作る海賊国家プントランド、戦火のただ中にある南部ソマリアへと高野さんの探査行は進められていく。ここが高野さんの真骨頂、とにかく「自分の目で見る」ことをモットーにし、「悲惨な内戦」という出来合いの先入観を持たずに、ずんずんとその実態を明らかにしようとしていく。もうここはとにかく読んで!としか言いようがない。大迫力である。
しかしながら、そこはそれ高野さんである。こんなにとてつもないルポなのに、やっぱりいつもの「スットコテイスト」(Pipoさんお借りしました。これは秀逸!)が漂っているのがおかしい。何度大笑いしたことか。ジャーナリスト然とした傲慢さとはまったく無縁なところが、我らが高野さんの高野さんたる所以だ。
それにしても、最近これほど色々考えさせられた本はない。帯に「西欧民主主義敗れたり!」とあるが、自分の世界の見方、ものの考え方がいかにその「西欧民主主義」的であるかということをあらためて痛感した。まったく世界は広い。思いもよらない様々な価値観を持つ人々がいて、世界を覆う(と私たちが思っている)欧米的な「常識」を軽々と無視して成り立つ社会がある。無政府状態で中央銀行もないのに強く安定した通貨(ソマリア・シリング)を持つ国なんて考えられるだろうか。インフラは整い(なんとか、ではあるが)、みんなが携帯電話を持ち、食料は豊富でおいしい。ないのは政府だけ…。
国なんかなくてもちゃんと暮らしがあり、笑ったり泣いたり、真剣だったりいい加減だったりして人々が生きている。これはちょっと衝撃だ。私たちは、いかに多くのことをなくてはならないと思い込んで、閉塞感に浸っているのだろうと思わせられる。高野さんの書かれるものにはいつも、権力や権威をするっとかわしていく自由な風が吹いていて、そこが好きだなあ。
そういう持ち味が一番よく出ているのが、最後に書かれているこれから何をしたいか、というところ。高野さんは、国際社会がソマリランドを支援することを望んでいる。それが「平和になれば、カネが落ちる」というソマリ社会への明確なメッセージになるからだ、と。そして…
「もしソマリランドに援助や投資がなされるなら、私は日本で唯一の、��して世界的にも数少ない外国人のソマリ専門家として是非参加したい――とは露一つ思っていない。
私がやりたいのは未知の探索だからだ。
今考えているのは、ソマリランド東部の、ブントランドと国境を接する地域をラクダで旅することだ。……」
これには拍手!あくまで「未知への冒険」を指向しているところがいいなあと思う。
× × × × × ×
行ってきました!「ソマリランド」刊行記念トークイベント。楽しかったなあ。コーフンさめやらぬまま、とりあえずイベントの様子を書き留めておきたくなりました。
二日にわたって行われた大阪でのトークショー&サイン会。その二日目は丸善・ジュンク堂書店梅田店7階のこぢんまりとしたサロンが会場だった。ジュンク堂は大阪に何店舗かあるけれどここが最大規模。何とこの日は高野さんのイベントと同時並行で、建築家の安藤忠雄さんのサイン会が行われていて、夕方からは桂文枝さん(三枝さんね)のサイン会もあるんだとか。高野さんもこれには驚かれたようで「一人だけビッグネームじゃないけど」と笑っておられたが、いえいえ、一番喜んでたのは絶対高野さんのファンだと思います。
だってトークショーはたっぷり一時間半、その後のサインも一人一人と話をしながら丁寧にしてくださって、感激ものだったのだ。私は一番好きな「ワセダ三畳青春記」を持って行って、厚かましくもこちらにもサインをお願いしたのだが、快く大きくサインをいれてくださった。ジュンク堂の店員さんの「それ面白いですよねえ」の言葉に思わず「十回くらい読みました!」と言ってしまい(本当なんです…)、すると高野さん「僕より読んでますね」だって。
さて、肝心のトークショーだが、お相手は「本の雑誌」の杉江さんで、これまた嬉しかったなあ。杉江さんはとっても若々しい文学セーネン風のイケメンで、おお、こんな人だったの!と驚く。もっとオジサンだと思ってたのよ。意外といえば、高野さんもそうで、風貌は写真なんかで見るとおりなんだけど、低音の落ち着いた話しぶりがすごく知的な感じ。もっとこうハイテンションな感じをイメージしていた。いやあステキでした。
おっと、トークの中味中味、これはもちろん「ソマリランド」取材の裏話的なもので、本の内容に期待を抱かせる濃い内容だった。京都人みたいなエチオピア人と、人の話を全然聞かないソマリ人っていうのがおかしかったなあ。随所に笑いを交えつつ、でも、紛争地帯というと一面的な報道しかしないマスコミや、とにかく危険と言っておく外務省の姿勢なんかに触れたときの話は、高野さんの硬骨漢ぶりがうかがえて印象的だった。
おお!と思ったのは、最後のほうで今後の執筆や行動計画に話が及んだとき。少し前に出た「未来国家ブータン」はとっても面白かったが、ブータンについてもう一冊書く予定なんだそうだ。その内容というのが、何とブータンは十年ほど前に戦争をしていて、あまり知られていないその実態について調べて書きたいとのこと。ブータンが戦争?それだけでも驚きだが、なんとそれが「相手から恨まれない戦争をする」というコンセプトだったんだって!この日聞いた話だけでもたいそう面白かった。早く読みたいなあ。
もう一作はイランについて、「学園国家イラン」ってタイトルだけ決まっているそうだ。この話がまた、いたく私のツボだった。高野さん曰く「イスラムというのは校則のめちゃ厳しい高校だと思うとわかりやすい」。うーん、これは私がこれまで聞いたどんなイスラム論より納得できるものだ。これも刊行を楽しみに待ちたい。
高野さんは「大阪の人はトークに厳しいと聞いていたけど、とても温かく迎えてもらった」とおっしゃっていた。「万博公園の太陽の塔を初めて見て感激した」とも。是非またいらしてほしいものだなあと思いました。
さあこれから「ソマリランド」を読むぞお。
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「民主主義」「平和維持」の「別解」を見せつけられているような感じがした。しかし、よく考えてみるとこの「別解」も全くの異次元からやってきたものではなく、我々がかつて過去に
通り過ぎて忘れてしまったものに非常に近いことに気付かされる。
などど難しいことを考えなくても、著者の「郷に入っては郷に従う」ぶりの面白さ、ソマリアの謎がジグソーパズルのピースを嵌めるように著者の中で明らかになっていく様は読んでいて痛快だし、著者が最後に至った境地にもうなずいてしまう。ボリューム満点だけど一気に読めてしまう本である。
2013年6月追記:先のアフリカ開発会議(TICAD V)においてアフリカへの投資が話題に挙がったが、皮肉にも、アフリカの投資案件の中で投資リスクとか利益構造が最もはっきりとしているもののひとつが海賊ビジネスだったりすることを本書は雄弁に語っている。さて、これをどう見るかだが...。
2013年12月追記:友人に貸していた本書が帰ってきたのでつい手に取ってしまい二周目の読了。試行錯誤と多大な犠牲の上に自らの手で作り上げた民主主義の凄さと、それを維持するためには多大な努力を続けなければならないことを再認識。
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20130309~0618 兎に角面白い。分厚いけどサクサク読める。持ち歩きには不便なので、もっぱら家読み。
ソマリア・ソマリランドの氏族社会とハイパー民主主義の実態が良く分かる。
氏族の名前に便宜上でしょうけど日本の戦国武将や大名の名前をつけるのは分かりやすいけどちょっと混乱しちゃうかなあ。
高野さん、更なる探検頑張ってください!!
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大作である。間違いなく著者の代表作となるだろう。正直言ってソマリアと聞いて思い浮かぶのは崩壊国家であり、首都モガディシュの通りを引き摺り回される米兵の死体の映像と、その直後の米軍撤退でしかない。現状がどうなっているのか分らない地域へ分らないからこそ単身飛び込む著者の姿はビルマ三部作と相通じるものがある。ソマリアの混沌を解くキーワードとして氏族を導入したのは卓見だと思う。思うのだが覚えられない!各氏族間の関係がどうなっているのかは自分でチャートでも書かない限りすんなりと頭に入って来ない。再読必至の超骨太本。
『無政府状態になり中央銀行もなくなってからシリングはインフレ率が下がり安定するようになった。なぜなら中央銀行が新しい札を刷らなくなったからだ。』『ボロくなりすぎた札は捨てられるから総数は減ることはあっても増えることはない。』φ(.. ) ホ―ナルホドネ??
『現ソマリア~プントランドと南部ソマリアをこう呼ぶことにする~というのは本当に不思議ば地域だ。中央政府は二十年も存在しないのに、電話会社もあればテレビ局もあり航空会社もある。普通の国にあるものはここにもたいていある。ないのは中央政府くらいだ。』φ(.. ) 種明かしがあるのかな? (2013年04月08日)
『ソマリランドは遊牧民の国家だ。地方に住む本物の遊牧民だけでなく、都市部の人間も頻繁に移動しながら暮らしている。住所も本籍もない。』φ(.. ) 併読中の「中国農民の反乱」とは真逆の世界!★税金も払わなくていいのかなあ?? (2013年04月07日)
いやあ、噂に違わぬ面白さ!このままだと徹夜してしまいそうなので、一旦中断してドラマを1本見て寝よう!今日の一言:『遊牧民は荒っぽくなければ生きていけない。速くなければ生きている資格がない。』φ(.. ) メモ
さて満を持して今日から読みますか!それにしても文庫本派の私から見ると、ハードカバー500頁はぶ厚いね。これは凶器として充分使えるよ。^^;
昨日届いた本の書評。『彼は初めから自力で旅をすることを放棄しているのだ。(中略)旅の主導権を完全に地元の人に委ね彼らに守られながらモノが運ばれるように旅をする。』φ(.. ) これは鋭い指摘だと思う。RT 『謎の独立国家ソマリランド』 http://honz.jp/23795 (2013年04月02日)
『謎の独立国家ソマリランド』予告編映像完成! これを見たら絶対本が読みたくなる!http://bit.ly/Zzoa2A (高野秀行氏のツイタ―より転載)★アマゾンで注文しようかな?(^-^)/ (2013年03月17日)
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リアル北斗の拳か、はたまたラピュタか…?
アフリカの、謎に包まれた「ソマリランド」の体当たりルポ。
ややこしいことをわかりやすく、面白おかしく書かれていて、面白ルポタージュとして読めます。
しかし、ソマリランドの状態の考察からは西欧にがんじがらめになっているイデオロギーへの批判も浮かび上がってきていて、現地で体験したからこその作者の熱い思いがにじみ出ています。
理屈抜きでも面白いし、深く読んでも味わい深い、最高な一冊でした。
どんどんソマリ化していく高野さんも見所です。
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超絶お勧め。こういう本と巡り会うために人は読書するのだと言っても過言ではないと思う。高野氏の本は表層的な意味ではエンタメ本なのだが、別の側面から見るとほぼ全ての本において、洗練された国際社会・政治の教科書なのである。
無政府状態が続き"リアル北斗の拳"状態が続くソマリア(映画『ブラックホークダウン』で御存知の方も多いと思う)の中で、武装解除を行って独立し、平和を享受しているが、国際社会からは全く認められていないソマリランドという国がある。
この国は何なんだ?行って確認してみよう!というところから始まるいつもの高野氏。そして知らず知らず国際社会・政治の勉強を高野氏から受けている読者。
この本の本質は、本の帯に書かれた「西欧民主主義、敗れたり!!」に最も良く表されているのではないかと思う。
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アフリカの角と呼ばれるソマリア。
同一の民族(氏族)でありながら、ある地域は
外国人が寄り付くことすら難しい危険な場所。
海賊がシステマティックなビジネスとなってたり、
イスラム原理主義の過激派アル・シャバーブの放つ
銃声が日々絶えることのない、リアル北斗の拳の世界。
かたや、決して豊かではないけど、外国人がひとりで
自由に街を闊歩できる、内戦のない平和の楽園…
高野秀行だからこそ、命の保証のない戦闘地域に
ひびりながらも調査にいき、ソマリ人の本音を
聞き出すためなら、覚醒植物カートを過剰摂取。
重度の便秘になろうとお構い無し。
そして浮き彫りになったソマリランドとその周辺は、
日本人には想像もできない、合理的かつ臨機応変な
システムを構築した奇跡の国が存在する。
内戦が目とはなの先にあればこそ、いつ瓦解しても
おかしくない、高度で特殊な民主主義が成り立つ。
当たり前は決して正しくない。ただ当たり前なだけ…
でも、当たり前のことをほんとうに当たり前だろと
言い放つことができるのは、真実を覗き見たものだけ
なのだと、感じずにはいられない。さすがやわ(^^)d
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ソマリアって名前を聞いたことがあるけれどどんな国?という程度前知識で読み始めたこの本。筆者の軽妙な語り口と,ソマリアの氏族を戦国武将に例えるという大胆だけどとってもわかりやすい手法をとってくれているので,とても読みやすかったです。
日本にいたら,ほとんど情報の入ってこないこの国に突撃取材して,多くの人たちと語り合い,現地ならではの情報を得てくる筆者の好奇心というか,ジャーナリスト魂に感嘆しました。
「国家」とはなんなのか,「民族やナショナルなものとは何なのか」といういつも自分が考えていることとも思いがけずリンクしていました。いろんな意味で「遠い」と感じてしまいがちなアフリカの紛争や,そこへの国際社会の介入もしくは援助,について考えるきっかけにもなる1冊だと思います。
500ページというすごい分量にも関わらず,とてもさくさくと読めました。続編に期待です!
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これは高野秀行にしか書けない国際社会の本だ。これは高野秀行にしか書けない政
治の本だ。
つまり、この本は高野秀行にしか書けないエンターテイメント国際社会政治ノンフィ
クションだ。
普通の政治学者やジャーナリストがこのソマリランドを取材して発表したとしても、
きっとこんな作品にはならない。「ソマリア共和国内におけるソマリランドの位置づ
けと平和維持と民主化」なんてタイトルで味も素っ気もない論文にしてしまう。
地図で見るとアフリカ大陸がインド洋に向かって角を突きだしたような場所、国際
的には、ソマリア共和国とされる地域にソマリランドはある。
このソマリランドは、紛争が絶えないアフリカ東部にあって例外的に、住民自ら武
装解除を行い内戦を終結させ、複数政党制による民主化、普通選挙による大統領選挙
を行った民主主義「国家」なのだ。
「隣国」のソマリアは、無数の武装勢力が跋扈し「リアル北斗の拳」とも呼ばれて
いるのに。
作者・高野秀行はこの「国」ソマリランド、そしてソマリアについて、ただの個人
的見聞だけでなく、十分な取材をし、歴史面社会面政治面にわたり、まとまった文章
を書きあらわした。
取材方法は、ミャンマーの辺境地域をルポした『アヘン王国潜入記』でもおなじみ
のとにかく行ってみること。取材というよりも体験? 探検?
「自分の目で見てみないとわからない」ということで徹底している。
今回の作品は、いつもの紀行、探検色よりも政治色が強いが、あいかわらず訪れた
場所、出会った人と半端でない関わりを持つ。
ただの一日本人が、ソマリランドについて街ゆく人と激論を交わし、通訳から「兄
弟」と呼ばれるまでになる。
高野秀行の魅力、個性が炸裂する最終章まで読み進んでいってほしい。
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この本はかなりオススメです。
驚かされることばかりです。
そもそも、世界地図に載っている「ソマリア」なる国が、20年以上国としての体をなしていないだなんて知らなかった・・・。
そして、ソマリアの一部が「ソマリランド」として独立を宣言しているものの、全く国として認められておらず、当然国連にも加入していない。そんな自称国家が、国連などの力も借りずに独自に内戦を集結し、複数政党制の民主化に移行し、普通選挙で大統領を選んで、政権交代も行っている!?
無政府状態なのに、携帯電話とインターネット環境だけは費用が異常に安いとか、独自通貨の新規発行ができなくなったからこそ、インフレにならずに済んでいるとか、パラドックスのような話も出てくる。
アフリカの辺境にある国家が、ただ内戦と飢餓に見舞われているだけのところならば、(失礼だが)面白くもなかったのだろうが、「何故か普通選挙、武装解除を達成している」といったイメージのギャップと、覚醒植物を食べつつ現地人に同化しながらその理由を探っていく著者の行動がとても面白い。